今日は何の日?

清杉悠樹

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8/2は何の日?

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「彩ちゃん、どれにするか決まった?」
 どれにしようか決めかねている私の所へ、葵さんは自分が購入する下着を手に持ってやってきた。
 ランジェリーショップ店内は、女性用が多いので明るい色と華やかな下着が多く陳列されている。高価なものもあるけれど、お手頃価格のものも沢山あった。けれど彩華は即決出来ずにメンズ用の下着の中でも落ち着いた色合いの物ばかりを見て回っていた。
「早いですね。もう決まったんですか?」
「そう、見て見る?これなんだけどー」
 そう言って広げて見せてくれたのは、黒の上下揃ったかなり際どいセクシー系。
 スケスケな生地に細やかな幅広レースのキャミソールに、隠す所が出来ないんじゃないかという程の紐パンって!

「ええええぇぇーっ、葵さんこれを買うんですか!?」
 超セクシーな下着を目の前にして彩華は顔が熱くなった。
 葵さんなら似合うとは思うけど!
 自分が着る訳でもないのに、恥ずかしくてどきどき思えるのは想像してしまいそうだからだ。
 わーっっ、駄目駄目、想像禁止!脳内のもやもやを慌てて消し去った。
「そう、ほら私の所って付き合って長いじゃない?ついでに彼氏の分も買ってちょっと刺激を与えたいなあ、なんて」
「な、成程。刺激ですか・・・」
 葵さん達は付き合って5年近いらしいから、そろそろ結婚も考え始めては居るらしい。けれど、相手からははっきりとした言葉でプロポーズを受けていないからやきもきしているんだとこの間愚痴を零していたのだ。
「そう。マンネリな付き合いにこうしたアイテムもたまにはいいわよ?あ、そうだ。彩ちゃんに似合いそうなのを見つけたんだけど、どう?彩ちゃんも買って行かない?」
「ええ?私のお腹今はこんな状態だから、暫くは遠慮しておきます」
 妊娠8ヶ月目となったお腹はまん丸、ぷっくりと膨れている。とても似合うとは思えない。
「ごめん、そっか。そうだよね。私としては刺激が起爆剤となって彼氏からそろそろはっきりとした言葉を聞きたいのよね。もう28なんだし。やっぱり晩婚化が多いと言っても30近いとやっぱり女としては考えちゃうじゃない?ああ、でも、待ちきれないから私から言っちゃおうかしら」
 葵さんから逆プロポーズ!?少し驚いたけれど、なんだか納得も出来る気がした。
「ふふふ。なんだかそういうのも葵さんらしい感じがして私はいいと思いますよ。私がもし相手の男の人なら嬉しいですもん」
 面倒見が良くて、料理上手で食べることが大好きで、背も高くスタイル抜群。そんな人から結婚を申し込まれたら、きっと私なら即承諾しちゃうよ。
「ほんと?パンツの日にちなんでこれを使って実行してみようかしら?ご利益あるかな?」
「えーっと。それは違う意味のご利益もらいそうな気がするんデスガ・・・」
 ここのベビードールを着た私を見て、浩介さんに初めてを貰ってもらったときに、凄ーく喜んでいたのを思い出した。だから、きっとこのベビードールを着た葵さんに夢中になってしまって結婚の話どころじゃなくなってしまう気がしたのだ。
「即物的行為により、授かり婚って?あはは、そうならないように気を付けるわ」
 その後、彩華は普段使い出来そうな無難な下着ボクサーパンツを購入し、葵は割と派手な柄物ボクサーパンツと自分用のベビードールをそれぞれ購入するとランジェリーショップを後にした。二人は真っすぐ彩華の自宅を兼ねたコーヒーショップ・クレマチスへと夕暮れの中歩いて向かって行った。



「お疲れー、じゃあ彩ちゃん、また明日ね。お休みー」
「葵さん、有難うございましたお休みなさい」
 葵は彩華を送り届けるとそのまま店へは入らずに帰っていった。

「ただいまー、くろちゃん」
 彩華の声と一緒に、ドアに付けられたベルの音がチリリンと鳴り響いた。
 ドアを開ける前から入り口の所に猫のくろちゃんが彩華の帰りを待っていてくれたのが見えたのだ。
「お帰りなさい、彩華さん」
 店の片づけをしていた浩介がキッチンの中から柔らかな声を掛けてきた。閉店して他の従業員は帰った後らしく浩介一人だった。
「ただいま、浩介さん。遅くなって御免なさい。今から夕食作るからいつもより時間が遅れるけど待っててね」
 夕食作りは彩華の役割だ。今日は暑かったからさっぱりとしたものを作ろうかな?と冷蔵庫の中身を思い出しながら、メニューを考えていた。
「さっき、うどんを茹でておきましたから、今日は冷やしうどんにしませんか?」
「えっ、浩介さんもう茹でてくれたの?有難う」
 こういう時、とても助かる。
「浩介さん、大好きー」
 大きなお腹が邪魔をするけど、抱き付いて感謝を表した。カフェエプロンは外していたけど浩介さんの白いシャツと黒いベストからはコーヒーのいい匂いがした。暫くそのまま抱き付いていると頭をなでなでされた。
 ああ、幸せ。
「でもトッピングはまだ作ってないので、後で錦糸卵を作ろうかと思ってたんですよ」
「じゃあ、私キュウリとカニカマとトマトの準備するね。あ、オクラと刻み海苔も乗せちゃう?」
「いいですね」
 具沢山な冷やしうどんになりそうだった。



 夕食を食べ終えた後はリビングでまったりとコーヒーで一息。彩華が浩介に淹れてもらって飲んでいるのはノンカフェインだ。傍にはくろちゃんが寝そべっている。
「浩介さんに質問です。8月2日の今日は何の日でしょうか?」
 唐突に彩華は質問を出した。
「今日、ですか?何かありましたか?俺の誕生日は明日ですからそれとは違うんですよね?」
「違う、違う。ふふふ。あのね、実は浩介さんに渡したいものがあるの。あ、これは誕生日プレゼントじゃないからね」
 ローテーブルの下に置いておいた袋を取り出し、浩介に手渡した。
「俺に?」
「どうぞ、開けてみて?」
「有難うございます。何でしょう」
 小さなショッピングバッグを浩介は開けて取り出すと、ビニールに包まれた中身を見て驚いた顔をしていた。
「これ、メンズ用の下着ですか?」
「そうでーす。今日ね、仕事でラジオ聞いてたら8月2日は『パンツの日』なんだって。『女性が本命の男性にこっそりパンツをプレゼントする日』と言ってたから買ってきたの。どう、驚いた?」
「ええ、驚きました。でも、彩華さんも意外と積極的ですね」
 ん?
「何が?」
「妊娠中だから無理なことはさせられませんから、明日はこれを穿いた俺に彩華さんがご奉仕してくれるんですよね?」
 んんんんん?
「手でも口でもどちらでも構いませんよ」
「えええー!?」
 そんなつもりで買ったんじゃないんですけどー!そう言いかけだ彩華の唇に、浩介は自分の右手の人差し指をそっと当てると、妖艶な笑みを浮かべた。
「俺の誕生日でもありますし、期待してますね」
 と断言すると、指を外して軽くキスを落とされた。
「約束ですからね」

 軽く驚かすだけのつもりだったのに、とんでもない約束になってしまい彩華は後悔しまくったのだった。
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