ニセカノ

らいらい

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ドーナツ

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「リョウ! 勉強終わったから帰ろ!!」

 私はリョウを起こし、山田くんと目を合わさないようにする。目をこすりながら、んんー?とリョウが目を覚ます。

「じゃあ山田くん、また明日! さよなら」

 挨拶を言うだけ言うと、リョウの手を掴んで走り出した。
 リョウはキョトンとした顔で私に手を引かれついてくる。何というか、全く番犬にならない番犬のようだ。

「ちょ、新、どしたの?」
「なんでもないよ! それより今日マスドのドーナツ食べたいから来て!!」

 抱きしめられた時の怖さがまだなくならない。リョウに初めてキスされた時の感覚みたいだ。
 下駄箱に来ると、早くとリョウにせっついて、とにかくこの場から逃げようとする。

「ねえ新、待ってってば」

 慌てる私を訝しみながら、リョウは急いでついて来た。

「マスドはあっちだよ?」

 リョウは反対の方向を指差す。私はつい違う方に向かってしまっていた。慌ててマスドのある方に行く。

「ごめん、道間違えた」

 私がそういうと、ドジなんだからーとブーブー言ってくる。

「山田の勉強どうだった?」

 なんの疑問も持たず、リョウが聞いてくる。勉強はとりあえずまずまずだったようなので、問題なかったよと答える。
 遠回りしてしまったマスドの店内に入ると、ホイップの入ったチョコがけのドーナツを選び、受け皿に入れた。リョウはプレーンの甘さ控えめのドーナツを私の受け皿に乗せる。

「持ち帰りでお願いします」

 リョウが流れるように財布を出すと、支払いを済ませた。
 私は落ち着かず、財布からお金を出そうとするが、手のひらを上げて制止する。

「これくらい男にいい所見させてよ」

 と言う。
 私はそういうものなのかな?と彼の言葉に従って、財布をしまった。
 品物を買って店を出ると、公園へ向かう。2人の帰宅デートは大体公園になっている。

「はい、これ新」

 いつものようにベンチに座ると、リョウがドーナツを手渡してくる。私はそれを受け取った。
 リョウは自分の分を紙袋から取り出すと、ガブリと結構行った。私はガブッとそれなりにかみついた。

「頭使ったから甘いもの食べたくなっちゃったよ」

 私がニコリとすると、リョウも二へ、と笑みが溢れる。サラサラの髪が、太陽でさらに明るく見えた。

「俺も甘いの食べたい」

 自分のものを食べ終えたリョウは、かぶりつく私をじっと見る。私は最後の一口を、容赦なく食べ終わった。

「んー、おいしい!」
「あらた」

 ガブリ、と私の唇を食べた。
 そっと舌を差し込んできて、私の舌を柔らかく撫でる。
 ぬるりと繋がった舌はドーナツの香りで甘かった。

「ん……ッ」

 私は目を瞑ると、リョウに身を任せる。抱きしめられ、背中に手を回され、キスがだんだん本気になってくる。
 ここ、公園。
 いけない、と思い、求められる嬉しさを振り払い私の方から唇を離す。
 リョウは目の当たりが赤く染まり、男のスイッチ、というものが入っているみたいだ。

「リョウ、明日の試験」

 私は無理矢理話を出して、腰や胸に触れてくるリョウをとにかく止めるが、なかなか我に返ってくれない。
 目の端に、人の気配がする。見られちゃう。

「リョウってば」

 言った瞬間、ベンチの後ろからボフンと何かでリョウが叩かれた。驚いてリョウが振り向くと、冬馬がいた。手に持っていたのは教科書だ。

「不純異性交遊」

 リョウがポカンとしていると、冬馬が腰に手を当ててリョウに言った。

「俺がお前たち見かけるといっつもそういう事してんな」

 私は真っ赤になって否定する。

「そういう訳じゃ……」
「何度も言うけど、隙見せすぎ」
「ちょっと待って、私ドーナツ食べてただけだよ。隙なんて見せてないし」

 リョウはまあまあと私たちの言い合いを制止した。元々のきっかけはリョウなんだけど……
 まあ、結果的にはまた助けられてしまった。
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