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二年生 後期

42 初めてのAランチ

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「シェリル嬢、少し時間を貰いたい」

いつもの三人娘と一緒に食堂に行くと、レオナルド殿下に声をかけられた。

「え?今ですか?」

私は三人娘と顔を見合わせた。
今年に入ってから休日前の土の日は、いつもの節約サンドイッチじゃなくて、クラスの女子達とランチを食べるようにした。

食堂のランチを堪能出来る貴重な日でもある。

「お昼の後じゃダメなんですか?」

「昼食を一緒に取ろう。私のサンルームに来てくれ」

レオナルド殿下と一緒にお昼ご飯。
嫌だ。
ここはご辞退させて頂こう。

「放課後のほうがゆっくり話せると思います」

「Aランチを奢ろう」

「ご馳走になります」

あ!しまった!
タダ飯チャンスに抗えなかった!

でも今日のAランチはボア肉のステーキだった。
CランチとBランチは安価なモーモー肉。
コカトリスより高級なボア肉なんて、これから先も滅多に食べられないだろう。

仕方なく三人娘に断りを入れて、レオナルド殿下の後について行く。

食堂内の階段を上がると、下にはない豪華な装飾に大きな窓。
上位貴族専用のサンルーム席だ。

窓から明るい日の光が差し込む広々したサンルームの更に奥へ進むと、いくつかの個室があって、レオナルド殿下はその内のひとつに入って行った。

続けて中に入ると、白を基調に王家の色である紅い装飾が施された上品な部屋で、すでにウィルフレッド様とユラン様がいた。

「シェリル」

ウィルフレッド様が私を見て笑いかけてくれる。
その笑顔になんとなく安心感を感じながら、勧められた席に座った。

そういえば、ウィルフレッド様にエルダー様の親衛隊のことを相談しようと思ってたんだ。
ランチの後に話す時間あるかな?

そんなことを考えているうちに、給仕人達によってランチが用意されていく。

ボア肉のステーキに、バターたっぷりのマッシュポテト、温野菜とスープとパン。
Aランチにはデザートがつくはずだけど、それは食後に出るんだろう。

「話しは後にして、今は食事を楽しもう」

レオナルド殿下がそう言って食事が始まる。
ユラン様もウィルフレッド様も、さすが高位貴族様で綺麗な所作だ。

こんな王族と高位貴族に囲まれた息の詰まる空間じゃ、初めてのAランチを堪能出来ない…。
と思ったのは杞憂で、大変美味しかったです。


「アーサーから聞いたんだが、オリビア嬢が魔法学園の春祭りに来るというのは本当か?」

食後のデザートとお茶を頂きながら、レオナルド殿下がユラン様に問いかけた。

おっ!オリビア様、来る気になったのかな?

ユラン様は一瞬私をチラリと見てから、レオナルド殿下に冷たい視線を向けた。

「アーサー殿下はどうしてオリビアが春祭りに来ようとしていることをご存知なんでしょうか。以前も家族しか知らない内容をご存知だったことがあるんです。レオナルド殿下は何かお心当たりはありませんか?」

「ない」

レオナルド殿下はユラン様の質問をさらりと返して私を見た。

「アーサーはオリビア嬢が好きで好きで堪らないんだよ。元気になったのなら、婚約者に戻って欲しいと考えているんだ」

ユラン様の冷たい視線を物ともせず、私に向かって話しかける。

いや、それ私に言われても困るんですけど。
ユラン様、めっちゃレオナルド殿下を睨みつけてますけど。

「レオナルド殿下、オリビアはやっと回復の兆しを見せ始めた所です。そういった期待はオリビアにとって負担にしかなりません」

「今すぐとは言っていない。アーサーはオリビア嬢と結婚出来ないのなら、生涯独身でいると言っている。回復を待つ時間はいくらでもある」

王族が生涯独身?

うわぁ!重っ!
アーサー殿下、オリビア様に対する気持ちが重いよ!!!

「本題に入らないと昼休みが終わる」

ウィルフレッド様が呆れたようにそう言った。
レオナルド殿下とユラン様はお互い顔を見合わせる。

「その通りだな。ユランこの話しはまた後で」

「後にしても答えは同じです。レオナルド殿下」

パチパチと二人の間に火花が飛んでいる。
二人に見切りをつけたのか、ウィルフレッド様が私に話し始めた。

「シェリルには、今日からしばらく王宮で過ごしてもらいたい」

「ええ?!」

いきなりナニゴトですか?!

「バイト先の宿屋と錬金術師ギルドには、休むと連絡してあるから心配しなくていい」

「いや、そこを心配している訳じゃありません。どうして私が王宮で過ごさなくてはいけないんですか?」

「それは…」

「君は自分がしたことの重要性が分かっていない」

レオナルド殿下がウィルフレッド様の言葉を遮って言う。

「何のことですか?」

「学園に入学して一年半、まだ十五歳の君が、これまで無かった闇魔法の癒しの魔術を提案し、今度は雷の魔法だと?
これまで何十年も魔術師達が研究してきて発見出来なかった新しい魔法の術を、この短期間でほいほい発見しているんだぞ。国として放っておく訳にいかないだろう」

なんと!

「か、雷の魔法は私じゃありません!」

思わずユラン様を見る。

「確かに、雷の魔法と思われる現象を起こしたのは私ですが、あれを雷ではないかと気付いたのは貴女です」

「シェリルが気付かなければ、たまたまいつもと違う現象が起きただけと片付けてしまったかもしれない」

ユラン様とウィルフレッド様も、私を見て言う。

「学園にはこれまで通り通えるようにしたが、護衛を付ける。バイトは諦めろ。生活の保証はするし、王宮にいる間は魔術師団の研究を手伝ってもらうから、その分の給料も出す」

有無を言わせない口調で、レオナルド殿下に矢継ぎ早に言われる。

ちょっと待って、理解が追いつかない!

「え?それは…これから先ずっと、私は国に囲われて生きるということですか?」

ジワジワと恐怖が込み上げて来る。

どうしよう。
こんなことになるなんて考えたこともなかった。

混乱する私の手に、そっと温かい手が重ねられる。
いつの間にか隣りに来ていたウィルフレッド様が、黒い瞳に労るような色を浮かべて私を見ている。

「しばらく、と言っただろう?レオナルド殿下が、シェリルが普通に生活出来るように議会を説得してくれている。ただ、中には稀有な才能を持つシェリルを、自分のものにしようと考えている奴もいる」

「稀有な才能なんてありません!」

あるのは前世の記憶と知識だけだ。

「周りはそう思わないのです。立て続けに新しい魔術を発見する貴女を手に入れられれば、魔法業界に大きな影響力を持てますからね」

ユラン様が優しい声で続けて言った。

「これは貴女を守るための処置なんですよ。王宮に一時保護することで、国が、国王陛下が、貴女の後ろ盾になると知らしめる意味があるのです」

「く…国。…国王陛下?」

あまりに大きくなってしまった話しを受け入れられず、困惑する私をレオナルド殿下が目を細くして見た。

「残念ながら君に選択権はない。今日授業が終わったら迎えを送る。少なくともこれからしばらくの間、君は王宮で暮らすんだ」
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