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―第十二話― うわさ

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「おい、聞いたか? ジャロイの話」
「ああ、魔王軍が攻めてきたんだって?」
「らしいぜ。もしかしたら、俺たちにも召集がかかるかもしれねえな」
「かもな。でも、万が一倒せば、大量に報酬が手に入るかもしれねえぜ」
「ま、俺たちレベルの実力じゃ、絶対に無理だろうけどな」

 ……ジャロイか。
 ここからだと、馬車で一日程度の距離じゃなかったかしら。
 とりあえず、リアの家に行かないとね。


◆◆◆


「あー、よく寝た」

 新しい武器を手に入れてからの数日間、俺はほとんど寝ていた。
 ジャスミンに修行をつけていた際には、能力で無理やり不眠状態にしていたため、その分の睡眠時間を確保しなくてはならなかったのだ。
 だが、目覚めたばかりの俺には、やらなくてはならないことがある。
 それは……。

「『回復』、『封印』」

 あらかじめ作っておいたポーションに向かって、能力を使った。
 こうすることで、普通のポーションよりも効果が高くなるのだ。
 よし、この調子でじゃんじゃん作るか。

「リアー、いるー?」

 人がせっかくやる気を出したってのに、なんてタイミングが悪いんだ。

「今開けるから、ちょっと待ってろ」

 文句を言いながらドアを開けると、冒険に出るときの格好をしたジャスミンが立っていた。

「ちょっ、なんで閉めるの!?」
「いや、なんか面倒くさそうな予感がするし」
「えっと、ジャロイの噂話、もう聞いた?」

 俺の言葉を無視して、ジャスミンは話を続けた。

「さっきまで寝てたから知らない」
「あ、そうだったわね。どんな噂か、気にならない?」
「気にならないです」
「今、ジャイロに魔王軍が攻めてきてるらしいのよ」

 こいつ、俺のこと無茶苦茶無視するじゃん。

「……って、ちょっと待て。魔王軍が?」
「そうよ。でさ、ジャイロまで行って、魔王軍討伐をしない?」

 ほらな、予感が当たった。

「いやだ。そんなめんどそうなのは、お前ひとりでやれよ。せっかく修業したんだし、いい機会だろ」
「……あーあ。一緒に来てくれたら、大量にピザを買って、パーティーでもしようと思ってたのに」
「ちょっと待ってろ、すぐ準備してくる。魔王軍と戦うのは、冒険者の義務だしな!」
「チョロい」

 決して、決して、ピザにつられたわけではないからな。



「馬車なんて、久しぶりに乗るな」

 そもそもとして、冒険なんてしてこなかったから、町周辺以外の景色が新鮮に感じる。

「私は、しょっちゅう遠征で乗ってるけどね」
「多分だけど、この町に来て以来、一度も乗ってないや」
「あんたがこの町に来たのって、何年前くらいなの?」
「十年ぐらい?」
「…………」

 なんか、可哀そうなものを見る目でこっちを見てくるんだが。
 しょ、しょうがないだろ、冒険なんて面倒くさかったんだし。
 というか、馬車に乗っている途中とかに、魔物に襲われたりしないよな?
 俺、できるだけ戦いたくないんだけど。



 そんな俺の不安も杞憂に終わり、馬車は予定通りに夜営の準備に取り掛かっていた。

「皆様、晩御飯ができましたので、焚火の周辺に集まってください」
「おお、美味そうだな!」
「本当ね。この串焼きなんか、酒に合いそうじゃない? すみませーん。お酒ってありますか?」
「ええ、葡萄酒でしたらございますよ」
「よし! 今日はじゃんじゃん飲むわよー!」

 こののんべえが!

「おい、酒は帰りにとっておけ」
「えー、なんでよ!」
「あとで教える」

 ぶつくさと文句を言い続けるジャスミンを抑えながら、何とか注文をキャンセルした。



「はあー、食った、食った」

 というか、食い過ぎた。

「わ、私も少し調子に乗り過ぎたかもね」

 ほんとだよ。
 こいつ、俺の二倍近く食ってなかったか?

「そういえば、私に酒を飲ませなかった理由って、何なの? それなりの理由じゃないと、ぶん殴るわよ」
「ほら、この間の修行の最後のほうに、魔法を撃ってただろ?」
「……ごめん。その辺の記憶が、結構曖昧になってるのよ」
「ま、半分気を失ったような状態だったし、しょうがないっちゃ、しょうがないのかな」
「で、その魔法がどうしたの?」

「今から、その魔法をある程度使いこなせるようになってもらう」

「今から!?」
「ああ、そうだ。馬車に乗っている間に、そのジャイロについての情報を集めたんだが、結構やばい状況らしいからな。それに、これから冒険するうえでも、お前の切り札として使えるだろうしな」
「な、なるほど」
「お前って頭悪いし、理屈を説明したところで意味ないだろ?」
「な!?」
「ということで、お前の体に感覚を覚えさせる。ま、あまり気張らなくていいからな」
「りょーかい」
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