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―第百九十二話― いつか会ったら
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……リアが目覚めるよりも少し前の事。
「「「…………」」」
私、ツツジ、ローズの三人の間に、気まずい空気が流れる。
……私がローズに怒鳴ってしまったせいだ……。
いくらリアが心配だとは言っても、もう少し冷静になるべきだった。
…………。
「……その、ローズ……。……ごめん……」
「いや、いいよ。僕が悪いんだから……」
「ううん、ローズは悪くない。私も、同じ立場だったらそうしてたから……」
そこで会話が止まり、再び沈黙が始まった。
……リアは大丈夫なのだろうか。
信じるしかない、それは分かっている。
分かってはいても、心配だ。
……ううん、リアは強いから、きっと大丈夫。
この世界の誰よりも強いんだから……。
だから……、大丈夫……。
「……二人は、ここに残っておいてくれ」
力なく壁に寄り掛かっていたローズが、ぼそっとそれだけ言い、剣を差し直し始めた。
「……一人で行くつもり?」
「……二人は、万が一街に何かあったとき、残っておいたほうが良いだろう?」
「ふざけないで!!」
私よりも先に、ツツジの怒号が飛ぶ。
「お兄ちゃんの事が心配なのは、全員一緒でしょう!? だからこそ、ここで待ってなきゃいけないの! お兄ちゃんが、全部終わらせるまで……!!」
それを聞いたローズは、顔を伏せ、悔しげな表情で再び壁に寄り掛かった。
……ツツジの言うこともわかる。
きっと、今リアのところにいったら、私たちは邪魔になってしまう。
だから、リアもあんな指示をしたのだろう。
……でも、ローズの言うことだって、痛いほどわかる。
私も、同じ気持ちなのだから……。
……その時――
――パリン!!
涼しげな音を立て、街に張られていた魔方陣が崩壊した。
……リアがやったんだ!!
恐らく、二人も同じ結論に達したのだろう。
お互いに顔を見合わせ、ローズの伸ばした手に応えるようにして、手を伸ばした。
「『シンメトリック』!!」
◆
「……あら、もう来ちゃったのね……」
……ッ!!
リアの全身が、アルネブの触手に包まれていた。
咄嗟に武器を抜き、アルネブの頭に切りつける。
……が、当然のように切られた頭部は元に戻った。
「……やめてちょうだい。もう戦う気なんてないの。……ぐっ。これね、リアトリス君が言ってた呪いは……」
「……ジャスミン、ローズ、武器を降ろしましょう。こいつに戦意がないのは、本当だから……」
「…………」
ツツジの言う通りに剣を降ろす。
確かに、殺意やそういった類のものは感じない。
……それでも、万が一に備え、いつでも武器を抜けるように構える。
「……ありがとう。まさか、あんたが味方してくれるとはね、ツツジ」
「……味方になったつもりはないわ。ただ、お兄ちゃんを人質にとられてるみたいな状況になっちゃってるから、そうしただけ」
それを聞いたアルネブは、悲し気な笑みを浮かべ、リアから触手を離した。
「これでどうかしら? 傷を癒しきることはできなかったけど、もう少ししたら、お話しできるくらいにはなるはずよ」
「……回復してたの……!? あんたが!?」
「……ええ、まあ。昔、先生が教えてくれたのを思い出しながらだから、完璧ではないけど……」
「……そう……」
ツツジとアルネブの会話を聞きながら、ほんの少しだけ、腕の力を緩める。
……どうやら、本当に戦う気はないらしい。
「さて、私はそろそろ帰らせてもらうわ。あなたたちが来たんなら、もうやることもないしね」
「……待ちなさい、アルネブ」
「……なに?」
アルネブの肩を掴み、引き留める。
「どうして、リアを助けたの?」
「……私の恩師に教わった通りにしただけ。それに、リアトリス君に時限爆弾みたいなものを仕掛けられちゃった以上、悪いことできないのよ」
そこまで言い、アルネブは私の手を優しく振り払って、ずるずると足を引きずりながら歩き始めた。
「……あ、そうそう。リアトリス君が起きたら、伝えてほしい事があるの。良いかしら、ツツジ?」
