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第3話 豪胆無比の肉体派彼女が、今日、決めたこと。「このわたしをみて! わたしは、路上でも寝られる女よ!」
しおりを挟む横浜体育大学、名物の全新入生必修の横浜山間マラソン。
一年生は、毎朝、これが半年、必修なんだそうな。
もちろん、有布子も、全日程に参加だ。例外はない。
最初は、自信があったらしいが、何しろ「全日程をやったら、顔が曲がる」と言われるほどの必修課程なので、相当、厳しかったらしい。
晴れの日は、当然として、6月の梅雨時も、朝から決行だ。
土砂降り日でもやめない。
こうなると、汗をかいているのか、雨に濡れて、震えているのか――本人でもわからなくなるらしい。
耐え抜ける者は、いるが、気を失って、脱落するも、毎年、現れる。
そういう者は、半年を待たずに中退届を提出することになる。
有布子も、必死だったようだ。
本当に全行程を走っているか、どうか、監視に来る教職員がいるからね。
教職員から、名前を訊かれたら、どんなに疲労が溜まっていても、答えなくてはならない。
時には、群衆の前で、鬱積した感情を大爆発させてしまうこともあったようだ。
早朝、学生寮で起きたら、完全にイッてしまった両眼で「生理が停まりました」と自室の自撮りカメラの告白したりしたこともある。
もう、こうなったら、覚悟を決めるしかない。
本気で肉体改造をしなくては、昏倒してしまう。
緑川有布子は、まさに"体育系大学という闇"の底を覗いてしまったんだ。
まずは、食生活を変えることだ。
完全に肉食中心の料理に変えた。これしかない。
当時の彼女のインスタグラムには、その変化が顕著に表れている。
ただの女子大生の日常を綴った写真が、この時期を境に血の滴るようなステーキ知友新野生活になった。
これで、筋肉質ではあるが、まだ腺の細い少女体型だった、かつての自分に決別し、新体操選手として――そして、将来の肉体派体育教師としての自分に変身したんだ。
その成果は、すぐに表われ、いよいよ引き返しようのない骨太の成人女性になってしまった。
毎日の睡眠時間は、少なく、蓄積疲労は、なかなかとれないから、休養は、昼間のトレーニング休憩にとるしかない。
そこで、彼女は、路上睡眠すら摂るようになった。
まったく、豪胆無比の肉体派女性アスリート。
こうして、神奈川県内の主要幹線道路は、彼女の"休憩ベッド"になった……。
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