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―第六十九話― 第四号

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 ……まずい。
 決勝まで行けたことに浮かれて完全に忘れてたけど、相手ってあのガーデニアじゃん。
 これまでの試合でさえ本気を見せたようには思えなかった相手と、私が戦う?

 ……死ぬって。

 いやでもここで勝てば、ここで勝てばリアに近づける。
 あれだけの実力者とやりあうんだ、リアも認めざるを得ないだろう。
 ……そのはず。

 ……いや、そんなことを考えていてはだめだ。
 今は、ガーデニアに勝つことを優先しなくては。

 魔力はポーションで回復できたし、体力も回復できた。
 体の調子は万全だが、緊張がとてつもない。
 負けたらどうしよう。
 というか、あんな化け物級のと戦って、無事に終われるだろうか。
 いやまあ、奥の手が用意されてるとは言えども……。

 ……はぁ。
 倒せるに越したことはないが、相手に深手を負わせるわけにもいかない。

 ……だめだ、ネガティブな方向にしか思考が働かない。
 こんな時は、えっと……。

「ジャスミン様」
「ひゃあっ!!」
「も、申し訳ございません。驚かせるつもりはなかったのですが……」
「い、いえ、考え事をしていたものですから」
「……申し上げにくいのですが、お時間でございます」

 ……遂にか。
 大丈夫かなあ。
 無事に帰ってこれる……よね?

 …………不安で胸がいっぱいだ。
 でも、これさえ乗り越えればリアに近づける。
 私は、それだけを目標にここに来たのよ!
 ……絶対に勝つ。

「わかりました。すぐに出ます」
「……メイドという立場上、どちらかを応援するということはできませんが。ジャスミン様のご武運を心よりお祈り申し上げます」
「……ありがとうございます!!」



 ゆっくりと深呼吸をする。
 落ち着け、私。
 心臓がバクバクとなっている。
 緊張、恐怖、喜びなどの感情が頭の中でぐるぐると回り続けている。
 だいじょうぶ、わたしならいける。
 もう一度、深く呼吸をする。

「よし、行こう!!」



「それでは、二人とも、武器を構えてください」

 剣をゆっくりと鞘から抜き、正面に構える。

 …………。
 ガーデニアはというと、腕をだらりと下げたままで構えをとろうとする動きが一切見られない。
 ……だというのに、凄まじい圧を感じる。
 これを相手に戦ったって、アマリリスは凄いな。

「それでは、よーい……」

 深く息を吸い、呼吸を止める。
 一点、ガーデニアに集中する。

 ガーデニアの攻撃に何度も耐えられるとは思えない。
 ガーデニアが動き出す前に、少しでも攻撃を入れるのが最善手だろう。

 対峙して分かった。
 魔法の出し惜しみをするほどの余裕はない……!

 ──最初から、全力で!!

「スタート!!」

 地面を蹴り、ガーデニアとの距離を一瞬で詰めた。
 魔力を流し、剣を横薙ぎに大きく振るう。

「『ストライク』!!」

 …………くっ。
 刃が当たる直前で、ガーデニアは大きく後ろに飛びのいた。
 大きな風切り音とともに、剣は空を切り裂いた。

 ……今の距離でも避けられるのか。
 額に汗がにじむ。
 至近距離で放ったんだけどな。
 ……でも、魔法はまだ残ってる。
 一つは論外として、ストライク以外の魔法はいくつもある。
 そのどれか一つでも当たれば……!

 ある程度距離も離れてるし、これで行こう。

「『ライトニング』!!」

 ……よし。
 だいぶ魔力調整もできるようになっている。
 修行中にライトニングの改良も進めた結果、威力は落ちてしまうものの、魔力の消費を大分抑えられるようになった。
 ……それでも、使った後はやっぱり疲れるな。
 あとは、作戦通りに……。

「無駄」

 背後から、冷たい声が聞こえてきた。

 ライトニングの速度は、私の使える魔法の中でトップクラスだ。
 ……それを、こんなにあっさりと避けられるのか。
 想定していたとはいえ、流石に恐怖を覚えてしまう。

 やっぱり、ガーデニアに私から攻撃を当てに行くのは難しいか。

 剣を誰もいない正面に構える。
 集中……!

 魔力を剣に流し込み、魔法を発動させながら後ろに向かって大きく振りぬく。

 自分から当てに行くのが難しいなら、相手を間合いにまでおびき寄せればいいだけの話。
 そしてガーデニアは、私の間合いちょうどの位置にまで移動してくれた。
 今までのパターンで考えれば、ガーデニアは私を背後からの攻撃で倒そうとしてくるはず。
 ならば、そこにカウンターを叩きこむ!!

 ──オリジナル魔法第四号。

「『ディスチャージ』!!」
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