「……なに?」
「いつか会ったら、おすすめの温泉を教えてあげる、……って」
「「「…………」」」
私、ツツジ、ローズの三人の間に、気まずい空気が流れる。
……私がローズに怒鳴ってしまったせいだ……。
いくらリアが心配だとは言っても、もう少し冷静になるべきだった。
…………。
「……その、ローズ……。……ごめん……」
「いや、いいよ。僕が悪いんだから……」
「ううん、ローズは悪くない。私も、同じ立場だったらそうしてたから……」
そこで会話が止まり、再び沈黙が始まった。
……リアは大丈夫なのだろうか。
信じるしかない、それは分かっている。
分かってはいても、心配だ。
……ううん、リアは強いから、きっと大丈夫。
この世界の誰よりも強いんだから……。
だから……、大丈夫……。
「……二人は、ここに残っておいてくれ」
力なく壁に寄り掛かっていたローズが、ぼそっとそれだけ言い、剣を差し直し始めた。
「……一人で行くつもり?」
「……二人は、万が一街に何かあったとき、残っておいたほうが良いだろう?」
「ふざけないで!!」
私よりも先に、ツツジの怒号が飛ぶ。
「お兄ちゃんの事が心配なのは、全員一緒でしょう!? だからこそ、ここで待ってなきゃいけないの! お兄ちゃんが、全部終わらせるまで……!!」
それを聞いたローズは、顔を伏せ、悔しげな表情で再び壁に寄り掛かった。
……ツツジの言うこともわかる。
きっと、今リアのところにいったら、私たちは邪魔になってしまう。
だから、リアもあんな指示をしたのだろう。
……でも、ローズの言うことだって、痛いほどわかる。
私も、同じ気持ちなのだから……。
……その時――
――パリン!!
涼しげな音を立て、街に張られていた魔方陣が崩壊した。
……リアがやったんだ!!
恐らく、二人も同じ結論に達したのだろう。
お互いに顔を見合わせ、ローズの伸ばした手に応えるようにして、手を伸ばした。
「『シンメトリック』!!」
◆
「……あら、もう来ちゃったのね……」
……ッ!!
リアの全身が、アルネブの触手に包まれていた。
咄嗟に武器を抜き、アルネブの頭に切りつける。
……が、当然のように切られた頭部は元に戻った。
「……やめてちょうだい。もう戦う気なんてないの。……ぐっ。これね、リアトリス君が言ってた呪いは……」
「……ジャスミン、ローズ、武器を降ろしましょう。こいつに戦意がないのは、本当だから……」
「…………」
ツツジの言う通りに剣を降ろす。
確かに、殺意やそういった類のものは感じない。
……それでも、万が一に備え、いつでも武器を抜けるように構える。
「……ありがとう。まさか、あんたが味方してくれるとはね、ツツジ」
「……味方になったつもりはないわ。ただ、お兄ちゃんを人質にとられてるみたいな状況になっちゃってるから、そうしただけ」
それを聞いたアルネブは、悲し気な笑みを浮かべ、リアから触手を離した。
「これでどうかしら? 傷を癒しきることはできなかったけど、もう少ししたら、お話しできるくらいにはなるはずよ」
「……回復してたの……!? あんたが!?」
「……ええ、まあ。昔、先生が教えてくれたのを思い出しながらだから、完璧ではないけど……」
「……そう……」
ツツジとアルネブの会話を聞きながら、ほんの少しだけ、腕の力を緩める。
……どうやら、本当に戦う気はないらしい。
「さて、私はそろそろ帰らせてもらうわ。あなたたちが来たんなら、もうやることもないしね」
「……待ちなさい、アルネブ」
「……なに?」
アルネブの肩を掴み、引き留める。
「どうして、リアを助けたの?」
「……私の恩師に教わった通りにしただけ。それに、リアトリス君に時限爆弾みたいなものを仕掛けられちゃった以上、悪いことできないのよ」
そこまで言い、アルネブは私の手を優しく振り払って、ずるずると足を引きずりながら歩き始めた。
「……あ、そうそう。リアトリス君が起きたら、伝えてほしい事があるの。良いかしら、ツツジ?」
「……なに?」
「いつか会ったら、おすすめの温泉を教えてあげる、……って」
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