上 下
212 / 234

―第二百十話― 報奨金

しおりを挟む
 …………。
 ギルドの中に入ると、様々な視線が俺たちに向けられた。
 ……あまり心地の良いものではないな。
 というか、ギルドに呼ばれる事にも、この視線にも、まったくもって心当たりがないのだが。
 そんな風にどぎまぎしているうちに、ギルドのお姉さんがギルドの中心で止まり、俺たちもそれにならって立ち止まった。

「リアトリスさん、ジャスミンさん、ツツジさん、ローズさん。先の戦闘における皆様の活躍を称え……」

「ちょ、ちょっと待ってください!」
「……なんですか?」
「いや、急に呼び出されて、活躍だなんだと言われても、何の心当たりもないんですけど!?」
「そんな、ご謙遜なさらずに」

 いや、謙遜とかじゃないんだが。

「クレマチス王国で、アルネブを撃退したのではないのですか?」
「……あ、そのことですか」

 ……ん?
 それでも、なんで呼び出されたんだ?

「はい。もういいですか? ……それでは、改めまして。皆さまの活躍を称えまして、我らが国王陛下及び、クレマチス王国国王より報奨金を進呈いたします!!」

 その言葉に、ギルド中から『わー!』という歓声が轟いた。

「それでは、リアトリスさん。こちらへ」

 ギルドのお姉さんに促され、三歩ほど前へ行く。
 すると、お姉さんの後ろから、大きな革袋を持った騎士が一人現れた。

「それでは、こちらをお受け取り下さい」

 騎士が恭しく渡してきた革袋を、こちらも丁重に受け取る。
 ずしっとした重みが両手にかかり、思わず重心が前に傾いてしまった。

「重っ……!」

「そりゃあそうですよ。その中身、全部金貨なんですから」

「「「「……は!?」」」」

 俺たちパーティーメンバーを含め、ギルド中から間の抜けた声が轟いた。
 ……えっ、これ全部金貨……!?
 はっ、え、は、マジで!?

「皆様、本当におめでとうございます!! 今後も頑張ってください!!」

 ようやく事態を飲み込みかけたであろう冒険者たちからの歓声が、再び響いた。

「流石リアトリス達だ!!」
「いや、俺はいつかやると思ってたね」
「おい、今度金貸してくれ!! 賭場で全部すっちまったんだ!!」
「ねえ、私今、物凄ーくありがたい壺を持ってるんだけど、買ってくれないかな!?」

 ……失礼、歓声とはまた別のものかもしれない。
 それでも、ギルド内が大騒ぎになっていることは確かだ。
 そんな中、当の俺たちはと言うと……。

「お、おお、おい、おいおいおい! これ、どうすんの!?」
「どうするも何も、まずは山分けして、それから銀行に……」
「こ、これだけあったら、最新式の最高級防具が、えーっと……、たくさん買える!」
「ジャスミンちゃん、これだけあったら、もしかして、この間見てた服も……!」
「それどころか、店中の服が買えるわよ! となったら、銀行には幾らかだけ持ってって、後は、えーっと……」
「というか、重たいから誰か手伝ってくれ!」

 ……ギルド内の連中に負けず劣らず、てんやわんやしていた。



 その後半日ほど、ギルド内の興奮は醒めず、最後には軽い宴会のような状態になっていた。
 もちろんというかなんというか、会計はすべて俺らもちで。
 流石に報奨金の中から払うのは忍びなかったので、俺が自腹を切ることにしたが、大いに盛り上がったからよしとしよう。
 というか、俺自身ちょっと……、いや、めちゃくちゃ楽しかったしな!
 といった感じで開かれた宴会を楽しんだ俺は、非常にいい気分で家に帰ってきていた。

「たっだいまー!! アハハハハハ!!」

 何も面白い事はないのだが、何故か笑いが込み上げる。
 俺、笑い上戸だったっけな。
 ま、そんなことはいいや!
 ソファに全身を預け、ひんやりとした感触を全身に浴びる。
 あー、気持ちいい。
 …………。

「忘れてた!!」

 バッと体を起こし、冷水を一気飲みする。
 ……よし、酔いは醒めたな。
 ソファの上で寝かかってたけど、あのまま寝てたら修行じゃん!
 流石に、あんなテンションでまともな修行が行えるとは思えない。
 ……楽しい気分はここまでだ。
 ここからは、また別の楽しみを味わわなければ。

 今さっきまでのとは異なる高揚感が、全身を襲う。
 ジャスミンの言った、修行を楽しむ、ができている証拠なのだろう。

 ……よし、今日こそは勝つぞ……!

 そう決心を固め、再びソファに腰を下ろす。
 まだ完全に酔いは醒めていないため、気を抜けば今すぐにでも眠れそうだ。
 …………。
 目を瞑り、深呼吸をしながら、全身の力をゆっくりと抜いていく。
 そうしていると、自然と笑みが零れてくる。
 今日も、楽しい夢が見れそうだ。

「おやすみ」

 虚空にそう呟き、俺は意識を手放した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...