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部屋
しおりを挟むリョウは元カノと話し合い、ちゃんと別れたみたいだ。私の手を取り、歩幅を合わせてくれているようでちょっとした気遣いが嬉しい。
リョウの体温が私の手に伝わってきて、胸がとくんと高鳴った。
嬉しい、けど、ありささんが辛い思いしてるのかと思うと少し胸が痛む。
下駄箱につくと、それぞれ靴を履き替える。靴を履きながらリョウの方を見ると、ニコニコと嬉しそうな笑顔だ。
「ねー新、今日はさ、新の家に行きたい……ダメ?」
うーん、部屋かぁ。狭い部屋に2人だと、きっとそういう気分にリョウがなっちゃう気がして。
今日はなんとなくそういう気分じゃないというか。
「ごめん! 今日はちょっとお母さんいるし、お友達も来るみたいだから」
「えー、そうなの? じゃあ一度着替えてゲーセンでも行く?」
「うん、行く」
話しながら帰り道を行く。リョウはいつもと変わらない。
ちょっと気にしすぎかな?
「じゃあまた後で! 迎えに行くから、待ってて」
リョウはニコニコと手を振ると、自宅の方へ戻っていく。姿が見えなくなってから、私は家に入った。
「ただいまー」
って言ってもお母さんは仕事でいない。
リョウには悪いけど、嘘ついてしまった。これくらいの嘘なら、問題ないよね?
部屋に戻ると、クローゼットからワンピースを取り出す。グレーの膝上までのシンプルなものだ。
この前一目惚れして買ったので、さっそく着てみることにした。
姿見の前で、変なところがないかチェックする。うん、無難で私らしい。小さめの白のポシェットもかけてみるが、違和感はない。
リビングに降りて、冷蔵庫からお茶を取り出してこくこくと飲んだ。
ホッと一息ついて私はソファに腰掛ける。
最近はリョウの事で振り回されて、なんだか落ち着かない。人と付き合うってほんとうに気を使うんだなともともとそんなになかった自信が無くなっていきそうだ。
少し、付き合うのを休みたいと思ってしまう。
でもあんまり自分勝手なのも気が引ける。
ソファにゴロンと寝転がり、目の前に腕を被せる。私、少し疲れてる。ふと、そう思った。
少しばかりうとうとしかけた時、チャイムが鳴らされた。
あ、リョウだ……出なきゃ。
眠いしだるくて動きたくない。
「新ぁー? いないの?」
玄関のドアをリョウは開けて、家の中へ向かって声かける。
私はのっそりと起き出して、玄関に向かう。
「ごめん、ちょっと寝てたみたい」
目をコシコシとこすり、目を覚まそうとする。リョウは柔らかい笑みを湛え、こちらを見ている。
「眠そうだね、今日はやめとこうか?」
リョウが提案すると、キョロキョロと周りを見渡す。
「お母さんいないの?」
「あ、あー、友達と買い物に出たみたい」
なんとかごまかせたかな。私は冷や汗をかきそうになる。
「そうなんだ、じゃあお邪魔していい?」
とびきりの笑顔でリョウが言う。さすがに断れない。
「う、うん。いいよ、上がって」
私はリビングにリョウを通す。
冷蔵庫からお茶を取り出して、リョウに見せる。
「お茶? コーヒーがいいかな?」
「コーヒーがいい」
私はお茶をしまい、食品を置く棚からインスタントコーヒーを取り出す。
私の猫柄のマグカップにコーヒーを入れ、リョウに渡した。
コーヒーの香りがリビングに充満している。
「ありがと」
ソファに座って、リョウがコーヒーを飲んでいる。猫柄のマグカップと、リョウの綺麗な顔に少し違和感を感じるが、気にしないことにする。
「ん? 何?」
私がリョウの顔をじっと眺めていたようで、それに気づいて不思議そうに聞いてきた。
「ううん、なんでもない」
私はテーブルを挟んだソファの向いに座り、さっきコップに入れたお茶を飲む。
なんとなく無言になってしまう。
「新、こっち来なよ。一緒に座ろ」
リョウがむぅっと口を尖らせて、不満げに言う。わざと離れて座ったのを見透かしたのかな?
「あ、うん……」
私はコップをテーブルのソファ近くに置いて、その前にそっと座った。スカートがクシャクシャにならないように、さっと裾を直す。
「今日はワンピースなんだね、似合う」
私の目をしっかりと見て、褒めてくる。
「かわいい」
なんとなくへんな空気を感じて、私はソファから立ちあがった。
リョウは私の腕を掴み、引き止める。
「待って」
クイ、と軽く引っ張られると、よろけてリョウの広い胸に倒れ込んだ。
頬が熱くなり、紅潮する。
服越しに暖かい体温が伝わり、この先の事が、私の頭の中でよぎった。
リョウから離れようと腕で押すが、ギュッと抱きしめられ押し返す事ができない。
「逃げないで、新」
耳元で、リョウの甘えたような声が私を動けなくした。
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