上 下
142 / 234

―第百四十一話― 洞窟潜り

しおりを挟む
 真っ暗な洞窟の中をすたすたと歩き進める。
 ……まあ、真っ暗とは言っても能力で昼間と変わらないくらいはっきりと見えてるんだけど。
 ……もう、クエストを受注してから約半日ほどが経過しただろうか。

 俺はなんと、たった一人でクエストを受注したのだ!

 ……ジャスミンからは、明日槍でも降るのではなどと失礼な物言いをされたが。

 クエスト内容自体は、未開拓の洞窟の調査と魔物の退治だけだから、難易度もそこまで高くはない。
 なんでも、強い魔物をあらかじめ消しておいて、初心者用の洞窟にしておきたいのだそうだ。
 だから、今回は宝物を漁ったりもしてはいけないらしい。
 まあ、元からするつもりないけど。
 そんなことをしなくたって、俺には十分金があるからな!

「『切断』」

 スッと手刀を振り、静かに魔物を倒す。
 ……だめだ、こんなのじゃ。
 俺は、強くなるためにわざわざクエストを受けたのだから。
 未開拓の洞窟であれば、強いボスがいる可能性だってある。
 それを利用して、少しでも強くならねば……。

「『浄化』」

 アンデッドか。
 こんなのを相手する時間なんてないが、クエストの指示だからな……。
 なるべく急いで倒していこう。



 ……もうそろそろ中腹に差し掛かったくらいだろうか。
 すでに洞窟に潜って一日は経過したはずだ。
 能力があるので、睡眠をとる必要もなければ、食料も大量に用意してきたから問題ない。
 ……もっとペースを上げるか。

「『浄化』」

 洞窟内は、やはりアンデッドモンスターが多いな。
 ここから下に下がっていけば、また別種の魔物が出るのだろう。
 ……早くも面倒くさくなってきた。



 ……魔力が濃いな。
 この感じだと、最奥までもう少しといったところだろう。
 洞窟の天井の高さもだんだんと高くなってきている。
 ……ということは、大型の魔物がいると考えたほうが良さそうだな。

「『切断』」

 目の前に現れた数体のゴブリンを一瞬で始末する。
 ……違う、俺が求めているのは、もっとこう……!

 どこからか、地鳴りのような咆哮が聞こえてくる。
 それと同時に、重たい足音が響いてくる。

 ……距離は数十メートル離れているはずだ。
 ……この分だと、とっくに気付かれてたっぽいな。

 ――ゴルルルルル。

 全身にびりびりするような威圧感を感じる。
 ……恐らくは、ここのボスを守るために作られたであろうモンスター。

「ヒュドラ……か」

 幾つもの首をしならせ、こちらを威嚇してくる。
 ……はぁ。

「『移動』」

 唐突に飛んできた毒液を能力で易々と回避する。
 すると、背後から岩が溶けだす音が聞こえてきた。
 ……なるほど、これは喰らったらやばいな。
 ……でも。

「『細断』」

 本来、ヒュドラというのは高レベル冒険者のパーティーで挑んでやっとの相手だ。
 だが、そんなのは関係ない。
 全ての首が重力に従って落ち、両断された胴体も左右に倒れた。

 ……ようやく最奥だ。
 今までろくに冒険してないからいまいち分からないが、初心者には向かないレベルの深さじゃないか?
 ……まあ、今はクエストのクリアが最優先だ。

「邪魔するぞ」

 重たい扉を無理矢理こじ開け、申し訳程度の挨拶をする。

「ようこそ、我がダンジョンへ!! そして、よくぞここまで辿り着いたな。だがしかし! 我の力の前では、貴様の様な冒険者など……」
「『爆』」

 目の前の仰々しい鎧を着た魔物の横に、軽い爆発を起こす。

「口上は早く済ませてくれ。俺は今、気が立ってるんだ」
「…………。ま、まあよい。いざ尋常に、勝負……!?」

 短剣を抜き、一瞬で間合いを詰める。

「悪いが、遊んでる時間もないんだ。やるなら本気で来い」
「……舐めおって……!!」

 居合の形で抜かれた剣を、短剣で軽く受け流す。

「なっ……!?」
「『斬』」

 すれ違いざまに能力を使い、鎧諸共、名も種族も知らぬダンジョンのボスを切り殺す。

「はぁ……」

 思わずため息が出る。
 俺は、もっと強くなくちゃいけない。
 だからこそ、この洞窟では一度も魔力回復をせずに戦ったのだが……。
 ……思うように結果は得られなかったな。

 これ以上留まる意味もないし、さっさとサンビルに帰って報告をしよう。

「『移動』」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...