ニセカノ

らいらい

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塩対応

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「ねー新、昨日は寝ちゃっててごめん、怒ってない?」

 朝イチで私の席に来たかと思ったら、しゅんと捨てられた子犬のような顔で小さくコソコソ耳打ちしてくる。
 怒って帰ったのかと思ったらしい。私はすぐにいやいやと手を振って、眉を下げた。

「怒ってないない! 起こすのもなんだったから、そのまま帰っただけだよ」

 私がニコリとすると、ぱぁっといつもの明るい表情になる。キラキラしたかわいいリョウだ。

「よかった! 俺てっきり何か気に触る事したかなと思ってたよ」

 胸に手を当ててはぁ、とため息を大きくつく。

「あ、あと俺、ヨウタと帰り出かける予定だから、今日は新と帰れない……」

 珍しく、リョウが友達と帰るらしい。毎日一緒だから、たまにはそういう日もあっていいと思ったり。

「うん、わかった」
「ごめんね、新ぁ」
「大丈夫だよ」

 結構人が来てる教室の中で手を握ってくる。
 だ、ダメだってば。握られた瞬間クラスがザワつき、視線が痛い……。
 私は焦ってさっと手を引っ込めると、椅子の後ろで組んだ。
 段々と距離が近づくにつれて、遠慮がなくなってくる。当たり前だけど、あまり周りに想像されたくない。

「なんか新冷たい」
「へっ? いや、そんな事は」
「やっぱり怒ってるんでしょ? 俺がするだけして寝ーーふがっ」

 リョウの口を塞ぎ、この教室でとんでもないこと口走られるのを抑えた。危なかった。

「リョウ! ほんとに怒るよッ」
「ふぁい」

 口を押さえてる姿がほんのり嬉しそうに見えるのは、見なかった事にする。






 ドアを開けると壁側にたくさんの棚が設置されており、様々な種類の本が並べられている。
 私は、先週借りてた本を返すために図書室に来た。リョウと一緒だと騒がしくなるので、今日帰りが別々で丁度いいかもしれない。
 私が本を返却して奥の方の棚へ目をやると、見覚えのある顔を見かけた。佐々木冬馬だ。
 じっくりと本を選んでいるように見える。
 棚の上の方へ手を伸ばすと、厚い本を手に取った。ここからでは何で書いてあるかはわからない……と、私の視線を感じたのか、冬馬があっ、とこちらに気づき、近づいてくる。

「今日はリョウと一緒じゃないの?」
「あー、うん。友達と出かけるみたいで」
「へー、珍しいな」

 冬馬は手に持った本を借りると、カバンの中にそれを入れた。分厚いので結構重そうだ。

「あんたも図書室なんて来るんだな」
「失礼ね、私これでもそれなりに本くらい読むよ?」
「……あんまり読まなそうだと思ってた」

 冬馬はヘラッと笑ってみせる。
 むっ、この人毎回毎回余計な一言多いんだよね。

「あれ、怒った? ごめんごめん」
「謝る気ないでしょ。じゃあ私こっちなんで!」

 下駄箱に着いて靴を履き替えると、校門まで足早に歩く。

「俺にはずいぶん塩対応だよなぁ」

 後ろから冬馬が話しかけてきた。そう、確かに塩対応だなと自分でも思うけど。どうも距離感がイマイチつかめない。

「クラスが違うしよくわからないし……」

 私が言うと、歩幅を合わせて隣を歩く。ちょいちょい絡んでくるんだよね、この人。リョウの友達ってのもあるんだろうけど。

「最近リョウがわかりやすく舞い上がってんだけど、いい感じなの?」

 ぶはっと吹き出しそうになる。

「いい感じっていうか……悪くはないというか……」

 しどろもどろになりながら、何となく歯切れが悪くなる。進展具合なんか言いたくないし。

「ふうん、意外に上手く行ってんだね。てっきりリョウの重さについてけなくなってるかと思った」
「……そりゃリョウは感情的な方だし、私に人が寄り付かないようにするのはやりすぎかなと思うけど、いい所はたくさんあるよ」
「そうか、ならよかった」

 にこ、とこちらに顔を向け温かい笑みを見せる。リョウの事、ずいぶん心配してるんだ。
 ふと目の前の十字路からツカツカとロングヘアの女の子がこちらへ向かって近づいてくる。
 あれ、この子……。リョウの元カノだ。黒髪の綺麗な人。
 私の目の前までくると、きっと睨んでくる。

「あの、あなたリョウの新しい相手ですか?」
「は、はぁ」
「別れてもらえませんか?! まだ私ちゃんと別れたつもりはないので」

 は? 別れたつもりはない? へ? どういう?

「別れてくれとは言われたけど、ちゃんとOKはしてないので、私」
「あ、あの……?」

 意味がわからない。この間、付き合えないとリョウが言って、わかったって言ってたような。
 え、ええぇ? 
 目の前の出来事に、理解ができなかった。
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