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―第百五十三話― 大家さん

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「『移動』!!」

 間一髪のところで能力を使い、家の外に飛び出す。
 …………。
 後ろで何が起こっているのかなんて、考えたくもない。
 だが、見ないわけにもいかないだろう。
 恐る恐る振り返る。
 俺は目の前に広がっている光景に、口をあんぐりさせた。

「……あのー、ごめんね?」
「…………」

 家が完全に崩壊していた。
 それはもう見事に、原型を一切残さずに崩れていた。
 いや、確かにこの家はめちゃくちゃぼろかった。
 とはいえ、こんな壊れ方をするなんて、夢にも思わなかった。

「……ジャスミン」
「……は、はい……」

 こっそりと逃げようとするジャスミンの肩を捕まえ、ぼそっと呟く。

「ちょっと行きたいところがあるんだが、一緒に来てくれるよな?」
「はい」

 珍しく肩をすぼませたジャスミンを引き、俺は大家さんの家に向かった。



「──てことがあったんです」
「……は?」

 とりあえずは、と思い状況を説明したのだが、まあ当然この反応だ。

「……えっと、本当に?」
「本当です」
「す、すみません……」
「い、いや、いいんだよ。あの家、いつ建てられたのかも分からないくらい古いものだったし……」

 そういう大家さんの顔は真っ白に染まっている。
 まあ、自分の貸していた家がノックでぶっ壊れましたなんて、にわかには信じられないだろう。

「……一応、整備不足だったうちにも過失はあるんだろうし、次の家探しには協力するよ。ハハハ……」

 目が笑ってない、とういうか死んでる。

「いえ、こいつに手伝わせるんで、お気持ちだけ受け取っておきます。あと、弁償もしますんで」
「いや、いいよ。元々資産的な価値も殆どないような家だから。損害だって、他の収入とかからまかなえるはずさ……」

 明らかに目に落胆の色が浮かんでいる。
 ……家賃、そこそこ払ってたからな。
 かなりの痛手なのかもしれない。

「不動産の方には、僕から少し口利きしておくよ。ちょっとは家探しも楽になるかもしれないからね」
「すみません、本当にありがとうございます。散々お世話になってきたのに……」
「まあ、君以外に住みたいなんて人がいなかった家だし、取り壊す手間が省けたと思えばね。またなんか、縁があったらよろしくね」
「ほんとありがとうございます」

 ジャスミンと一緒に深々と頭を下げる。

「今度は、二人の愛の巣が欲しくなった時にでも来なさいな」

「「は!?」」
「あれ? 付き合ってるとかじゃないの?」
「違いますよ、ただの冒険者仲間です! な、ジャスミン!?」
「う、うん!」
「焦り過ぎだよ。ちょっとからかっただけさ」

 この人の情緒が分からない。

「あの、本当に申し訳ございませんでした」
「冒険の方も頑張ってね。応援してるから」
「ありがとうございます……」

 お辞儀をして扉を出る俺にひらひらと手を振る大家さんを見て、心の底から申し訳なく思った。
 あと、弁償だけは絶対にしておこう。
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