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21 懸念材料
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必死に誤魔化してご飯を食べている私の姿が可笑しいと、雫は自分もご飯を食べながら笑った。
「ところで寺井さん。日曜の桃子の服装、どうでした?気に入りました?」
驚きが一段落すると、雫は自分のご飯を食べながら、同時に好奇心も満たすために横にいる相手へと触接質問し始めた。
ぎょっとする私を尻目に二人の会話が始まった。
「ちょっ、ちょっと、雫!昨日説明したでしょう?あれじゃあ足りなかったわけ?」
私の箇条書きの説明じゃあ物足りなく思っていたらしい。焦る私はまるっと雫に無視された。
「白石さんのアドバイスだったのですか。勿論です。お陰で大変いい休日を過ごすことが出来ました。有難うございます」
寺井さんは珍しく柔らかな表情を浮かべている。
む、むう。そんな顔をされたら、口出し出来なくなっちゃった。私のショートパンツ姿を思い出していたりして。いや、ないか。
雫は何も言わなかったけれど、社内では常に冷静沈着で、笑っている所など見たことがないと言う寺井さんが微笑んだものだから、珍しいものを見たという風にちょっと目を見張っていた。
お試しデートは予想以上に楽しかった。だから次の初詣も凄く楽しみにしている。楽しかったのは多少のアドバイスを貰った雫のお陰でもあるかなと思いなおし、私は大人しく食べることに専念することにした。
「前から勿体ないって思ってたんですよねー。サイズのあってない服とか、いつもパンツスーツばっかりだし」
「いえ、私としてはその方が安心です」
何やらおかしな方向へと話が進みはじめた。
安心って何?
「今でも十分魅力的なのに、これ以上男の目を惹き付けるようなことはなるべく控えて欲しいですから」
ぶはっ。
今度は雫も一緒に噴出した。
「む、昔から全然モテた試しがないですから、そんな心配なんてしなくていいですから」
というか、一度もそんな経験はない。要らぬ心配というやつだ。寺井さんも臆面もなくそういうことを面と向かって言わないで欲しい。
「いえ、本当の事ですよ」
真面目に言われてしまい、どう反応すればいいのか困った。頭の中ではほっぺにチューのシーンが浮かんで更に動揺。俯いて食事をすることにした。
その後は三人は黙って食事をした。何とか全部を完食することが出来た。でも、何かをごっそり削られ、食事をした後だと言うのに疲れが溜まった気がした。
食べ終えて三人とも立ち上がろうとしたところに、今頃になって食堂へやってきた長谷川君がきょろきょろした後、私を見つけると傍までやってきて何かを差し出してきた。
「安川。これ、あげる。気休めかもしれないけど」
思わず差し出してしまった掌に乗せられたのは、手のひらサイズの箱に入ったのど飴だった。
「え?」
のど飴?
