【完結】公爵令嬢は王太子殿下との婚約解消を望む

むとうみつき

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王太子殿下は混乱する

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ローゼリアの罪の証拠集めは、全く上手くいかなかった。

ユリアが受けた嫌がらせを調べれば調べる程、ローゼリアに関わりが無い事が証明されてしまう。

教科書を破いたのも水をかけたのも、ユリアを心良く思わない数名の女生徒によるもので、そのうちの何人かは、側近達の婚約者だった。

むしろローゼリアは、ユリアを守ろうと動いていたふしがある。

最後の砦である階段事件について調べ直そうとしていたら、ユリアから話しがあると呼び出された。

「ごめんなさい!」

私達に頭を下げるユリア。
ピンクゴールドの艶々した髪がふわりと揺れる。

「何故謝るんだ?」

ユリアが顔を上げると、その目一杯に涙が溜まり水色の瞳が揺れて見えた。

「この前階段から落ちた時、ローゼリア様にやられたのかって聞かれて、思わずうんっ言っちゃったけど、本当は自分で足を滑らせて落ちたの」

私達は顔を見合わせた。

「そう言えと、誰かに脅されたのか?」

「違うよ!本当の事だよ!…あの時、びっくりして怖くって混乱してたの。本当にごめんなさい」

そう言ってまた頭を下げるユリア。
ポロポロと涙が溢れ落ちる。

私達はまた顔を見合わせた。
皆困惑した顔をしている。
ユリアはパッと頭を上げると続けて言った。

「あとね、昨日クラスの女の子達から謝られたの。教科書とかハンカチ隠したりしたの、その子達だったんだって」

それは恐らく調べに上がって来ていた女生徒達だろう。

「だから、だからね、ローゼリア様は何も悪くないの。それどころか、クラスの人達にあたしの事見守ってあげて欲しいって頼んでくれてたんだって」

それも調べに上がっていた。
ローゼリアは他の生徒達に、ユリアを気にかけて欲しいと依頼していた。

ユリアは涙に濡れた顔を私に向けた。

「アラン様!ローゼリア様に謝りに行こう!」

「…っ!な、どうして」

「アラン様、ローゼリア様の事叩いちゃったんでしょ?ローゼリア様は何も悪くないのに。元々はあたしが混乱しちゃったせいだから、あたしも一緒に謝りに行く!」

ユリアが私の腕を掴んで揺すった。

「アラン様、ローゼリア様いい人だよ!婚約者のアラン様にあたしがくっついて歩いてても、その事で文句言われた事は一度も無かった。貴族のルールや礼儀作法を言ってくるのは面倒くさかったけど、それもあたしの事を思って言ってくれてたんだよ!」

私は混乱していた。
ユリアの言葉と調査の結果が頭の中でぐるぐる回る。
ローゼリアは何も悪く無かった?

これまで何かある度にローゼリアの仕業だと思い責め立てて来た。
確かにローゼリアは自分では無いと言っていたが、嘘を付いていると思いさらに強く、時には思い付く限りの暴言をぶつけて来た。

「ねえ、アラン様。ローゼリア様は嘘なんてついて無かったんだよ。本当にあたしに意地悪なんてして無かった!あたし達が勘違いして責めても怒ったりもしなかった。あんな人他にいないよ!」

ローゼリアの言葉、調査の結果、ユリアの話し。
総合すると、ローゼリアは何も悪く無いのに、冤罪をかけられ私に責められていた事になってしまう。

「アラン様が王様になった時、その隣りでアラン様を、この国を支えられるのはローゼリア様だけだよ!」

泣きじゃくるユリアに揺さぶられながら、私は自分の右手を見た。
ローゼリアの頬を叩き、壁に突き飛ばした。

「ねえ、謝りに行こう!アラン様!お願いだから仲直りして!婚約破棄なんて言わないで!」

賢く聡明なローゼリアは、いつも私の言葉に耳を傾け受け入れてくれた。
そんな優しい彼女を心から好ましいと思っていたのに…。

「謝ると言っても、冷血…ローゼリア様はここ一ヶ月学園を休んでいますよ」

「だから、今度の休みにみんなでローゼリア様のお家に行こうよ!」

「ユリア…ローゼリア様は公爵家の王都邸にお住まいです。いきなり行っても会ってもらえませんよ」

側近達とユリアが話している。
その声を何処か遠くに感じながら、私の脳裏にはあの時の光景が浮かび上がっていた。

驚いて振り返るローゼリア。
思い切り頬を叩いた時の感触と歪んだ顔。
壁にぶつかり崩れ落ち、怯えた目で私を見上げるローゼリアと、胸ぐらを掴んで引き上げた時の周囲の悲鳴…。

「じゃあ、ローゼリア様に訪問の約束をしておいてね、アラン様」

「え?」

ユリアに言われて我に帰る。

「…ああ、分かった」


鮮やかな赤い髪、知性を感じる紫の瞳、洗礼された仕草。
見た目の華やかな美しさ以上に、あらゆるものを優しく穏やかに受け止める事の出来る心の深さ。

そんな彼女に好意を抱き、共に過ごす未来を夢見ていたのに。

何故、こんな事になってしまったのだろう。
私は何をしてしまったんだろう。


考えが纏まらないまま城に戻ると、父上が呼んでいると従者が声を掛けて来た。
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