異世界から来た女は魅力的なので

噂

　ユーリは異世界から来たというのだが、俺からするとあまり実感はない。
　金持ちの人間と結婚しようとか思う野心もないが、そういう娘はこの世界でもたまにいる。

　ただ、心配な事があるとすれば、万が一その異世界にユーリが戻ってしまう事があったら、だ。

　彼女はうまくこちらに馴染んでいるが、いつ自分がこちらに来たのかもわからず、いつ戻ってしまうかもわからないためだ。

　俺は隣に眠るユーリの髪を優しく撫でる。サラサラと流れ落ち、頬があらわれたので、チュ、とキスをする。

　昨日はユーリが酔ってしまったので、侍従に頼んでエルトー邸に宿泊させる旨を連絡した。婚約を請う手紙を預けると共に。
　きっとこれで、俺たちは互いに安心できるようになる。
　あとはエルトー伯爵が戻るのを待つのみだ。

　……さてと、ユーリがいるのに心苦しいが、仕事をしなければならない。
　昨日のサインの続きから。

　俺は伸びをすると、仕事の準備を始めた。



　　　　　†††



「おはようございます、アリオス様。昨日はだいぶ捗りまして、アリオス様が残したサインだけになっております！」

　それはもう嬉しそうに伝えてくるが、時間が経つに連れてまた増えて行くのが関の山。
　俺は席に着くと、昨日の続きを始める。

「うーむ、ひたすら自分の名前を書くのだるいな……」
「そんな事言わないでくださいよー。今日はそれほどまだ他の仕事も入ってこないし、いい感じに進んでるんですから！」

　俺がダレはじめ、やらなくなる予感がしたのか、まあまあ進めて下さいとユーザが後押しをする。

「あっ、そうだ、知ってましたか？　第一王子がどこかのお嬢様に婚約を望んだそうですよ」
「ふーん、第一王子がねぇ」

　個人的にあの人物はチャラチャラとしていて人として好きではない。もちろんそんな顔はおくびも見せないが、心の中では舌を出している。
　あんなのが姫さん求めたって、側室どんどん入れてメチャクチャになるだろう。
　なまじ美形に生まれついてしまったものだから、やりたい放題だという噂だ。
　ま、噂は噂で本当の事はわからんが。

　やっかみなどで変な噂を流されることもあるしな、と思い直す。

「と言うわけで、今日はあと少しです。頑張りましょう！」

　ユーザは拳を上げて、オー！と盛り上げた。