7 / 8
第7話 そして、彼女は、"第1京浜の稲妻"になった! 恋愛の教訓=手に負えない美女には、手を出すな!
しおりを挟む
#_
実は、彼女=高森玲子には、以前、一回だけ、面識があった。
目黒第一高校の秋の文化祭のビキニ・プリンセス・コンテストに出場経験があり、そこで知り合ったのだ。
早速、聞き出した彼女のツイッター・アカウントに得意の作画技術を活かし、彼女を主役にした24ページほどのデジタル劇画の原稿を送ってみた。
やはり、恋の手始めは、得意分野からだ。
メイン・タイトルは『彼女は、第一京浜の稲妻』。
ジャンルは、タイトルから、わかるようにあきれるほどキレの良い写実画をベースにした――バイク・アクションものだ。
近未来の東京――美貌のアクション・ヒロインが、警察・機動隊やテロリスト相手に、とんでもないバイクの運転技術に大暴れするというストーリー。
品川のバイク・レンタル会社の社長令嬢に合わせたキャラクター設定なのだが、思ったより、反応が鈍くて、がっかりした記憶がある。当然、その後の交際に発展しなかったこともあった。
だが、原稿送信は、後々、とんでもない未来を引き寄せることになる。
小学生時代から自宅の広々とした裏庭で、自社のバイクを靴代わりに乗りこなしていた玲子は、瀬下に失恋した直後から、自社バイクを勝手に担ぎ出し、第1~第3京浜から首都高速まで、都内の主要高速道路上で、"第1京浜の稲妻"と名乗り、法規完全無視の高速走行を繰り返した。
なんで、彼女が、こんなことをし始めたのか、わからない。
周囲は、あっけにとられたが、本心は。だれにもわからない。
恋する女心は、永遠に謎ってことだ。
しかし、他の民間走行車両は、それでよくても、首都圏道路網の秩序と安全を預かる治安組織は、そうはいかない。
本事案は、あっという間に、警視庁の定例の捜査会議に挙がり、高速道路の平和をかき乱す闖入者="第1京浜の稲妻"と名乗る被疑者を、即刻、確保すべし――という現場への指令が下った。
玲子も、自らに迫る包囲網に脅威を感じたのか、走行路を高速から地上へと切り換える。
新しい狙いは、なんと日銀行内。
普段は、警備が緩いのをいいことに並み居る警備員たちを振り切り、行内に侵入した。
最後は、日銀の本行内回廊を一周し、悠々と外へ出た。
これで、日銀本体の警戒レベルが、最高度にまで上がった。
単騎では、そう簡単に侵入できるほどの場所ではないと気が付くと、翌日、自社のガソリンを灯油タンクに詰め、周囲で爆発させて、意趣返しとした。
いよいよ事態は、水面下の臨界を突き破り、公のものになったってことだ。
本事案は、首都の治安を揺るがす重要指定事件となり、警視総監案件にまで発展した。
しかし、当の彼女は、平然と笑っていた。
それが、なぜなのか、わからない。
とにかく、何かが彼女を笑いと行動に駆り立てたのだろう。
マスコミ報道に載った目撃者によると、「これが、わたしよ!」「これが、わたしなのよ!」と叫んでいたらしい。
まあ、ある意味、うらやましい女性ではあると思った。
そんな彼女="第1京浜の稲妻"にも、ついに最後の日が来た。
走行の休憩中、一瞬の隙を突かれ、逮捕されたのだ。
「有名犯」らしく、最後は、パトカーのボンネットの上で手錠姿を撮られた。
なぜか、本人は、嬉しそうな表情だったのが、印象的なカットだった。
即刻、連行された警視庁の取り調べ室でも、その様子は、変わらなかった。
人定質問を受けても、なぜか、嬉しそうに笑みが絶えないのだ。
そして、玲子は、瀬下の関係を一切、しゃべらなかったが、その関係は、すぐに外部に洩れた。
もっとも、本人は、何の衝撃も受けていないかのように振る舞った。
さすが、有名俳優のご子息だった。
社長令嬢として『逃亡の恐れなし』として、玲子が保釈されても、その変わらなかった。
既に高校卒業を目前に控え、抜けられない主演映画の撮影が、大詰めに来ていたという事情もあった。
マスコミからの「高森玲子さんとの御関係は?」という囲み取材にも、平然としていた。
しかし、事の重大さが、段々、わかってくるとそうも言っていられなくなってきた。
