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―第六十話― 大会へ

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 …………。
 ……頭痛い。

 さっき、正式なステータス値を計ってもらったのだが、リアの言う通りに頭のおかしい部類に入りそうなステータスだった。
 能力までは見えなかったのだが、リアかルビーさんが隠したのだろうか。

 というか、ギルド職員の反応がきつかった。
 なんか、今まで以上にちやほやというか、媚を売るというか……。
 ……はぁ。

「やあ、ジャスミンちゃん」
「あ、こんにちは。サントリナさん」

 ……ギルドマスターが、こんな真昼間から街をほっつき歩いてていいのだろうか。

「聞いたよ、ステータスの件」
「あ、そうですか……」
「歴代最高値だって? 凄いじゃないか!」
「ありがとうございます」

 成果が出たことは素直にうれしいのだが、なんというか微妙な気持ちだ。
 これだけ強くなっても、きっとリアには勝てないのだろう。

「これをきっかけに、リアトリスも修行してくれたらいいんだけどね」
「うーん……」

「「するわけないか」」

 解釈一致。
 あの面倒臭がり男は、滅多なことでは修行しないだろう。
 私が冒険者デビューしてからの付き合いだし、その辺のことは分かっているつもりだ。

「リアトリスも、真面目に修行すれば、魔王くらい倒せそうな気もするんだけどね……」
「あの男の辞書に、真面目という文字はないですよ」
「相方からそう言われちゃ、お終いだよ。でもまあ、あれがリアトリスらしさであり、強さの所以ゆえんかもしれないけどね」
「リアって、昔からあんな感じなんですか?」
「そうだよ。修行をなにかにつけてはさぼり、魔法なんて覚えようもしなかった。それに、自分の力を知ってか知らずか、ずっと隠してきてたしね。だから、とりあえずは剣技を教え込んだよ。今は短剣を使ってるみたいだけど、長剣も一応扱いきれるはずだよ」
「え、そうなんですか!?」

 短剣以外に使ってるイメージがなかったから、結構意外だ。
 ……たぶん、持ち運びが面倒だからとかなんだろうな。

「リアトリスはね、俺の一番弟子であり、俺が指導の立場に回ろうと思ったきっかけなんだ」
「そうだったんですか!?」
「まだこーんなに小さかった頃に、俺の剣を勝手に持ち出して、庭で素振りを始めたんだよ。太刀筋もくそもないような振り方だったけど、俺が今までしてきた鍛錬が霞むくらいに眩しく見えた。……あの時は、精神的にも肉体的にも辛いことがあったからな。それから俺は、全身全霊をリアトリスに叩き込んだ。もちろん、他の子にもやったことだけどね」

 冒険者仲間と話していて知ってはいたのだが、サントリナさんは今の若い世代の冒険者のほとんどに指導をしてきたそうだ。
 私は別の街から来たので指導を受けたことはなかったのだが……。

「それがいつの間にやら、あんなぐうたら野郎に変わり果てるとは……。初めて見た時には、この子は必ず、俺を超える冒険者になれる! なんて確信をしたんだけどなあ……」
「リアなら、いつか成れますよ」
「そうだろうなあ。あいつの場合は、生まれ持った能力と、それを扱えるだけの力を持っているんだから」
「力?」
「努力する力、だよ。リアトリスは、表立っての努力は嫌うけど、人には見えないところで努力する悪癖があるんだよ。あの能力だって、一見扱いやすそうな能力だと思うかもしれないけど、実際に使おうとすれば、かなりの集中力を要するはずだ。自分のしたいことに当てはまる言葉を考え、それを瞬時に放つ。そのうえ、細かい魔力操作をしなければ、狙った場所まで飛んでいかない。……あれは、センスの一言で片づけられるような代物ではないはずだ」

 ……そうなんだ。
 やっぱりすごい人だな、リアは。

「ただまあ、能力ってのは、身体能力の一種でもあるから、無意識下でそれを行いやすいんだろうね」
「そんなもんなんですか?」
「うん。俺も一応能力持ちだけど、特に意識せずに使いこなせるかな。というか、俺のは単純な能力だからな」
「サントリナさんの能力って、どんなのなんですか?」
「うーん、また別の機会に話そうかな。どこで誰に聞かれるかもわからないし、もし聞かれちゃったら対策されやすいしね」
「そうですよね。すみません」
「全然いいよ。……というか、能力というのは、使う人の器量によって強さが変わるものなんだ。どれだけ弱そうな能力でも、それを操れるだけの才覚と努力を積めば、どんな敵にだって立ち向かえるんだ。……つまり、なにを言いたいかというとだな。能力を知られた程度で、俺は負けないって話さ」

 ……凄い。
 過信などではない、心の底からの自信を感じる。

「今までにも対策してきたやつは何人かいたけど、ことごとく返り討ちにしてやったさ」
「す、凄すぎますね……」
「だろ? それでも、リアトリスに勝てるかはわからないけどね。相討ちにまでなら持っていけるかな?」
「リアって、やっぱり強いんですか?」
「強いよ。とてつもなく強い」

 サントリナさんが即答するって、よっぽどじゃない!?

「そのせいで、今年行われる大会も出禁になったしね」
「……大会?」
「あれ、知らなかった? 今度、国王主催の腕自慢大会があるんだよ。てっきり、ジャスミンちゃんも出るのかと思ってたよ」
「いえ、初耳です」
「……今回は、面白いものが見れるはずだし、出るべきだよ。各国から派遣された強者だけが集う大会。これを見ずに、俺は死ねねえよ!!」

 凄まじい熱気だ。
 ただ……。

「リアが出禁って、なんでなんですか?」

「強すぎて、対抗できそうな相手がいなかった」

「な、なるほど……」
「そこでだ!!」

 突然の大声に、体がびくりと跳ねた。
 というか、心臓が止まるかと思った。

「サントリナさん、元気なのは宜しいことですけど、もう少し声を抑えていただいて……」
「あ、申し訳ございません……」

 街の人に怒られて委縮してるギルドマスターなんて、世界でたった一人だけでしょ。

「そこでなんだけど、どうかな? 俺の紹介で、大会に出てみないかい?」
「いいんですか!?」
「もちろんさ」

 大会に出て、色々な人と会えば何かがつかめるかもしれない。
 リアにもっともっと近づくために、私は強くならなくちゃ……!

「俺の権限だと、二人までなら招待できるんだ。本当は、リアトリスとジャスミンのペアで出してあげたかったんだけど……。まあ、もう一人の方には目星がついてるんだ」
「もう一人って、誰ですか?」
「それは、本番までのお楽しみで」

 この街の冒険者も、強い人がたくさんいるしね。
 誰なのか想像するだけでも、わくわくしてきた。

「じゃあ、俺の方から国王に手紙送っとくわ」
「ありがとうございます!」
「よし、早速準備してくるわ! じゃ、また今度な。リアトリスにもよろしく伝えといて」
「はい!」

 大会……。
 どんな人と戦えるのだろうか。
 リアにもっと近づけるのだろうか。
 私の夢に繋がるのだろうか。
 いや、繋げる!!

 ――いつか、リアと肩を並べて戦えるように。
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