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―第七十五話― 帰路

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 はぁ、疲れた。
 酔った勢いで散々見栄を張ったはいいが、まさかこんな展開になるとはな……。
 本当は、王都で悪さするなってのを注意しに行く程度だったってのに……。

 くそ、それもこれも全部ツツジのせいだ。
 今度会った時にでも、一発殴ってやる。
 いいか、絶対にだぞ!
 死に物狂いで探し出してやる。

 ……ツツジ、元気にしてんのかな。
 あんなことがあったとはいえ、同郷の、しかも幼馴染だ。
 そのうえで、一時は仲間だったんだから、流石に情が湧く。
 魔王軍の幹部とかが関わってるんだったっけ?
 それなら、冒険の途中で会う可能性もあるな。
 だがしかし、俺はあまり働きたくない。
 うーん、悩ましい……。



「それじゃ、お世話になりました」

 翌日、特に残る理由もない俺たちは、サンビルへ帰ることにした。

「ああ、またいつでも来なさい。我々が誠心誠意、真心込めておもてなししよう」
「ありがとうございます。それじゃ、お元気で」
「リアトリス殿、ジャスミン殿、サントリナ殿も」
「……なあ、王様。息子さんはまだ帰ってきてないのか?」
「ああ。遠征が思ったよりも長引いているそうだ。だが、息子のことは心配いらんぞ、サントリナ殿! なんといっても、私の息子だからな!」
「そうですか。またなんかあったときにでも連絡くださいな。いつでも駆けつけますので」
「それは心強いですな」

「お三方、そろそろ馬車を出発させますよ!!」

 ……なんでわざわざ馬車なのだろうか。
 俺の能力で帰った方が、安全かつ早いってのに。
 二人いわく、そっちの方が風情があるってことらしいが。

「それでは、勇敢なる冒険者の皆さまに、神々の祝福のあらんことを!!」

 ……なんだ、あいつらも来てたのか。
 王様が別れの言葉を叫ぶ後ろに、昨晩見たような顔が見えた。
 メイド服や執事服を着てはいるが、はっきりと魔物の気配がしている。
 ま、せいぜいばれないようにな。



 馬車に揺られること数時間。
 サンビルまであと半分といったところで、事件は起きた。

「…………サントリナ、ジャスミン、起きろ」
「ん? どうか……。……オーケー、理解」
「えっ、なに!? どうかしたの!?」

「周囲に魔物の群れの気配がする」

 数は多くないが、かなり強そうな雰囲気を感じる。
 魔力量も相当高そうだ。

「いざという時のため、戦闘準備をしとけ」

 短剣を腰から抜き、警戒態勢をとる。

 数十分が経過したが、未だ気配は消えていない。
 というか、気配が大きすぎて場所すら探れていないのだ。
 ……これは、まずいことになりそうだな。

「なあ、サントリナ」
「どうかしたか?」
「お前の経験から見て、この気配はどこから出てると思う?」

 俺からの問いに、少し真剣な顔をしたサントリナは、

「知らん」

 一言だけ返してきやがった。

「お前、もう少し真面目に考えろよ!」
「知らねえものは知らねえんだよ!! 第一、このレベルの気配となると、滅多に出会わないような相手だぞ!?」

 それはそうだが……。

「だから能力で帰ろうって言ったんだよ! くそっ、面倒ごとの予感がする」

 神経を研ぎ澄まし、もう一度だけ辺りを確認する。
 ……だけじゃ、埒が明かねえな。

「『探知』!!」

 …………。
 ………………。

「御者さん、ちょっとだけ馬車止めてもらえますか?」
「えっ、ここでですか!?」
「はい。あと、少しだけ避難しておいてください。ちょっとした戦闘が始まりますので!!」
「は、はい!! 分かりました!!」

 よし、これで思う存分戦えるだろう。

「ねえ、相手の正体は分かったの?」
「ああ。いやというほどな」
「リアがそれだけ緊張するって、そんなに強い奴なの!?」
「ま、すぐにでもわかるさ」

 その言葉を言い終えないうちに、辺りに何とも言えない咆哮が轟いた。

「ね、ねえ、リア? この声って、まさか……」
「ああ、そのまさかだ」
「リアトリス、ジャスミン、絶対に油断するなよ!?」

 したくてもできねえよ。
 だって、今から戦わなくちゃならない相手は……。

 強風にあおられ、サントリナが羽織っているマントが大きく揺れる。
 それとともに、バサバサという大きな音が響く。

 轟音と形容すべき様な咆哮が、周囲の空気を振動させる。

「来たな、ドラゴン!!」
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