オレンジ味ののど飴の箱を見て私はきょとんとしてした。
「白石から風邪気味って聞いたから。病院もそろそろ年末の休みに入るから、早く治した方がいい。もし酷くなりそうなら今日にでも行った方がいいと思う」
しーずーくー。ほら、嘘なんかつくから~。長谷川君私が風邪をひいてるって信じてるじゃないの。どうしてくれるのよー。
じとっと元凶を睨むも、そっぽを向いて知らん顔をしている。
後で見てなさいよ。
「ええーと、大丈夫。何ともないから。でも有難う、長谷川君、わざわざ買って来てくれたんだ」
声に動揺が混じった。
ビニール袋から出したから会社の外へ行って買って来てくれたものなんだろう。風邪なんて引いてないと正直に言ってもいいのだけれど、ここは穏便に済ませた方がいいだろうと判断をした。私まで嘘に加担してしまったようで、ちょっと心が痛んだ。
くうっ、これも全部雫のせい・・・って、そもそも自分の挙動不審な態度のせいだった。反省。
「ああ、いや、ガムが欲しくてコンビニに寄ったからついでに、だよ。嫌いな味だったら御免」
「ううん、オレンジは好きだから。有難う」
長谷川君のその気遣いが嬉しい。思わず顔がほにゃっとなった。
「!!っ、じゃっ、じゃあそう言う事でっ」
長谷川君は私のお礼を聞いたかと思うと、顔を赤くして急にくるりと身を翻すと、食堂からそそくさと走り去っていった。
「のど飴貰っちゃった。もー、雫が風邪っぽいなんて嘘つくから。それにしても急に走り出したりなんかして、午後から何か急ぎの仕事でもあったのかな」
直ぐに見えなくなった後姿に、私はぽつりと呟いた。
「あーあ、長谷川は相変わらず・・・」
雫はヘタレだねーとは続けようとして慌てて口を噤んだ。あれはオレンジは好きだからと言った「好き」に反応したに違いないと思った。
すぐ横にまだ仮とは言え、桃子と付き合っている上司がいるからだ。長谷川が桃子に気があると、私がばらしてしまうのは拙いと思ったからだ。
「やはり長谷川さんが、一番侮れない要注意人物ですね」
ところが、凄味を滲ませたような低い上司の声が聞こえてきた。
「あれー、もう既にしっかりバレてるっぽい感じー。寺井さん、どうして分かったんですか?」
雫は思わずじろじろと上司を見た。
「逆に何故分からないのかと聞かれることの方が、不思議なくらいあからさまだと思うのですが」
寺井さんは心外だと言わんばかりだ。
「ですよねー。当の本人以外は」
あのー、どういうことですか?
私には雫と寺井さんのやり取りが意味不明だった。
「何の話?」
質問した私は寺井さんと雫の2人にじいっと見つめられた。
私にも分かるように説明が欲しかったのに、雫から憐みの目を向けられた。
「天然すぎるわ。可哀想に、長谷川も。色んな意味で」
「いえ、そんなところも安川さんの魅力の一部だと私は思いますが」
何のなのよー、一体。もう。分かるように説明して!
「ところで寺井さん。日曜の桃子の服装、どうでした?気に入りました?」
驚きが一段落すると、雫は自分のご飯を食べながら、同時に好奇心も満たすために横にいる相手へと触接質問し始めた。
ぎょっとする私を尻目に二人の会話が始まった。
「ちょっ、ちょっと、雫!昨日説明したでしょう?あれじゃあ足りなかったわけ?」
私の箇条書きの説明じゃあ物足りなく思っていたらしい。焦る私はまるっと雫に無視された。
「白石さんのアドバイスだったのですか。勿論です。お陰で大変いい休日を過ごすことが出来ました。有難うございます」
寺井さんは珍しく柔らかな表情を浮かべている。
む、むう。そんな顔をされたら、口出し出来なくなっちゃった。私のショートパンツ姿を思い出していたりして。いや、ないか。
雫は何も言わなかったけれど、社内では常に冷静沈着で、笑っている所など見たことがないと言う寺井さんが微笑んだものだから、珍しいものを見たという風にちょっと目を見張っていた。
お試しデートは予想以上に楽しかった。だから次の初詣も凄く楽しみにしている。楽しかったのは多少のアドバイスを貰った雫のお陰でもあるかなと思いなおし、私は大人しく食べることに専念することにした。
「前から勿体ないって思ってたんですよねー。サイズのあってない服とか、いつもパンツスーツばっかりだし」
「いえ、私としてはその方が安心です」
何やらおかしな方向へと話が進みはじめた。
安心って何?
