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―第九十七話― ポーション

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 能力を使えないのであれば、残った手段はただ一つ。
 ぐっと足に力を込め、そのまま地を蹴る。
 ツツジの能力は、新規に使った能力には作用するようだが、もともと発動している能力には効かないようだ。
 常に身体能力を上げててよかった。

 ……とはいえ、人間離れした速度を出して走れるわけでもないし、すぐにツツジに追いつかれて邪魔されてしまうのがオチだろう。
 ……さて、どうしようか。
 ……いや、このまま走ろう。

「その程度の動きで、アサシンから逃げられるとでも?」

 おっと、もう回り込まれたか。
 ……でも。

「逃げられるんだよなあ、それが。『移動』」

 ……よし、ビンゴ。
 走っている間に、微妙にだが空気が変わったのだ。
 恐らく、ジャスミンの周りの魔力が濃すぎて、ツツジの能力が乱されているのだろう。

「……ただ、こっからが問題なんだよな……」

 ジャスミンとツツジの間くらいの位置に移動してきたが、ここから二人同時に相手となると……。
 面倒くさそうだな。

「『移動』」

 とりあえず、こっちから終わらせよう。

「『来い』」

 ……よし、とりあえず短剣の回収は成功。

「『移動』、『威力上昇』」

 ごめん、ジャスミン。
 ジャスミンの背後に回り、そのまま思い切りぶん殴る。
 ……が。

「……まじかよ」

 片手で止められた。
 割と本気で打ったんだけどな……。
 ……しょうがない。

「『移動』」

 ちょうど近くにいた王子に触れ、そのまま能力を発動させる。



「陛下、ルドベキア王子の方だけ先に回収してきました。魔力にあてられてるかもなんで、しばらくは安静にしておいたほうが良いと思います」
「でかした! ……しかし、ジャスミン殿は……?」
「ちょっと面倒な事になってるんで、今から解決してきます」

 早く行かないと、ジャスミンがやばくなる可能性が高い。
 元々の能力が能力だ。
 暴走状態だと、寿命が削れるどころの騒ぎではない。

「『移動』」



 能力が使えるようになったのはいいが、ここからジャスミンを止める方法を考えないとだ。
 ルビーにもらったポーションを使うにしても、ある程度近づかなければならない。
 ただ、さっきの感じだと近づいてもすぐに抵抗されそうだしなあ……。
 移動、と小さく呟き、ジャスミンのそばまで行く。

「『爆発』!!」

 ジャスミンの真横で少し大きめの爆発を起こす。
 ……少しくらい態勢を崩してくれてもいいじゃないか。
 なんで微動だにしないんだよ……。

「『移動』、『威力上昇』、『打撃』、『移動』……」

 一通り能力を使って攻撃を仕掛けてみるも、全く効いている様子がない。

「私も忘れちゃだめだよ」

 うぐっ……!

「てめっ、こんな時にまで邪魔すんな!!」

 くそっ、背中を刺された……。

「『回復』」

 ……ああ、まじで面倒だな……!!
 ……もういい。
 ここで終わらせる……!

「『移動』」

 ……前に見た時よりも、模様が広がってる。
 これ、全身に広がったらやばいパターンだろ。
 暴走状態でろくに魔法も使えないのは助かったな。
 これでディザスターまで撃たれたら、本当の本当にやばい。

「『ツツジ、そこから動くなよ』!!」

 ……少しの時間稼ぎしかならないが、その間に……。
 ジャスミンとの間合いを一気に詰める。
 ……ほら、そのくらいならくれてやる。
 その代わり。

「『ゆっくり寝てろ』」

 ジャスミンの頭にポーションをかける。
 拳で抉られたわき腹が少々痛むが、成功してなによりだ。
 というか、やっぱり威力桁違い過ぎるだろ!

「『解毒』」

 毒も解除し終わったし、ジャスミンの方はこれで終了だな。

「ツツジ、次はお前の番だぜ」
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