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第4話 校内トップの肉体派美人体育教師との淡い青春の恋! その経緯と結末を振り返る!

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まあ、苦しくも楽しかった横浜体育大学での教練も、永久に続くわけではない。
そのことは、有布子自身も、よくわかっていたと思う。

青春は、いつか終わる。
問題は、その"終わらせ方"だよな。

新体操アスリートは、その体型からもわかるように10代が、ピークなんだ。




つまり、少女体型が終わった時に、その女子選手は、本気で進路を決めなくてはならない。

このまま、一生、新体操にかかわり続けるのか、それとも、別の道を選ぶのか?

彼女は、一般企業への就職の道を選んだ。
その決断は、よかったのか、悪かったのか、そんなことは、わからない。

ともかく、稀代の肉体派新体操アスリートとして、それなりにキャリアを積んだ有布子は、新体操のレオタードを脱いだということだった。





着替えたのは、地味なリクルートスーツ。
何とも冴えない姿だったけれど、仕方がない。

もっとも、稀代の肉体派だから、重役秘書の募集に応じ、銀座の一流企業では有名な――役員たちによる"下着面接"も何社か受けたらしい。




結果は、どれも不合格。残念ながら、稀代の肉体派パワーも、なかなか通じなかったということだ、
ただ、不採用の理由は、強烈な肉体圧力に居並ぶ役員たちが、全員、気圧されてしまったかららしい。
まあ、重役より、秘書の方が、肉体的迫力があったらまずいかもな。


最後は、すがりつくような眼になってしまったにも、関わらず、全空振りに終始した。
結局、時間と手間の無駄だった。

しかし、転んだら、ただでは起きないのが、稀代の肉体派女子アスリート。
横浜新道の必死に早朝マラソンで鍛えた精神力は、ただ者じゃない。

企業に挑む就職意識を完全に自分の財産――稀代の肉体的魅力に切り換えた。

まずは、鏡に映った――この顔だ。

平均点以上の美人なんだから、笑顔の練習次第で、すぐに通用するはず。

まずは、この顔に自信を持とう。

彼女は、そう決めた。

どんな面接でも、ぐいぐいと前に出る。

女としての羞恥心なんか、捨てるのだ。

狙いの職種は、もちろん、美人体育教師。

リクルート・スーツと一緒にピンクと純白のスポーツ・ビキニを持参し、速攻で着替えて、面接に臨む。

最初に見つけたのは、東京都立目黒第一高校の体育教師捕職という募集記事だった。
前任の女性教師が、結婚を機に依願退職したので、その補充人員ということらしい。

まずは、ガツンと行こう――とばかりに過去の履歴書を説明すると面接会場から、校庭に出て、一緒に自らの鍛え上げた肉体バリューを見せつけた。






面接した居並ぶ都立目黒第一高の教職員達は、唖然としたらしい。

そりゃ、都立校の教職員就職面接でここまでやる女性応募者は、過去にいないからだろうからね。

当然、審議は、紛糾したそうだ。


結果は、なんと契約期間採用に決まった。
理由は、彼女の肉体バリューもさることながら、その底の抜けたような楽観性かもしれない。

まあ、これで、めでたく、都立校教員になれたわけだが、"変化"は、ここから本番だった。





ド派手なピンクのスーツに身を固めたこの女――稀代の肉体派美人体育教師が、過去の類例なんかに当てはまるはずがないのだ。





肉体派美女にとって、自らの肉体的魅力を魅せつけるのは、「呼吸するのと同じ」だから、調子に乗る男子生徒のリクエストに応えて、どんどんその美肌は、むき出しになっていった。




廊下だろうが、校庭だろうか、どこに行こうが、その場所は、彼女の"肉体美のステージ"に変貌した。



冬でも、この調子だから、夏到来ともなれば、真っ先に白ビキニに着替えて、飛び込む。




稀代の肉体派美人には、どこでも、自らの肉体的願望を発散するステージなんだろう。

当然のように俺も狙われたよ。
歩くターゲットになった。


春と秋には、ゴルフ場に誘われ、夏には、グアム旅行に誘われた。

卒業間際の三年の秋には、どこで調べたのか、俺のキャリア・メールのアドレスに本人のビキニ写真付きで、デートの熱烈なお誘いのメールが立て続けに4通ほども、来てしまった。





もちろん、丁重な文面で、お断りした。
別に教師と生徒という関係だったからじゃない。

やっぱり、いくら稀代の肉体派美人で、強烈無比のセックスアピール・マシンでも、年上の女性――姉さん女房は、真剣な恋愛対象には考えられないし、これからの「一生の伴侶」には、成り得ないよなと。

でも、これは青春のいい思い出だった。
淡さも純度も、ちょうどよかったんじゃないか?

素敵な恋も、やりがいのある仕事も、そして、輝くような鮮烈な生きざま――これからの人生のすべておいて、ハードボイルドで成熟した格好いい男性に憧れる俺だけど、人生最初の恋を教えてくれたのは、間違いなく、彼女だ。

ありがとう。

これが、卒業した、わが母校――都立目黒第一高校での一つ目の思い出だ。
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