【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき

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二年生 後期

67 今日はサマーパーティー

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さて、今日は五月十五日。
後期終業日、つまり二年生最後の日だ。

学園では三年生の卒業式も兼ねたサマーパーティーが行われる。

私は朝から王宮侍女に取り囲まれて、身体中をこねくり回されオイルを塗られコルセットを締め上げられた。

ドレスは私の瞳の色と同じ緑のプリンセスライン。
全体に金糸で細やかな刺繍が施されていて、動くたびにキラキラと光を反射している。

これはマチルダ様の叔母さん…じゃなくて今はお母様になったフローラ様から贈られたものだ。

一緒に王都見物に行った時、マチルダ様を助けたお礼だと言って仕立ててくれた。
ドレスと一緒にお高そうなアクセサリーや靴まで届いた。

正直こんなに高価なものを贈られる程のことはしていないんだけど、アマーリエ様にお礼の品を受け取らないほうが失礼だと言われてしまった。

確かにその通りだ。


アマーリエ様はあの後すぐに謹慎を解かれた。

もともとアマーリエ様の謹慎は、例の暇つぶしを『王族としてあるまじき軽率な行いをした』として反省させるためだったそう。

事件のきっかけを作ってしまったのは確かだけど、事件そのものには全く関わっていなかったので、私に謝罪し、私が受け入れたことで、国王陛下からお許しが出たそうだ。

事件と関わっていたという噂は、被害者である私がアマーリエ様と一緒に登校したり、ランチを食べたり、仲良くしているのを見て徐々に下火になっている。

実際、アマーリエ様とは仲良くなったと思う。


「シェリル、支度は出来まして?」

王族であるアマーリエ様が、客室にいる私を迎えに来ちゃうくらい仲良くなった。

「アマーリエ様、侍女達が驚くから迎えに来るのは止めてくださいって言いましたよね?」

「ごめんなさいね、待ちきれなくて」

そう言って鮮やかに微笑むアマーリエ様は、その瞳と同じ真紅のエンパイアドレス。
同い年とは思えないくらい色っぽい。

アマーリエ様のパーティーでのエスコートといえばライリー様だったけど、ライリー様はまだ辺境にいるから、私と一緒に会場に向かうことになった。
会場では学園長がエスコートしてくれるそうだ。


ライリー様が辺境へ行ったのは懲罰ではなく、去年の合同遠征実習のヒュドラ調査隊から、魔の森で中規模のスタンピードが起きそうだとの報告があったからだった。

三十年ぶりの中規模スタンピード発生の可能性に、混乱を招かないよう、正式に公表されるまで情報が伏せられていたらしい。

アマーリエ様の謹慎もあって、すっかり誤解していた。

ライリー様が向かったアストロス辺境伯領は、自領の中に迷宮と呼ばれる魔物の巣窟を二つも抱える魔の森に隣接した場所だ。

ライリー様のトリスタン伯爵家はもともとアストロス辺境伯爵家の分家にあたり、有事の時は援軍を出すことになっている。

三十年ぶりの中規模スタンピードの予兆に興奮した騎士団長で父親のトリスタン伯爵と大叔父のアストロス辺境伯から、滅多にない機会だからライリーに経験させたい!と国王陛下に要望があったそうだ。

いいのか?
中規模スタンピードって結構大変な規模の筈だけど、若者の経験の場にしていいのか?

いや、若いから経験させておきたいのか?

どっちにしても、トリスタン伯爵とアストロス辺境伯は脳筋だと思う。



アマーリエ様は鮮やかな笑顔のまま私を見て言った。

「まあ!良く似合っていてよ。ドレスの緑がシェリルの瞳の色を際立たせて、とても素敵!」

「アマーリエ様も良くお似合いです。凄く綺麗です」

「ありがとう、嬉しいわ」

女二人でお互いを褒め合い鏡の前に並んで立つと、真っ赤なドレスの美女と緑のドレスの美少女が映る。

王宮侍女の仕事っぷりに感謝しかない出来栄えだ。

「赤と緑…フフッ、クリスマスみたいね」

小さな声で呟くアマーリエ様。

「今日はサマーパーティーですよ」

と突っ込む私。

「馬車の準備が整いました」

迎えに来た侍女に促されて部屋を出る。

「シェリルは明日出発するんでしたわね」

アマーリエ様が廊下を歩きながら話しかけてくる。

「はい。この前の冬休みは帰らなかったし、事件のこともあって、家族が凄く心配しているようなので、一日でも早く領地に帰って安心させたくて」

そう、明日から夏休みだ。
三ヶ月のお休みの後、私達は三年生になる。

「アマーリエ様は南の離宮に行かれるんですよね」

「…ええ」

アマーリエ様の瞳が微かに揺れる。

小規模のスタンピードなら年二、三回起きるけど、すぐ抑えられるから問題ない。
でも中規模になると一気に危険度が増す。
過去には王都周辺まで魔物が押し寄せたことがあったので、避難出来る人はなるべく魔の森から離れた場所に避難することになっている。

