上 下
6 / 234

―第六話― 本気

しおりを挟む
「久しぶりだな、リアトリスよ」

 予想以上に来るのが早かったな。
 城門前まで来た俺たちを待ち受けていたのは、以前戦ったシリウスとかいう魔王軍幹部と、その周りで倒れている冒険者仲間たちだった。
 どうやら、命までは取られていないらしい。

「ここに倒れている奴らは、俺のことなど一切覚えていなかった。貴様の仕業か?」
「ああ、その通りだ。前回言っただろう? お前が来た痕跡は消すって」
「……そこにいる聖騎士は覚えているようだな」
「ええ。私は、リアトリスの能力の効きが悪かったみたいなの」

 声が震えている。
 そりゃあそうだ。
 ジャスミンとこいつでは、レベルに大きな差がある。
 それに、ここはあいつの間合いの中だ。
 いつ魔法を撃ち込まれてもおかしくないような状態で、落ち着いていろという方が無理な話だ。

「リアトリスよ。少し、俺と交渉をしないか?」
「交渉?」

「今すぐに魔王様に忠誠を誓うならば、この町の住人らの命を保証してやろう」

「……何が狙いだ?」
「俺はな、貴様の強さを高く評価しているのだ。だからこそ、このまま俺に殺されては勿体なく感じるのだ」
「……なるほどな」
「念のために言っておくが、貴様が拒否をした場合、ここにいる者たちは即座に殺すからな」
「…………」
「さあ、どうする? とはいっても、貴様に残された選択肢は一つしかないだろうがな」

 そう言ってシリウスは、不気味な笑い声を上げる。
 まあ、考えれば、ここにいる者全員を守りながらこいつと戦うなんて、不可能だろうな。
 …………。

 意を決した俺は、奴のほうへと一歩踏み出した。

「仲間との別れは良いのか?」

 俺は、シリウスの問いかけを無視しながら、ジャスミンに話しかける。

「なあ、ジャスミン」
「どうしたの?」
「お前、俺の能力について知りたがっていたよな」
「ええ、そうだけど……」

 なあ、シリウス。

「今から、俺の本気を少しだけ見せてやる」

 俺の能力を、普通・・なんて尺度ではかりきれると思うなよ。

「どうやら貴様は、相当な命知らずのようだな」
「命知らず? それはてめえのほうだぜ。俺に本気を出させるんだ。少しは耐えてくれなきゃ困るぜ?」

 俺の変化に気が付いたのか、杖を握るシリウスの手に力がこもった。

「『防御』」

 その一言とともに、周りに倒れていた冒険者の体が一瞬光る。

「……何をした?」
「別に。ただ、こいつらがとばっちりを受けないようにしただけさ」

 その言葉にシリウスが、哄笑する。

「素晴らしい。素晴らしいぞ!! 貴様は、俺の期待以上の男だ。本当に、本当に、ここで無くすのが惜しくなってしまう!!」
「お前も本気を出せよ? でないと、俺がつまらない・・・・・からな」

 次の瞬間、戦いの火蓋が切られた。


◆◆◆


 リアが話し終えた瞬間、シリウスの杖から追ってつもない威力の魔力弾が撃ち出された。

「危ない!!」

 私は思わず叫んだ。
 しかしリアは、避ける素振りすら見せない。

「『吸収』」

 リアが何かを呟く。
 その瞬間、リアの方に向かっていた魔力弾が、少しづつ小さくなって消えた。

「「な!?」」

 驚きのあまり、シリウスと私は同時に声をあげる。

「ふーん。無詠唱でこれだけの威力が出せるのか。流石、魔王軍幹部だな」

 何が起こったの!?

