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思惑2
しおりを挟む馬車で邸近くに着くと、とりあえず少し離れた所で待機していてもらう。
空は既に星が輝き始め、辺りは暗くなっていた。ゆっくりと星を見るなら今日は最高の日だろう。が、まったくそんな気にもならない。
「あの狸女、何考えてる」
受付は家の入り口で、庭には入れる。まあ、知らない顔ではないから呼ばれたフリして入ることも可能だが、あまり面倒な事にはなりたくない。
俺は庭に入り、木を背に寄りかかる。
中で何があるかはわからないが、あの女のからかいなだけならいい。
こうしてここにいても、時折散歩に出てくる令嬢や令息が居るくらいで、特に何ごともない。
考えすぎだったかと、少しホッとするが、ユーリの姿を見たわけではないので、安心しきれない。
フラリ……と、少しよろけながら庭に茶色の髪の女が出てくる。ユーリだ。
こんな時は髪の色がよく目立ち助かる。
俺はユーリの元に近づこうとしたが、ひた、と止まった。
後ろから男が出てきて、ユーリをテラスの椅子に座らせている。
どうやら酔っているらしい。
どいつが飲ましたか知らないが腹立たしく、ギリッ、と奥歯を噛む。
ペシャっとテーブルを抱えるようにユーリは酔いつぶれていて、男が話しかけているようだが動かない。
男はそのままにしてまた部屋に戻っていく。
そして入れ替わるように、30半ばほどのヒゲを蓄えた男が出てきた。その男はユーリに声をかけるが返事があるわけではない。
男はユーリを起き上がらせると、横抱きにして俺のいる方と反対の方角へ連れて行く。
歩くたびにふわふわとドレスのレースが舞っている。
男は茂みにユーリを寝そべらせた。
俺は急いでそちらへ向かう。
「酔いつぶしてこんな色気のないガキ相手にこんな事やれなんて、エイダも何考えてんだか」
男がひとりごちるのを、俺は聞き逃さなかった。やっぱり仕組んだのはエイダだった。
男はユーリのドレスに手をかける。
ビリ、とスカート部分と胸のあたりを破っていく。
「!!」
俺は慌てて男のそばに行くと、引き止める。
「おい! 何やってる」
「なっ、あ、いや」
男は慌てた様子で、何にもしてないと逃げ出す。
ドレスは土で汚れ、素肌が見えてしまうほどビリビリに破られている。ユーリの細い首には俺のプレゼントした、グリーンの石の入ったネックレスが輝いていた。
俺は自分の上着をユーリに被せ、横抱きにして馬車の元へ向かった。
†††
家に戻り、侍女にユーリの着替えを頼む。彼女はユーリと既に仲良くなっているので、何かあったのを察してすぐに着替えさせてくれた。
俺は自室にもどり、ポスンとソファに寄りかかる。
「あの女、襲わせた?」
一体何故ここまで。
つい先日まではただの知り合いだった。恨まれるような事はしてないはずだ。
野心だけなら尚更こんな事をしたらうまく行くはずがない。
「一体なんなんだ?」
いくら考えても出てこない。
俺の知らない何かがまだあるのか?
天井を仰ぎ見ると、目を瞑った。
少しの間、何も考えずボーッとしていると、コンコンとノックされる。
「どうぞ」
カチャリとドアを開けると、ユーリが顔を出した。まだ少し酔いが残っているのか、顔が紅潮している。
「アリオス様、ごめんなさい……」
謝ると部屋に入り、後ろ手でドアをそっと閉めた。
「リュナさんに、どんな状態だったのだけは聞きました……」
俯いて、両手で顔を隠す。
とんでもないことになる所だったのは容易に想像できる。
俺は立ち上がり、ユーリをソファに座らせた。
「無事でよかった」
本当にそれだけだ。
俺はユーリの隣に座ると、漂ってくる酒の臭いに気づく。
「結構な量飲んだのか?」
「いえ、そんなにたくさんは……男性が度々来ましたけど断りましたし、強いて言えばエイダさんと言うお嬢様が勧めてこられたので、同性だしとグラス一杯飲みました」
「エイダか……」
やはりこの謀はエイダが主導した事。
まあわざわざ教えにきたんだから、そこまで酷い事はするつもりがないんだろうが。
何を考えているのかわからない女だ。
隣で不安そうにするユーリの肩を抱き、自分に寄りかけた。
「大丈夫だ。お前は俺の嫁になるんだ。守るさ」
少し先の話になるが、気持ちだけは伝えておきたい。
はらりとユーリの黒い瞳から、涙が溢れる。俺はそれをキスで吸うと、そのまま唇に口付けた。
「しょっぱいキスもあるもんだな」
フフ、と可笑しくなってしまった。するとユーリもクスリと微笑んだ。
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