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―第八十三話― 餞別

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 サントリナ達とも別れ、俺はすぐさま家へ帰った。
 ……策も何もなしで魔王軍を捕まえるなど、ほぼほぼ無理だろう。

 なら、どうするか。
 俺は一つ、良いことわざを知っている。
 それは……。

「おやすみー」

 果報は寝て待て。
 俺はそれに従い、まだ若干明るいが布団へ潜り込み――



 …………。

「やっぱり、俺の予想通りだったな」
「お前、俺のことを小間使いか何かだと思ってるだろ?」

 そんなことないですよ、ルビーさん。
 別に、都合のいい奴だし利用できる分には利用してやろうだなんて思ってませんよ。

「……俺、心の中読めるんだからな?」
「どうかしたか?」
「……終いにゃ泣くぞ!」

 流石にからかい過ぎたか。

「で、俺の知りたいことは教えてくれんの?」
「……正直に言うと、あまり気は乗らない」
「そこをなんとか!!」

 パンと手を合わせ、ルビーに頼み込む。

「……いいぜ。その代り、後々になって文句は言ってくるなよ?」
「もちろんだ! 俺がそんなことをする人間に見えるか?」
「うん」

 一瞬の間も無く言いやがったな、この野郎。

「とりあえず、明日はジャスミンの家に起きたらすぐに向かえ。で、そこで会うであろう人物の言うことを聞きなさい。そしたら、近いうちにツツジと巡り合うことになる」
「……なるほど?」

 よくわからんが、ルビーの言う通りにすればいいはずだ。

「あ、ついでにいくつかアドバイス」
「ん?」
「能力の酷使に気を付けるようにしておきなさい。そうしないと、いつかとんでもないことになるぞ」
「了解」

「……あと、ジャスミンだけは死ぬ気で守りなさい」

「当り前だ」
「うん、ならよかった」

 微笑み、安心したような様子で相槌を返すルビー。
 その姿から、俺はなぜか悲しさを覚えた。

「……さて、君にはもう一つだけ俺からの餞別をやろう」

 餞別?

「そこにひざまずいてくれないか?」
「は? なんで?」
「いいから!」

 言われたとおりに、渋々俺は跪いた。
 すると、ルビーが俺の頭に手を置き。

「《ゴスペル》!!」

 その瞬間、辺りに凛とした空気が漂った。

「……くれぐれも、気を付けて冒険するように。無理だと思った時は、いつでも投げ出していい。だから、絶対に生きて帰ってきなさい」
「……うん、約束するよ」

 俺の返事に満足そうな表情をしたルビーは、パチンと指を鳴らし……。

「約束だからな」

 意識のはっきりしない俺に向かって、ぼそりと一言呟いた。


◆◆◆


「……偉そうに説教垂れておいて、この様ですか」
「しょうがないだろ、お前の手伝いで俺の魔力も大分薄くなったんだから!」

 ばてて仰向けになった俺を覗き込みながら、リリーがそんな辛辣なことを言ってきた。
 うえ、かっこつけて魔法と能力の併用なんてしなきゃ良かった。
 まったく、リリーの手伝いがこんなに大変だったなんて思わなかったぜ。

「……手伝ってくれたお礼です。これで立てるでしょう?」
「……ありがと」

 リリーが手をかざしながら、俺に魔力を与えてくれる。
 ……だが。

「魔力が気持ち悪いんだけど」
「……呪われたいんですか?」

 おっと、禁句だったようだ。
 でも、本当に、なんというか、背筋がぞくぞくする。
 呪いの女神ってのも関係してるんだろうけど、絶対にこいつの性格の悪さも大きい。

「……まだ文句を言うつもりでしたら、本当に呪いますよ!?」
「ちょ、ごめんって! いや、まじで魔法使おうとしてんじゃん!! 俺、今動けないんだから、まじでやめてやめてくださいお願いします!!」

 リリーの腕が怪しげな色で光り出してる!
 まじで怖いんですけど!?

「……これだけ渡せば、少しは動けるでしょう? もう、金輪際あなたに魔力は渡しませんからね!!」
「ありがとうございます!! この御恩は一生忘れません!!」
「もう死んでるくせに?」

 亡霊ジョークですよ、女神様。
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