「さてと。お返しだぜ。『放出』」

 今度はリアから、さっきと同じような威力を持った魔力弾が撃ち出された。

「くっ!!」
「なるほど。同量の魔力で相殺したか。だが……、『移動』」

 リアが再び何かを呟いたかと思えば、シリウスの後ろに、突然リアが現れた。

「『威力上昇』」

 リアの殴打とともに、鈍い音が響く。

「がはっ!!」

 シリウスの腕は、完全に折れているようだった。
 当のリアトリスはといえば、先ほどまでいた場所にもう戻っている。

「さて、そろそろ終わりにするか?」
「抜かせ!! 出でよ、我が眷属ども!!」

 シリウスの周辺に巨大な魔方陣が現れ、その中から大量のアンデッドが現れた。
 それを見たリアは怯えるどころか、大きな笑い声を上げ。

「ノーライフキングの異名は伊達じゃないな」

 そう言って、敵陣のほうまで突っ込んでいった。

「『浄化』!!」

 一瞬にして、アンデッドの半数が消し飛ぶ。

「何度も同じ手を使ってはスマートじゃないからな。『切り裂け』!!」

 リアが手刀を横なぎに振るった瞬間、残りのアンデッドは真っ二つになり、そのまま消えた。

「……どうした? もう終わりなのか?」
「この程度では時間稼ぎにしかならんことは分かっておる。だが、そのわずかな時間で十分だ!!」

 見れば、シリウスの背後には無数の魔方陣が現れていた。

「さらばだ、リアトリス!! 『ポイズネス・ヘイズ』!!」

 魔方陣からは、禍々しい色をした霧があふれ出してきた。

「リアトリスよ。あまり悠長にしていると、町のほうまで霧が流れていく……ぞ……!?」
「『晴れろ』」

 たった一言。
 それだけで、通常であれば相当な魔力を消費して払うであろう霧が消えた。

「さて、そろそろ終わりにするか」
「クソッ!」

 するとシリウスは、羽織っていたマントを翻し……。

「『止まれ』」

 翻した瞬間に、シリウスは微動だにしなくなった。

「な、何を、し、た」
「お前の体から自由を奪った。だが、魔王軍幹部ともなれば、口を動かすことくらいはできるようだな」
「だが、口さえ、動かせ、られれば……」

 そう言ってシリウスは、何かの魔法の詠唱を始めた。
 とてつもない魔力が動いているのが、離れているここからでもわかる。

「お前、に、これが、防げ、るかな? 『ウェーブ・オブ・カース』!!」

 魔法を唱えたシリウスを中心に、魔力の輪が広がっていく。

 やばい。
 見ただけでわかるくらいにやばい。
 恐らく、触れただけで死んでしまうような魔法。
 そんな魔法を放たれてなお、リアは動こうとしなかった。

「『波よ、消え去れ』」

 今度もまた、リアによって魔法が消された。

「……さて、そろそろ能力も使いすぎたし、この辺でおしまいにいするか」

 そう言って、リアが息を吸い込んだ瞬間、私の背に鳥肌が立った。
 さっきの魔法と同等、もしくはそれ以上のものが来る。
 それはシリウスにもわかったようで、顔色に焦りが見える。

「終わりだぜ、シリウス。いや、その分身・・さん」

 ……えっ?

「……貴様、気付いていたのか?」
「まあ、前回よりも魔力抵抗が弱かったしね。じゃあな。『傀儡よ、消え去れ』」

 その直後、シリウスの分身が強い光に包まれ、そのまま消えた。


◆◆◆


「さ、ジャスミン。終わったぜ」

 しかしジャスミンは、一向に動こうとしない。

「リア」
「?」
「あんた、本当にすごいのね!! あんなに強そうなやつ相手に無双するなんて……!!」
「本体を倒してないし、万事解決、とまではいかなかったがな」

「それでも。それでもよ! 今日のリアは、ムチャクチャかっこよかったわ!!」

「……お前、熱とかないよな」
「あんまり失礼なこと言うと、ぶん殴るわよ」
「いや、ジャスミンがそんなに褒めるだなんて珍しいからさ」
「そりゃあ、あんなにすごいものを見せられちゃあね」
「……そっか。とりあえず、後処理でもするか……。『改変』そして『帰れ』」

 ササッと能力を使い、前と同様に証拠を隠滅する。

「今のは何をしたの?」
「前回と同じように、冒険者たちを家に帰させ、町中の記憶を消した」
「え!? あんたの活躍をみんなに教えないの!?」

「お前、俺が能力を隠してるの、知ってるだろ?」

「あ、そうだったわね……。そうよ! 早く能力について教えてよ!」
「そうだな、約束だしな」

 だが、これを話すにもやはり勇気がいる。
 でも、この反応を見る限りは、話しても大丈夫そうだよな。
 …………俺は再び覚悟を決め、能力を説明する。

「俺の能力は──」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

処理中です...