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婚約へ2

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 忌々しい。つくづく忌々しい。
 だが、あんな女のことを考えるのも無駄だ。
 俺は意識を他に向けようと城内に視線を向けた。ふっと視界にユーリの姿があった。
 ユーリ?
 キリッと背筋を伸ばし、ブルーのドレスに身を包みゆっくりと歩いている。
 隣に誰か……

 ノルティ殿下!

 恐らく客間に連れて行くのだろうが、まさかユーリが直接会うとは。
 俺の胸がザワザワとしている。
 しかしあと数日で婚約だ。問題ない。

 俺は今見た事を振り払い、邸へ向かった。




「いよいよご婚約ですかー」

 ニマニマしながらユーザが書類片手に呟く。

「まさかアリオス様がご結婚に向けてご婚約するとは……もうイメージが遊び人でフリーダムでしたからねぇ」
「あのなぁ、つくづく失礼だぞユーザ」

 ぱぁっとユーザの周りにはお花畑がフワフワと咲き乱れているように見える。

「けど、ノルティ殿下はユーリ様を諦めるでしょうかね?」

 俺が気にするところを平気で突いてくる。エルトー伯爵の感じからすると、問題ないとは思うのだが、相手が王室なだけに不安要素はある。

 まあ考えても仕方ない。今度ユーリに会って話してみよう。

 俺は手元の書類に目を通して、サインをしていく。遊び人がこんな仕事を真面目にやるか、とボヤいてみる。
 ひたすら続く仕事に、運動後はキツい……と思うのだった。




     †††



 今日はユーリがこちらの邸に来る日だ。先日のことを手紙で連絡すると、ユーリは直接話しましょうとこちらを訪れる事になった。

 侍女のリュナはいつのまにか仲良くなったらしく、ユーリが来ることを伝えると嬉しそうにしている。花は新しく変えられ、いつもより俺に親切に従事してくる。年頃も近く、気もあったのだろう。
 俺をそっちのけで迎える準備をしているのは微笑ましい。



 ユーリの馬車が馬のいななきと共に邸の前に止まった。リュナは今か今かと待っていたので、すぐさま迎えに出る。ユーリが馬車から降りると、応接室へ案内した。

 お茶の準備をし、たわいの無い話を少しした後、ユーリの侍女とリュナには下がってもらいこみ入った話ができるように2人になった。
 テーブルを向かい合わせに、背筋を正す。
 
「先日の城での事だが」

 俺は切り出すと、ユーリは頷いた。

「殿下から訪ねるよう手紙をいただいたので伺いました」

 ユーリは淡々と、説明する。

「私はすでに婚約を進めている方がいるので、ありがたい話ですがお断りしますと伝えました。殿下はそうか、と言うだけで話は終わりました」
「では、問題ないんだな」
「と、思います」

 もともとユーリに対して執着はなかったのか。取り越し苦労をした自分に幼稚さを感じてしまう。
 ふぅ、とため息をつくと俺は椅子の背もたれに寄りかかった。ギシ、と音が鳴る。少しの時間、無音が支配する。

 ユーリはゆっくり席を立つ。俺はその姿を穏やかに眺めた。

「あの……アリオス様」
「ん?」
「帰りがけに、先日の夜会でお酒を一緒に飲んだ女性がいらして」
「ああ、エイダか」

 思い出したくもない、あんな狡猾な女。
 俺が苦々しい顔をしていると、言いにくそうにユーリは言葉を続けた。

「殿下は渡しませんと」

 は?

「手を出すなと釘を刺されました」

 ユーリは苦笑いしている。
 何でそうなるんだ?
 時系列で追ってみても、よくわからない。
 第一王子が目当てなら、ユーリを襲わせる理由がわからない。しかし婚約話が出た当初から印象を悪くしてきていた。何か思うところがあるんだろうが……本当にモヤモヤする。つくづく嫌な女だ。

「あー……ユーリ」
「はい?」
「婚約式の日が待ち遠しいな」

 俺は遠くを見るように言った。

 
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