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冬馬
しおりを挟む私はとにかく走った。
公園が目の前に見えてきて、目の端に古くなったベンチが目についた。
私は歩いてベンチに座るとカバンは脇に置いて膝の上で手を握りしめた。
どうしてリョウは私が困ることをわざとやったり言ったりするんだろう。元々偽りの彼女って話だったのに、何で私にこだわるの?意味がわからない……
「おーい、佐藤新。今度は授業サボりか?」
ベンチの近くまで来ると、佐々木冬馬がまた呆れた顔で話しかけてきた。
彼は隣にどすんと座り、背もたれに寄りかかる。古いベンチはキシ、と音を立てる。
「リョウはさ、前カノに酷い目にあったんだよ」
冬馬は自分の太ももの間で手を組み、空を見ながらポツリと言った。
「綺麗な子でさぁ、その子が告白してきて、まだ好きな子とかいなかったみたいでオッケーしたんだ」
私がリョウと付き合い始めた時みたい、と思い巡らした。
「んで、ホラあの外見だろ? イケメンの彼女って事で彼女はもっとチヤホヤされだして。リョウはまだ好きの気持ちがよくわからなくて、付き合ってる相手にも友達にもみんなに優しくて、だんだん彼女も不満が出てきたみたいで」
私とは違ってぼっちでもないし美人で彼氏はイケメンでチヤホヤされるって、一体何が不満なのかわからない。
「ある時その前カノ、浮気したんだ」
「えっ……?」
思わず冬馬の顔を見る。
冬馬はなんとも言えない笑みを浮かべて、続ける。
「まだその彼女とはキスどころか手も握ってなくて。その状態で2ヶ月くらい付き合ってたんだけど、彼女、他の男に相談したりして浮気始めたんだよ」
「最低……」
「うん、リョウの立場なら最低って思うよな? でもさ、彼女の立場だったらどう思う? 付き合って友達と変わらない扱いのまま、手も握ってこないただの友達みたいな彼氏」
好きな相手なら、手を繋いだりキスもしたりとか、したいのかな。
私もまだ好きな人がいるわけじゃないし、よくわからない……
「だから、リョウ、自分で彼女にどうすればいいのかよくわかってないんだ」
「あの、でも私、元々リョウに彼女って事にしてって本当の彼女じゃなかったから。私もそのつもりでオッケーしたし、なのに」
冬馬は真っ直ぐ私を見据える。
私は何を言われるのかとたじろいでしまい、顔を背ける。キョロキョロと、目だけが落ち着かずに揺れてしまう。
「人ってさ、嘘からでも好きになる事あるんだぜ」
それって。
「リョウが私を好きって事?」
「ああ」
そんな。でも、もう怖くてリョウと付き合うとかできない。
「でも、男の人にはわからないかもしれないけどこないだのあれ、私怖くて、リョウとそういう風になれるって正直思えない」
「んー、だからさ、その前にリョウの中身を見てやって。彼氏とか彼女とかは後にしてさ、遊んだり話したり、こんな奴なんだなーとかさ」
リョウも、私みたいによくわからないまま女の子と付き合って、傷ついて、リョウに興味ない私を選んで付き合って、人を遠ざけたって事だよね。
私はよくわからないまま冬馬に説得され、リョウに対しての嫌な気持ちは薄らいでいた。
「とゆーわけだ。ちょっとわかりづらいヤツだけど、マジでいい奴だから。中身見ないでさよならする前に、ちょっとでも見てやってよ」
そう言うと、じゃ、と学校の方へ戻って行った。
そうは言っても、もう別れたと公表したし、リョウの顔合わせるの不安だし、どうしたらいいか……
あうぅ、と、頭を抱えていると、冬馬が振り返ってこちらに向かって手を振って叫ぶ。
「お前隙だらけだから、隙は見せないようにな! いいな!」
いいなも何も……隙って何のこと?
わからない事だらけで、頭がパンクしそうだ。
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