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嫉妬2
しおりを挟む何処かの令息が、ユーリに声をかけだした。
俺の目の下はヒクリとひきつり、和んだ気分がまた消え去る。
ユーリは愛想笑いを浮かべ、令息はしつこくあれこれと話し込んでいる。
メイドから受け取った酒をユーリに手渡し、飲め飲めと勧めているようだ。
さりげなく男の手がドレスをタッチする。
彼女は困った顔をしつつも、グラスに口をつけて飲むふりをしている。
感心すると共に、令息に対して激しく怒りが湧いてくる。
睨むような視線に気づいたのか、ユーリがポカンとこちらを見た。
俺はユーリの元へ行くと、割って入った。
「失礼、ユーリ嬢。アリオス・ウィンスターと申します」
令息は何かを察したのか、面倒な事を避けるように、サッと他の令嬢の元へと近づいていった。
「アリオス、ありがとう」
ほぅ、とため息をつくと胸に手を当てて緊張していたのがわかった。
「変な虫でもついたら困る。自分でもうまく払えるようにしてくれ。ヘラヘラと男に笑うな」
眉根を寄せて困った顔でユーリは笑った。
俺は額に手を当てて思わず呟いてしまう。
「すまない、この所仕事が忙しくて。疲れていてピリピリしている」
「そうみたいですね。ごめんなさい、心配させてしまって」
黒い瞳が真っ直ぐに俺の目を見つめてくる。このままこの場からニ人で抜け出して、キスをしたり体に触れたりしたい、と頭の中がユーリで一杯になってしまう。
俺は小さく咳払いをすると、ユーリの隣で壁にもたれ、彼女のグラスを取りそれを飲む。
「夜会には相変わらず度々出ているのか?」
「ええ、それほど多くはないですけど。お父様も、そろそろ結婚を考えて欲しいとおっしゃってるので一応形だけでもと……」
婚約を正式にしたいのだが、なかなか仕事の都合で彼女にそれを言い出せない。彼女もおそらくわかってはいると思うが。
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いや、そもそも口説かれている事そのものが忌々しい。こめかみに力が入る。
隣にちょこりと立つユーリにチラと目をやると、髪を上げた普段とはまた違う雰囲気に気付く。
香水をつけられているのか、甘い匂いも漂っており、俺は数杯の酒で酔ってしまったようだ。
「アリオス、今日はあなたに会えて嬉しいです」
少し恥ずかしそうに、前を向いたまま伝えてくる。
「あ、ああ」
俺の声はかすれ、何も言えなくなる。
この華やかで騒がしい空間の中で、俺たちだけが別の世界にいるようで。
「少し、外の空気を吸いにいかないか?」
俺はそう言うと返事も待たず、出入り口に向かって足を進める。ユーリは何も答えずついてくる。
こういう所がまた愛らしい、と思う。
外に出ると、涼しげな空気に気持ちが良くなる。あたたまりすぎた体をほんのり冷やしてくれた。
彼女は両手をあげてンーッと伸びをすると、大きくため息をついた。ああいう場は得意じゃないんだろう。
「綺麗なお庭ですね」
「そうだな。よく細かい所まで手入れが行き届いているみたいだ。意外にホルスタン卿は華やかでかつ繊細な所がある」
庭全体が芝が植えられ、広々としていて開放感がある。
小道にはレンガ石で花壇が作られ、色とりどりの花が咲いている。
俺たちはその道をゆっくり歩く。
まだ宴に夢中なのか、人の気配はほとんどない。
小道を少し行った辺り、小さくひらけた所に出た。
木々は鬱蒼としていて、邸から離れたため暗がりになっている。
ユーリに目をやった瞬間、そよりと風がふく。
ふわりと香水の香りが漂う。鼻腔をくすぐる甘い香り。誘惑の香り。
さっきの男がチラリと脳裏に浮かぶ。
「ーーーー俺以外の男を誘惑するんじゃねぇよ」
香水の香りでタガが外れたか、俺はユーリをグッと抱き寄せた。
「!!」
ユーリは驚いて固まってしまう。
俺はユーリの顎を軽く持ち上げると、深くキスをした。舌で彼女の中に押し入っていく。
「ん……ッ」
彼女の口の中で、俺はいつもより荒々しく激しく舌をせめる。こいつは俺の女だ。
さっきの男が触れた所と同じ所に触れる。
ユーリのドレスが汚されているように感じて。
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