【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき

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三年生

118 ディアナ王女の進む道 ※ディアナ視点

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「ふふっ」

馬車の窓を流れる景色を見ながら、先程のことを思い出して笑ってしまう。

「おや、珍しいね。ディアナが思い出し笑いなんて。何があったんだ?」

ハッと我に帰ると、目の前にレオ様の紅い瞳。

「レオ様には関係ありませんわ!」

宝石のような紅い瞳に見つめられて、恥ずかしさのあまりつい思いっきりそっぽを向いてしまう。

「ほう?」

少し苛立ちを含んだ声と同時に、わたくしの腰にレオ様の腕が巻き付いて引き寄せられた。
あっという間にわたくしは、レオ様の膝の上に横抱きに乗せられてしまう。

「私に隠し事をしようだなんて、お仕置きが必要かな?」

「止めてください!わたくしは子供ではありません!」

膝の上から逃れようと身を捻ったけど、腰にがっしりと巻かれた腕がビクともしない。

レオ様はいつもこうして、わたくしを膝に乗せたり抱き上げたり、お仕置きをするとか言って、小さな子供に対するような扱いをしてくる。

大変不満です。


「もちろんだ。ディアナは子供じゃない」

レオ様はそう言うと、ふいに唇を重ねてきた。

「んっ!んんっ!!!」

チュッチュッと音を立てながら、角度を変えて何度も口付けをされて、体から力が抜けてしまう。

「ん…うんん…」

こうされてしまうと、わたくしに抗う術はない。
レオ様の口の端が上がるのを感じた。


「ゴホンッ!」

レオ様の動きがピタリと止まる。

「レオナルド殿下、それ以上は…」

向いに座る侍女が止めてくれた。

「…チッ」

レオ様が体を離す。
でもまだ膝には乗せられたままだ。

「レオ様……」

「それで?」

「え?」

「何を思い出して笑っていたんだ?」

「ああ…」

どうしても知りたいんですね。

「合同遠征実習のことですわ。学園長の許可が頂けましたの」

「ああ、そのことか」

レオ様が納得したように頷いた。



あの楽しく刺激的だった夏休みを終え、いつもの生活に戻ったわたくしは、まず、魔法学園にいるわたくしの友人やその伝手を使って、騎士になりたい女生徒を集めた。

わたくしの友人だけで六人いたから、学園全体ならもっと沢山いるかと期待したけど、十一名しか集まらなかったのは残念だ。

それでも、その十一名とわたくしと、協力者であるマチルダ・リーバイ嬢の十三名で、合同遠征実習のチームを組めることになったのだ。

引率はファロット先生と、マチルダ様の護衛をしていたA級の女性冒険者二名。

魔法学園始まって初の、女性だけのチームだ。

「嬉しそうだな、ディアナ」

「ええ!とても!」

わたくしは思わず満面の笑みになった。

女性だけのチームを作れたことも嬉しかったけど、今回お話しをさせて頂いた学園長が、女性の社会進出に肯定的な考えを持つ方だと分かったのがとても嬉しかった。

学園長は二十数年前、まだ魔術学の教師だった頃、王姉アントレーネ様やマチルダ様の義母フローラ様が魔術師や騎士を目指して頑張っていたのを見ていたそうだ。

二人とも、同学年で魔術師や騎士になった生徒達より実力もやる気もあるのに、女性だからという理由で夢を叶えられず、残念に思っていたらしい。

その思いがあったからこそ、現在魔法学園唯一の女性教師であるファロット先生が、離縁され生家にも帰れず困っていた時に、周囲の反対を押し切って学園の教師として雇い入れた。

女性が働く姿を、若いわたくし達が身近に見ることで、女性に対する意識を変えられたらと考えていらっしゃったのだ。

「ところで、レオナルド殿下」

改まった物言いに、レオ様の眉間に皺が寄る。

「わたくしの友人に、騎士志望の女性が不自然に多い件についてお心当たりはございませんか?」

わたくしの言葉にレオ様の目が泳ぐ。

「レオナルド王太子殿下」

さらに改まってみる。

「…たまたまじゃないのか?」

あくまでも誤魔化すつもりらしい。

「学園中から騎士志望の女性を集めて、半数以上がわたくしの友人なのがたまたまですか?」

しかも、今回女性だけのチームを組むにあたって冒険者のお二人から実力を見たいと言われた時、わたくしの友人達は、冒険者でいえばB級クラスの実力があることが分かり驚いたのだ。

遊びではなく、本気で剣と魔法の訓練をしてきた実力者達だった。


「……心配だったんだ」

そっぽを向いて気まずそうに小さくそう言うレオ様の横顔を見ながら、思わず溜息が出た。

「そのご心配はありがたく受け取っておきますわ。彼女達とはとても仲良くさせて頂いていますもの。でもこれからは、わたくしの友人や知り合う方々を操作するようなことはなさらないでくださいませ」

「………」


返事がない。

「レオ様?」

「………」


困った方ですね。

「レオ様、わたくし、守られてばかりでは嫌ですわ。わたくしはレオ様の後ろではなく隣りにいたいのです。喜びも悲しみも、レオ様の隣りで一緒に感じたいのです。レオ様がお辛い時は隣りで支えていたいのです。
今のわたくしでは、まだ頼りないとお思いでしょうけれど、どうか、後ろではなく隣りに立つことをお許しくださいませ」

