異世界から来た女は魅力的なので

らいらい

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婚約話

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 ユーリと一緒に買ってきたカフスをユーザに渡すと、それは驚いていた。
 実際は誕生日前に渡したが、物をあげるというその行為自体が珍しく目を白黒させていた。

「まさかアリオス様からこのような物をいただけるなんて……ありがとうございます」
「いつも仕事休んでお前に任せてしまっているからな。礼のような物だ」

 ユーザは目をキラキラさせて喜んでいる。自分の努力が認められていたことが嬉しかったのだろう。俺はフッと笑んだ。

「ところでアリオス様、先程ホルスタン卿から連絡がありまして、あちらのお嬢様とご婚約はいかがかと」
「あー、あの令嬢か。ないな」

 先日会った時は、こちらへ興味があるように見えなかった。恐らくホルスタン卿の意思だろう。

「うまく断ってくれ」
「ですが……取引先ですので、私ではなかなか難しく」

 うーん、と俺は執務室の机をトントンと指で叩くと、前髪をかきあげた。

「では後日、話し合いの時間を取ってくれ」
「かしこまりました」



     †††



 数日後、ホルスタン卿邸へ挨拶に伺った。

「この度はお嬢様との婚約話などいただき光栄です」
「ああ! 君ならうちの娘を託しても幸せになれそうだと思ってね。よろしく頼むよ」
「その話ですが……」

 一方的に捲し立てるホルスタン卿を遮る。

「お嬢様は器量もよく、賢いと見受けられます。私にはもったいないと思いますし、他に約束をした殿方がいるかもしれません」

 ニッコリと微笑むと、遠回しに断りを入れる。
 ガッハッハと娘を褒められ気分を良くした卿は自分の後頭部をポン、とはたく。

「いやいや、あの子はああ見えて人見知りでな、なのに君の話がよく出るのだよ」
「そうですか。光栄です」

 とりあえずこの方は人の話を聞かないようだ。眉間に皺が寄ってしまう。

「もうすぐエイダ……娘なんだが、帰ってくるので少し話でもしてくれないか」

 はぁ……話にならない。俺は額に手を当てると、ため息をついた。
 仕方ない、直接お嬢さんに話を付けよう。

 くだらない世間話や仕事の話など、ホルスタン卿と話しながら帰りを待つ。

 一時間ほど経ったろうか。
 やっとエイダ嬢が戻ってきた。

「あら、アリオス様いらっしゃったんですね?」

 話を聞いていなかったらしく、驚かれた様子でこちらを見ていた。話し合い、外の庭で二人で散歩がてら相談することとした。


 庭に出ると、芝がきれいに整えられていて、相変わらず隅々まで手入れがしてある。今日は明るいので、花も赤や黄色や紫など、綺麗に咲いている。


「ーーーー私、アリオス様と婚約したいと思っております」

 真摯にこちらを見つめ、言い放つ。
 俺は戸惑う。何を思ってそう決めたのか。

「しかし、噂ではお嬢様をのぞむ男性も多いと聞きました」
「ええ、ありがたいことに。ですが、私は貴方が一番いいと思ってますのよ」

 にこり、と色香漂う笑顔でそう言うと、こちらへそっと近づき俺の胸に寄り添って来る。

「エイダ嬢!」

 俺は彼女を引き離すと、クルリと踵を返す。一体どういう事だ。

「うふふ、私腹黒いんですの。貴方が今よりずっと立派な方になると踏んでますの」
「……」

 俺は勘違いしていた様だ。父親の意思でなく、娘の野心の方が強かったのだ。

「愛人がいらしても構わないですし、いずれ結婚して頂けるだけで構いません」

 頭が痛くなる。こんな野心の強い女が身近にいたとは。俺はイライラとしてくる。俺の嫌いなタイプそのままだ。

「すまないが、私は婚約も結婚も貴女とはする気はない」

 一瞬、空気が固まったように感じる。エイダ嬢の口元がいやらしく歪んだ。

「あの茶色の髪の女性、貴方といて幸せになれるかしら?」

 俺は振り向くと、エイダ嬢は冷たい表情でこちらを見ていた。

「何?」
「ふふ、さあ」

 鼻で笑うと、今日はこの辺で失礼しますわ、とこの場を去ってゆく。

 ホルスタン卿の娘、一体何を考えているんだ。俺は部屋に戻り、とりあえずホルスタン卿には断ったことを伝えた。
 残念そうな顔をしてはいたが、今日の所はここで帰らせてもらうこととなった。


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