次第に、一定の社会責任を感じるようになったのか、その口調は、神妙なものへと変わっていった。
やがて、マイクを向けられると「今回の彼女の一連の行為の根源は、自分との関係にあったのかもしれません」と一定の範囲だが、関与責任を認めるようになっていった。
しかし、玲子にしてみたら、瀬下の「一定の範囲」という口ぶりが、気に入らなかったらしい。
保釈後の行動は、さほど変わらなかった。
服装は、普段の私服からコスプレ衣装へと変わっただけだった。
TVのワイドショー・マスコミの囲み取材を受けても、「あれは、スーパーガールが、やったことです。私には、関係ありませんと」とぬけぬけと応えた。
「撮影された顔が一致している」と指摘されると、今度は、全身ラテックス特別仕様のマスク・ウーマンに扮装し、大手銀行の内部に侵入した。
警備員に確保されて、マスクを脱がされると、バイクを放棄して、走って逃亡した。
最後のコスプレは、女性警官だった。
警官制服に着替えて、男でもやらない突撃姿勢で、颯爽と緊急車両の傍らを駆け抜けた。
要するに、この女――全然、懲りてないのだ。
どこまでも、いつまでも、自由で自己責任――それが、彼女の正体なのだ。
当時もそうだったし、今でも、そうだろう。
目黒第一高校卒業後、日本大学芸術学部映画学科演技コースに進学したあいつ――瀬下 優は、のちに「彼女との関係で、得られものは、ほとんど無かった」と特任教授に答えたらしい。
いや、あったんじゃないか?
恋愛教訓――その1=「どんな美女でも、自分の手に負えない女には、手を出すな!」ということだ。
未来の名俳優候補として、なかなか得難い人生勉強になったと思う。
そして、将来、この一連の事件=『彼女は、第1京浜の稲妻』が、ドラマ化されて、主演を務めることになったら、「このドラマの原作は、目黒第一高時代の同期の友人の上原君の原作劇画なんです。彼のように才能のある劇画作家の原作の主演が出来て光栄ですよ」とでも、インタビュー取材に応えてほしい。
そのぐらいの同期の友情は、あってもいいだろう?
実は、彼女=高森玲子には、以前、一回だけ、面識があった。
目黒第一高校の秋の文化祭のビキニ・プリンセス・コンテストに出場経験があり、そこで知り合ったのだ。
早速、聞き出した彼女のツイッター・アカウントに得意の作画技術を活かし、彼女を主役にした24ページほどのデジタル劇画の原稿を送ってみた。
やはり、恋の手始めは、得意分野からだ。
メイン・タイトルは『彼女は、第一京浜の稲妻』。
ジャンルは、タイトルから、わかるようにあきれるほどキレの良い写実画をベースにした――バイク・アクションものだ。
近未来の東京――美貌のアクション・ヒロインが、警察・機動隊やテロリスト相手に、とんでもないバイクの運転技術に大暴れするというストーリー。
品川のバイク・レンタル会社の社長令嬢に合わせたキャラクター設定なのだが、思ったより、反応が鈍くて、がっかりした記憶がある。当然、その後の交際に発展しなかったこともあった。
だが、原稿送信は、後々、とんでもない未来を引き寄せることになる。
小学生時代から自宅の広々とした裏庭で、自社のバイクを靴代わりに乗りこなしていた玲子は、瀬下に失恋した直後から、自社バイクを勝手に担ぎ出し、第1~第3京浜から首都高速まで、都内の主要高速道路上で、"第1京浜の稲妻"と名乗り、法規完全無視の高速走行を繰り返した。
なんで、彼女が、こんなことをし始めたのか、わからない。
周囲は、あっけにとられたが、本心は。だれにもわからない。
恋する女心は、永遠に謎ってことだ。
しかし、他の民間走行車両は、それでよくても、首都圏道路網の秩序と安全を預かる治安組織は、そうはいかない。
本事案は、あっという間に、警視庁の定例の捜査会議に挙がり、高速道路の平和をかき乱す闖入者="第1京浜の稲妻"と名乗る被疑者を、即刻、確保すべし――という現場への指令が下った。
玲子も、自らに迫る包囲網に脅威を感じたのか、走行路を高速から地上へと切り換える。
新しい狙いは、なんと日銀行内。
普段は、警備が緩いのをいいことに並み居る警備員たちを振り切り、行内に侵入した。