そう言ってレオ様を見るも、まだ横を向いたまま何も言わない。


でも……


「レオ様、もしかして照れていらっしゃいますの?」

「っ!照れてない!」

「でも、お顔が赤いですわ」

「赤くない!」

思わず目を丸くしていると、向かいに座る侍女と目が合った。
彼女もわたくしと同じように目を丸くしている。

いつも顔を赤くしてそっぽを向くのはわたくしで、レオ様はそんなわたくしを楽しそうに見ているのに、これじゃまるっきり逆だ。

「レオ様…」

「照れてない!」

「………」


チラリと目線を送ると、侍女が小さく口角を上げ下を向いた。

侍女が目を伏せたのを確認して、わたくしはレオ様の首に手を回す。


「レオ様」

わたくしはそっと、横を向いたままの愛しい人の頬に唇を寄せた。

「愛していますわ」



その後、馬車が王宮に着くまで数分間、レオ様に噛み付くような口付けをされた。

本気で食べられてしまうかと思った。

フラフラになりながら馬車を降りたら、侍女から謝罪をされた。
あまりにも鬼気迫る勢いだったので、圧倒されてしまい止められませんでしたと。


むしろわたくしの方こそ申し訳ない気持ちでいっぱいです。
あれは多分、わたくしがいけなかったのだと思います。




レオ様にお姫様抱っこをされて自室に戻り、ひとまず落ち着こうとお茶を飲もうとしていたら王妃様に呼ばれた。


「王妃様」

「あぁ、来てくれたのね、ディアナ」

王妃様のお部屋に伺うと、珍しく側妃様がいらっしゃらず、王妃様がお一人でお茶を飲んでいた。
侍女がわたくしの分もお茶を淹れ部屋を出て行く。

「今日はディアナにお願いがあって呼んだのよ」

そう言ってニコリと微笑む王妃様。

「アーサーとオリビアが話し合いをするという話しは聞いた?」

わたくしは慎重に頷いた。

少し前から王宮では、オリビア様とアーサー様の話し合いについて噂になっている。

オリビア様とアーサー様の婚約解消は、表向きにはオリビア様の体調不良によるものとなっているけど、実際はシュトレ強硬派による策略であり、アーサー様が今だにオリビア様を諦めていないことは周知の事実だ。

ハイベルグ家は何だかんだと静観してきたけれど、今回オリビア様が直接出て来たことで、王宮は騒然としている。


今度こそ、アーサー様が振られてしまうのではないか、と。


「アーサーに望みはないと思うわ」

王妃様もアーサー様が振られると考えていた。

「シュトレ強硬派の奸計に嵌ったアーサーもいけなかったけれど、二人ともまだ幼かったでしょう?わたくし達大人が気付いてあげられなかったことを後悔しているの。時間を置くことで二人の関係性が改善したら良いと考えていたのだけど、そう簡単にはいかなかったわね」

王妃様はそう言って溜息を吐いた。

公にはされていないけど、オリビア様は六歳から四年間、シュトレ強硬派の教育係によって洗脳され悪意を吹き込まれてきた。
アーサー様は七歳から、同じくシュトレ強硬派の教育係に言葉巧みにオリビア様を遠ざけるように誘導されていた。

婚約が解消になってから、アーサー様はオリビア様に対して執着を発症し、まだ洗脳の後遺症に苦しむオリビア様をさらに追い詰めてしまっていたのだ。


そう。
アーサー様は、すでに執着を発症している。

王族で執着を発症した者は北の離宮に幽閉されることになっているけど、今まで幽閉されずに済んでいるのは、国王陛下始め家族の理解と、ハイベルグ公爵家の寛大な対応があったからだ。

「オリビアにもアーサーにも、可哀想なことをしてしまったわ」

王妃様の目に涙が浮かぶ。

アーサー様は側妃様のお子だ。
それでも王妃様は、我が子である第一王女様とレオ様と同じように、側妃様のお子であるアーサー様やアマーリエ様、第二王女様を慈しんでいる。

王妃様と側妃様の関係は素敵だと思う。

でも考えてしまう。

もしわたくしに子が出来ず、レオ様が側妃を迎えたら、わたくしは側妃やその子供達を慈しむことが出来るんだろうか。


「アーサーは北の離宮に幽閉となるでしょう。これはもう仕方ありません。寧ろ今まで幽閉されずにいたことが異例だったのですから」

王妃様は溢れた涙をそっとハンカチで拭いた。

「ディアナにお願いしたいのはオリビアのことですわ。あの子にはこれからも、世間の厳しい目が向けられることでしょう。どうか、あの子を気にかけてあげて欲しいのです」

王妃様は涙に濡れた目をわたくしに向けた。

「二人の話し合いは、魔法学園の合同遠征実習が終わった翌週の闇の日に決まりました。せめて、アーサーに武勲を立てる機会を与えたいと、陛下がお決めになりました」

「王妃様……」


メネティスの王族は、愛情が深すぎるのだ。

それは強みでもあるし、弱みでもある。

でも、そんなメネティス王家に嫁げることを、わたくしは誇りに思うのです。


「王妃様、その話し合いについて、ひとつお願いがございます」
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