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―第二十二話― 能力者狩り(2)

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 こいつが誰であれ、少なくとも人間相手だ。
 やりすぎは抑えねば。
 とりあえず、気絶させることを目標にするか。

「先に行っておくが、お前の能力は私には通用しないからな」
「何のことを言っているのかさっぱりだな」

 能力は奥の手だ。
 一応、多少の体術は使えるし、そっちで賄えるな。
 ん、なんだ?
 掌をこちらに向け、何かを呟いている。
 まずい!

「『移動』!!」

 先ほどまで俺のいた場所を、かなりの大きさの火炎球が通り過ぎる。
 ……今のはヒヤッとしたな。

「能力を使ったな?」

 ……チッ。

「お前、王都周辺で起きている連続殺人事件を知っているか?」

 何の脈絡もなく、奴がそんなことを聞いてくる。

「ああ、新聞で見たよ。それがどうした?」
「あの被害者には、ある共通点があるのだ」
「……なんだ?」

「全員、能力持ちだったということだ」

 あーあ、嫌な予感がしてきた。
 ……一応聞いておくか。

「今の状況や言動から考えて、お前がその事件の犯人だとしか思えないのが?」
「ああ、そうだ」

 …………。

「い、意外とあっさり答えるんですね」
「ああ。隠すほどのことでもないからな」

 いや、隠すほどのことだろ!!

「それで、これを聞いたお前はどうするつもりだ? 私を警察署まで連れていくのか?」
「そんなことしたら、お前抵抗すんだろ。さっきの魔法っぽいのから見て、お前相当強そうだし。俺、そういう面倒事大っ嫌いなんだわ」
「だが、私はお前を殺す気満々だぞ?」
「ああ。その点に関しては安心しろ」

 さすがに、こんな空気感だしなあ。

「本気で俺が相手してやるよ」

 本気とは言えども、相手を殺さない程度の力での戦闘。
 しかも、相手は強敵と来た。

 ……あ、そうだ。

 こいつに能力持っていることばれてるし、堂々と能力使えるじゃん。

「『気絶』」

 ほぼ不意打ちのような形で、少し強めの能力を発動する。
 すると、ドサッという音を立て、奴が前のめりに倒れた。

 よし、とりあえず警察署に連れていくか。
 そう思い、奴のほうまで歩いて行く──

 ――ドスッ。

 あ、れ、何が、起こった……?

「この程度の演技に騙されるとは。やはりお前は甘いな」

 胸元を見ると、ちょうど心臓の辺りにナイフが深々と突き刺さっている。
 口から血があふれ出し、膝から崩れ落ちる。

「はぁ……、はぁ……。お前、何者なんだよ」
「……私の顔に見覚えはないか?」

 そういって奴、いや彼女は、かぶっていたフードを外す。
 …………!?

「……すまんが、まったく記憶にない」

「え!?」

 いや、何でそっちが驚いてるんだよ。
 改めて顔を見てみるが、本当に見覚えがない。
 というか、そんなことよりも。

「『再生しろ』」

 ナイフを抜き、傷跡を修復する。

「ほら、返してやるよ」

 軽い放心状態になっている彼女に、ナイフを投げ渡す。

「……え、あ。え!?」
「どうする? まだやるつもりなら、今度こそ本気でやるぞ」
「……本当に覚えていないの?」
「ああ。人違いじゃないか?」
「そんなはずないじゃない!! だって、その能力は……」

 そう言いながら、彼女は涙を流した。
 えっと、なんか、俺が悪いことをしたような気分になるからやめてほしいんだけどな……。

「あー、気に障るようなことを言ったんなら謝るわ」
「あなたのやったことは、忘れたからといって許されるようなものじゃないのよ!!」

 ……は?

「もういいわ。おとなしく私に殺されなさい!」

 グッと体が重くなり、金縛りにあったようになる。
 刺突ではだめだと思ったのか、首に向かってナイフで切りかかってきた。
 だが。

「『防護』」

 ナイフが、首に当たるぎりぎりのところで止まる。
 そのまま相手の腕を取り、関節技を決める。

 ……そういえば、なんでこいつは俺の能力で気絶しなかったんだ?
 ジャスミンはともかく、こいつは完全所見のはずだ。
 もしや……!!

「『気絶しろ』ッ!!」

 ……………………かなりの魔力消費量。
 だが、それ相応の手ごたえもあった。

 俺の予想だと、こいつの能力は相手の能力を無効化するタイプだ。

 そこまで予想した結果、俺の能力で相手の能力効果の上書きを行い、俺の言葉の効果をごり押した。
 ま、その影響で魔力がごっそり持ってかれたんだろうな。
 だが、こいつを完全に無力化することには成功した。
 ……とりあえず、家に連れて帰ろう。
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