最後は、日銀の本行内回廊を一周し、悠々と外へ出た。
これで、日銀本体の警戒レベルが、最高度にまで上がった。
単騎では、そう簡単に侵入できるほどの場所ではないと気が付くと、翌日、自社のガソリンを灯油タンクに詰め、周囲で爆発させて、意趣返しとした。
いよいよ事態は、水面下の臨界を突き破り、公のものになったってことだ。
本事案は、首都の治安を揺るがす重要指定事件となり、警視総監案件にまで発展した。
しかし、当の彼女は、平然と笑っていた。
それが、なぜなのか、わからない。
とにかく、何かが彼女を笑いと行動に駆り立てたのだろう。
マスコミ報道に載った目撃者によると、「これが、わたしよ!」「これが、わたしなのよ!」と叫んでいたらしい。
まあ、ある意味、うらやましい女性ではあると思った。
そんな彼女="第1京浜の稲妻"にも、ついに最後の日が来た。
走行の休憩中、一瞬の隙を突かれ、逮捕されたのだ。
「有名犯」らしく、最後は、パトカーのボンネットの上で手錠姿を撮られた。
なぜか、本人は、嬉しそうな表情だったのが、印象的なカットだった。
即刻、連行された警視庁の取り調べ室でも、その様子は、変わらなかった。
人定質問を受けても、なぜか、嬉しそうに笑みが絶えないのだ。
そして、玲子は、瀬下の関係を一切、しゃべらなかったが、その関係は、すぐに外部に洩れた。
もっとも、本人は、何の衝撃も受けていないかのように振る舞った。
さすが、有名俳優のご子息だった。
社長令嬢として『逃亡の恐れなし』として、玲子が保釈されても、その変わらなかった。
既に高校卒業を目前に控え、抜けられない主演映画の撮影が、大詰めに来ていたという事情もあった。
マスコミからの「高森玲子さんとの御関係は?」という囲み取材にも、平然としていた。
しかし、事の重大さが、段々、わかってくるとそうも言っていられなくなってきた。
次第に、一定の社会責任を感じるようになったのか、その口調は、神妙なものへと変わっていった。
やがて、マイクを向けられると「今回の彼女の一連の行為の根源は、自分との関係にあったのかもしれません」と一定の範囲だが、関与責任を認めるようになっていった。
しかし、玲子にしてみたら、瀬下の「一定の範囲」という口ぶりが、気に入らなかったらしい。
保釈後の行動は、さほど変わらなかった。
服装は、普段の私服からコスプレ衣装へと変わっただけだった。
TVのワイドショー・マスコミの囲み取材を受けても、「あれは、スーパーガールが、やったことです。私には、関係ありませんと」とぬけぬけと応えた。
「撮影された顔が一致している」と指摘されると、今度は、全身ラテックス特別仕様のマスク・ウーマンに扮装し、大手銀行の内部に侵入した。
警備員に確保されて、マスクを脱がされると、バイクを放棄して、走って逃亡した。
最後のコスプレは、女性警官だった。
警官制服に着替えて、男でもやらない突撃姿勢で、颯爽と緊急車両の傍らを駆け抜けた。
要するに、この女――全然、懲りてないのだ。
どこまでも、いつまでも、自由で自己責任――それが、彼女の正体なのだ。
当時もそうだったし、今でも、そうだろう。
目黒第一高校卒業後、日本大学芸術学部映画学科演技コースに進学したあいつ――瀬下 優は、のちに「彼女との関係で、得られものは、ほとんど無かった」と特任教授に答えたらしい。
いや、あったんじゃないか?
恋愛教訓――その1=「どんな美女でも、自分の手に負えない女には、手を出すな!」ということだ。
未来の名俳優候補として、なかなか得難い人生勉強になったと思う。
そして、将来、この一連の事件=『彼女は、第1京浜の稲妻』が、ドラマ化されて、主演を務めることになったら、「このドラマの原作は、目黒第一高時代の同期の友人の上原君の原作劇画なんです。彼のように才能のある劇画作家の原作の主演が出来て光栄ですよ」とでも、インタビュー取材に応えてほしい。
そのぐらいの同期の友情は、あってもいいだろう?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる