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目論見
しおりを挟む突然、あの狸女が訪ねてきた。
「ご機嫌麗しゅうございます」
ゆったりと応接室の椅子に座ると、部屋に飾ってある花を見て目を細め、紅茶をこっくりと上品に飲んだ。
「こちらのお花、侍女のセレクトですの?」
「ええ、最近よく花を飾るようになって」
「ユーリ様とご婚約されて、このお邸の内装もずいぶん明るくなりましたわね。ほんと素敵ですわ」
ウフフ、とふっくらした唇から笑みが溢れる。以前のピリピリした雰囲気とは随分変わった、ように思う。
とはいえ、この女のやらかした事は許されない。証拠があればしょっ引かれてもおかしくない事だ。
「あらあら、随分怖い顔になってますわよ」
「今日は一体何のようだ」
「お見舞いと、お祝いの言葉をお伝えに」
嫌味のないさわやかな笑顔を見せる。
「この度はご婚約おめでとうございます。やっと目障りなユーリ様と婚約して下さって」
「やっと? とは」
はぁ、と大袈裟にため息をつき、エイダは再び紅茶に口をつける。
「私、以前腹黒いですのよ、といったの覚えていますか?」
「ああ」
「私、数年前から第一王子の妻になろうと画策してましたの」
俺は眉間に皺を寄せ、彼女の独白を無言で聞く。
「ですが、父がある時貴方を私の夫にしたいと言い出しまして。周りからお聞きしました所、思う人がありながらいつまでも婚約もせず遊んで歩いてるとお聞きしまして」
こめかみに血管が浮かびそうになる。一体誰が遊んで歩いていると言ったのか、まったく。一瞬ユーザの顔が思い出される。
「さっさと婚約に運んでもらいたいと思いまして、その気にさせるためにおじゃま虫を演じましたの」
確かにユーリとの婚約は考えていたが、仕事の都合で後回しにはしていた。そのためにエイダとの婚約話が出てしまった上に、第一王子にも興味がユーリに向いてしまったという話だ。
「しかし、あのユーリを襲わせるのはやり過ぎだろう」
「ドレスだけ破いて、襲われた問題の女性って事になれば召し抱えようなんて思わないだろうと思って。貴方でしたら問題なく婚約するでしょう?」
という事は、全部自分が王太子妃になるための目論見。
腹黒と自分で言うだけあって、一貫している。俺は額を押さえ、ためいきをついた。
「そして私、ユーリ様に断られて傷心の王太子様をお慰めして、先日婚約の打診が来ましたのよ」
喜んで受けるのが目に浮かぶ。
あの時の事は、全くもってこの狸女に振り回されたわけだ。
まったく、なんというか腹黒さもここまでだと清々しい。
「ですから、お祝い申し上げますわ」
ニッコリと、してやったり顔で微笑んでいた。
「それでは、お大事になさってください」
何というか、殿下もそれでいいのか?と思いつつもホッとしたやら何やら複雑な気持ちでその日が過ぎるのだった。
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