「今でも十分魅力的なのに、これ以上男の目を惹き付けるようなことはなるべく控えて欲しいですから」
ぶはっ。
今度は雫も一緒に噴出した。
「む、昔から全然モテた試しがないですから、そんな心配なんてしなくていいですから」
というか、一度もそんな経験はない。要らぬ心配というやつだ。寺井さんも臆面もなくそういうことを面と向かって言わないで欲しい。
「いえ、本当の事ですよ」
真面目に言われてしまい、どう反応すればいいのか困った。頭の中ではほっぺにチューのシーンが浮かんで更に動揺。俯いて食事をすることにした。
その後は三人は黙って食事をした。何とか全部を完食することが出来た。でも、何かをごっそり削られ、食事をした後だと言うのに疲れが溜まった気がした。
食べ終えて三人とも立ち上がろうとしたところに、今頃になって食堂へやってきた長谷川君がきょろきょろした後、私を見つけると傍までやってきて何かを差し出してきた。
「安川。これ、あげる。気休めかもしれないけど」
思わず差し出してしまった掌に乗せられたのは、手のひらサイズの箱に入ったのど飴だった。
「え?」
のど飴?
オレンジ味ののど飴の箱を見て私はきょとんとしてした。
「白石から風邪気味って聞いたから。病院もそろそろ年末の休みに入るから、早く治した方がいい。もし酷くなりそうなら今日にでも行った方がいいと思う」
しーずーくー。ほら、嘘なんかつくから~。長谷川君私が風邪をひいてるって信じてるじゃないの。どうしてくれるのよー。
じとっと元凶を睨むも、そっぽを向いて知らん顔をしている。
後で見てなさいよ。
「ええーと、大丈夫。何ともないから。でも有難う、長谷川君、わざわざ買って来てくれたんだ」
声に動揺が混じった。
ビニール袋から出したから会社の外へ行って買って来てくれたものなんだろう。風邪なんて引いてないと正直に言ってもいいのだけれど、ここは穏便に済ませた方がいいだろうと判断をした。私まで嘘に加担してしまったようで、ちょっと心が痛んだ。
くうっ、これも全部雫のせい・・・って、そもそも自分の挙動不審な態度のせいだった。反省。
「ああ、いや、ガムが欲しくてコンビニに寄ったからついでに、だよ。嫌いな味だったら御免」
「ううん、オレンジは好きだから。有難う」
長谷川君のその気遣いが嬉しい。思わず顔がほにゃっとなった。
「!!っ、じゃっ、じゃあそう言う事でっ」
長谷川君は私のお礼を聞いたかと思うと、顔を赤くして急にくるりと身を翻すと、食堂からそそくさと走り去っていった。
「のど飴貰っちゃった。もー、雫が風邪っぽいなんて嘘つくから。それにしても急に走り出したりなんかして、午後から何か急ぎの仕事でもあったのかな」
直ぐに見えなくなった後姿に、私はぽつりと呟いた。
「あーあ、長谷川は相変わらず・・・」
雫はヘタレだねーとは続けようとして慌てて口を噤んだ。あれはオレンジは好きだからと言った「好き」に反応したに違いないと思った。
すぐ横にまだ仮とは言え、桃子と付き合っている上司がいるからだ。長谷川が桃子に気があると、私がばらしてしまうのは拙いと思ったからだ。
「やはり長谷川さんが、一番侮れない要注意人物ですね」
ところが、凄味を滲ませたような低い上司の声が聞こえてきた。
「あれー、もう既にしっかりバレてるっぽい感じー。寺井さん、どうして分かったんですか?」
雫は思わずじろじろと上司を見た。
「逆に何故分からないのかと聞かれることの方が、不思議なくらいあからさまだと思うのですが」
寺井さんは心外だと言わんばかりだ。
「ですよねー。当の本人以外は」
あのー、どういうことですか?
私には雫と寺井さんのやり取りが意味不明だった。
「何の話?」
質問した私は寺井さんと雫の2人にじいっと見つめられた。
私にも分かるように説明が欲しかったのに、雫から憐みの目を向けられた。
「天然すぎるわ。可哀想に、長谷川も。色んな意味で」
「いえ、そんなところも安川さんの魅力の一部だと私は思いますが」
何のなのよー、一体。もう。分かるように説明して!
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