王女であるアマーリエ様も、魔の森から離れた場所にある南の離宮に避難する。
私も誘われたけど断った。
色々あって大変だったから、夏休みは家族とのんびり過ごしたい。

「ライリー様のことが心配なんですか?」

「………」

アマーリエ様の顔が苦しそうに歪む。

合同遠征実習の時にも思ったけど、ここ最近アマーリエ様と仲良くなって確信したことがある。

アマーリエ様は、ライリー様のことが好き。


「…心配…していませんわ。ライリーは強いですもの」

強がりを言うアマーリエ様。
でも言葉とは裏腹に、その声は小さく震えていた。

スタンピードはまだ発生していないものの、合同遠征実習の時のヒュドラのように、いつもなら魔の森の奥にいる高ランクの魔物が浅い場所に出没し、それに追われるように低ランクの魔物がチョロチョロと魔の森から出て来ているらしい。

ちなみに今日のサマーパーティーが終わったら、レオナルド殿下とウィルフレッド様はライリー様と同じアストロス領へ、アルノー先輩はマチルダ様がいるリーバイ領へ行くことになっている。

「スタンピード、早く終わるといいですね」

「……ええ、そうね」

心ここに在らずなアマーリエ様。

上の空のままのアマーリエ様と馬車に乗り学園へ向かう。

学園に着いて馬車を降りると、五月の爽やかな風が吹いていた。
澄んだ青空と太陽の光、周囲には色とりどりのドレスを纏った女生徒達。

心浮き立つ光景に、気持ちが明るくなるのを感じる。

「アマーリエ様、今日はパーティーを楽しみましょう」

私がそう言うと、アマーリエ様も顔を上げてにっこり微笑んだ。


講堂に着くとアマーリエ様は控室に向かい、私は待ち構えていたクラスの女子達と会場に入った。

レオナルド殿下が婚約者のディアナ王女を、学園長がアマーリエ様をエスコートして会場に入って来て、学年末のサマーパーティーが始まる。

クラスの女子達とキャアキャア言いながら豪華ビュッフェを堪能していたら、何だか周囲がザワザワし始めた。

「シェリル嬢、踊るぞ」

振り向くとレオナルド殿下がいた。

「うぐっ」

驚いてコカトリスのソテーを詰まらせてしまった。

「ディアナ様は…」

「少し休みたいと言われてしまった」

会場を見渡すと、休憩用のソファーにくったりした様子で座るディアナ王女が目に入った。

何回踊ったんだ。

「行くぞ」

まだ『はい喜んで』と言っていないのに、問答無用で腕を掴まれホールに連れて行かれる。

「なかなか上手く踊れているじゃないか」

くるんと回されながらレオナルド殿下のリードに必死でついて行っていたら、上から目線のお言葉を頂いた。

「講師をつけて頂いて、アリガトウゴザイマシタ」

王宮で生活するようになってから、やれダンスだマナーだと講師をつけられていた。
最低限のことは学園の授業でもやるし、将来魔術師団に入って、魔法の研究に一生を捧げる私には必要ありませんと訴えたけど、聞いてもらえなかった。

「覚えておいて損はないからな」

意地悪そうにニヤニヤ笑いながらそう言うレオナルド殿下。
と、突然声を潜めて囁いた。

「この夏休みの間に、シュトレの強硬派を徹底的に粛正する。取りこぼしはしないが、逆恨みで君に危害を加えようとする輩がいないとは限らない。護衛はつけるが、帰省中も身辺に気を付けるように」

「っ!は、はい」

凄い!
こんなにはっきり喋ってるのに、口が動いてなかった!!
腹話術みたい!

「くれぐれも、知らない人に付いて行ったり、落ちている物を食べたりしないようにしろ」

「そんなことしません!」

私を何だと思ってるんだ。
幼児か?

「見ず知らずの親衛隊の女に、のこのこ着いて行ったのは記憶に新しい」

チッ。
ネチネチと嫌味ったらしい王太子め!

でも許す。
腹話術見れたから。

「私はスタンピードに備えてアストロス領に向かうが、ユランが王都に残って宰相と一緒にシュトレ派の粛正にあたる。何かあったら渡した通信魔道具でユランに相談しろ」

曲が終わり、互いに一礼してダンスが終わる。
レオナルド殿下が私の後ろを顎で指す。
振り向くとユラン様が立っていた。


「踊って頂けますか?シェリル嬢」

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