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―第百八十三話― アルネブ

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「……ツツジを?」
「ええ。一緒にクレマチスまで来てるんでしょう?」
「……いいや」
「あら、一緒に観光してたじゃないの」
「……チッ」

 流石に騙せないよな、分かってたけど。
 ……さて、どうしようか。
 戦闘に持っていくにしても……、いや、今はちょっと厳しいかな。
 ……そんなことを言ってる場合でもないかもしれないが。
 話し合いで終わってくれたらいいんだけどな。

「それで、どうするの? ツツジを大人しく引き渡してくれれば、この街の人間を全員無事に返してあげるけど」
「……もし断ったら?」
「殺すけど。当然でしょ?」

 ……ハァ。
 旅行くらい、最後までゆったりと終わりたかったんだけどな……。
 …………。

「ほら、早く選びなさい。ツツジか、町の人間か。秤にかければ、どっちを選ぶべきかなんて、分かりきっているでしょう?」
「……そうだな」

 短剣を抜き、腰を落とし、軽く構えを作る。

「街を守るのも、仲間を守るのも、どっちも俺の務めだ。面倒だけど、これでも一応は、パーティーのリーダーやってるからな」
「……そう。強欲な人ね」
「それが俺なんでな」

 薄っすらと笑みを浮かべたアルネブが、片手を街の方に向けた。

「それじゃあ、死んでもらうわね」
「させねーって言ってんだろうが!! 『移動』!!」

 アルネブの正面に立ち、腕を思い切り蹴飛ばす。

「『移動』、『爆発』!!」

 ……ローズ、合図だ!

「……なるほど。これは、一筋縄ではいかなそうね」

 ヒュッと飛んできた魔法弾を、身を捻って躱す。

「いいわ、徹底的に戦いましょう! 私も、本気でやってあげるわ!!」
「そりゃあ、嬉しいこった!」

 こちらへ素早く距離を詰めてきたアルネブが、そのまま首に向かって短剣を振り下ろす。
 それを身を屈めて躱し、俺も合わせるようにして、短剣を振り上げる。

「『切断』!!」

 能力を込めた斬撃を放つ。
 ……が、すんでのところで避けられてしまった。
 ……くそっ……。

「『切断』!!」

 腕に向かって斬撃を飛ばす。

「……ッ。うそ……!?」

 アルネブの片腕が少し離れたところに落ちる。
 ……まずは片腕。

「『爆発』!!」

 アルネブの背後に爆発を起こす。
 だが、それはさすがに避けられてしまう。

「……ほら、お前らの大好きな取引だ。今すぐにここから退いてくれれば、命までは取らないが……、どうする?」
「……いくらあなたの頼みでも、そこまではできないわ」
「そうか……」

 元々期待してなかったしな。

「『切断』、『燃えろ』!!」

 アルネブに向かって、炎を纏った斬撃が飛ぶ。
 ……いいかげん、終わらせないとまずい。
 というか、ローズたちは大丈夫なのだろうか。
 ……一番いいのは、ローズたちがここに来るよりも先に、こいつを仕留めることなのだが……。

「……さ、演技はここまでね」
「……は!?」

 切り落とされた方のアルネブの腕から大量の触手が伸び、俺の斬撃は一瞬で飲みこまれた。

 ……あれは、サントリナの……!?
 ……いや、似ているが、全く別物だ。

「よいしょっと。ほら、早く続きをやりましょう」

 先程俺が飛ばした腕を拾い、当然のようにくっつける。

「お前、何者だ?」
「……まあ、スライムの一種と考えてくれればいいわ」

 ……スライムか……。
 これは、少々厄介だな。
 スライムは、体内にある核を破壊しない限り、幾らでも再生してきやがるんだよなあ……。

「……もう、いいや」
「なにか言ったかしら?」
「いいや、なにも」

 魔力を練り、能力の準備をする。
 呪縛……は、やめておこう。
 あれは、ほんとのホントの最終手段だ。

「『移動』」

 アルネブの背後に回り込む。

「『細断』!!」

 能力を使い、アルネブの体を切り刻む。
 ……ぐっ……!!

「その程度の攻撃は、私には効かないわよ」
「……あっそ……! 『移動』!」

 運良く核を切れればと思ったんだけどな。

「『爆発』、『爆発』、『爆発』……!!」

 アルネブのいたあたりに、幾度も能力を放つ。

「そんな雑な攻撃、当たるはずがないでしょう?」
「うる、せえ……!! 『爆発』、『爆発』……、『爆、発……。ぐっ……がはっ……!!」
「……え?」

 アルネブの呆然とした声と、俺の咳き込む音だけが、辺りにこだました。
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