42 / 135
二年生 後期
42 初めてのAランチ
しおりを挟む「シェリル嬢、少し時間を貰いたい」
いつもの三人娘と一緒に食堂に行くと、レオナルド殿下に声をかけられた。
「え?今ですか?」
私は三人娘と顔を見合わせた。
今年に入ってから休日前の土の日は、いつもの節約サンドイッチじゃなくて、クラスの女子達とランチを食べるようにした。
食堂のランチを堪能出来る貴重な日でもある。
「お昼の後じゃダメなんですか?」
「昼食を一緒に取ろう。私のサンルームに来てくれ」
レオナルド殿下と一緒にお昼ご飯。
嫌だ。
ここはご辞退させて頂こう。
「放課後のほうがゆっくり話せると思います」
「Aランチを奢ろう」
「ご馳走になります」
あ!しまった!
タダ飯チャンスに抗えなかった!
でも今日のAランチはボア肉のステーキだった。
CランチとBランチは安価なモーモー肉。
コカトリスより高級なボア肉なんて、これから先も滅多に食べられないだろう。
仕方なく三人娘に断りを入れて、レオナルド殿下の後について行く。
食堂内の階段を上がると、下にはない豪華な装飾に大きな窓。
上位貴族専用のサンルーム席だ。
窓から明るい日の光が差し込む広々したサンルームの更に奥へ進むと、いくつかの個室があって、レオナルド殿下はその内のひとつに入って行った。
続けて中に入ると、白を基調に王家の色である紅い装飾が施された上品な部屋で、すでにウィルフレッド様とユラン様がいた。
「シェリル」
ウィルフレッド様が私を見て笑いかけてくれる。
その笑顔になんとなく安心感を感じながら、勧められた席に座った。
そういえば、ウィルフレッド様にエルダー様の親衛隊のことを相談しようと思ってたんだ。
ランチの後に話す時間あるかな?
そんなことを考えているうちに、給仕人達によってランチが用意されていく。
ボア肉のステーキに、バターたっぷりのマッシュポテト、温野菜とスープとパン。
Aランチにはデザートがつくはずだけど、それは食後に出るんだろう。
「話しは後にして、今は食事を楽しもう」
レオナルド殿下がそう言って食事が始まる。
ユラン様もウィルフレッド様も、さすが高位貴族様で綺麗な所作だ。
こんな王族と高位貴族に囲まれた息の詰まる空間じゃ、初めてのAランチを堪能出来ない…。
と思ったのは杞憂で、大変美味しかったです。
「アーサーから聞いたんだが、オリビア嬢が魔法学園の春祭りに来るというのは本当か?」
食後のデザートとお茶を頂きながら、レオナルド殿下がユラン様に問いかけた。
おっ!オリビア様、来る気になったのかな?
ユラン様は一瞬私をチラリと見てから、レオナルド殿下に冷たい視線を向けた。
「アーサー殿下はどうしてオリビアが春祭りに来ようとしていることをご存知なんでしょうか。以前も家族しか知らない内容をご存知だったことがあるんです。レオナルド殿下は何かお心当たりはありませんか?」
「ない」
レオナルド殿下はユラン様の質問をさらりと返して私を見た。
「アーサーはオリビア嬢が好きで好きで堪らないんだよ。元気になったのなら、婚約者に戻って欲しいと考えているんだ」
ユラン様の冷たい視線を物ともせず、私に向かって話しかける。
いや、それ私に言われても困るんですけど。
ユラン様、めっちゃレオナルド殿下を睨みつけてますけど。
「レオナルド殿下、オリビアはやっと回復の兆しを見せ始めた所です。そういった期待はオリビアにとって負担にしかなりません」
「今すぐとは言っていない。アーサーはオリビア嬢と結婚出来ないのなら、生涯独身でいると言っている。回復を待つ時間はいくらでもある」
王族が生涯独身?
うわぁ!重っ!
アーサー殿下、オリビア様に対する気持ちが重いよ!!!
「本題に入らないと昼休みが終わる」
ウィルフレッド様が呆れたようにそう言った。
レオナルド殿下とユラン様はお互い顔を見合わせる。
「その通りだな。ユランこの話しはまた後で」
「後にしても答えは同じです。レオナルド殿下」
パチパチと二人の間に火花が飛んでいる。
二人に見切りをつけたのか、ウィルフレッド様が私に話し始めた。
「シェリルには、今日からしばらく王宮で過ごしてもらいたい」
「ええ?!」
いきなりナニゴトですか?!
「バイト先の宿屋と錬金術師ギルドには、休むと連絡してあるから心配しなくていい」
「いや、そこを心配している訳じゃありません。どうして私が王宮で過ごさなくてはいけないんですか?」
「それは…」
「君は自分がしたことの重要性が分かっていない」
レオナルド殿下がウィルフレッド様の言葉を遮って言う。
「何のことですか?」
「学園に入学して一年半、まだ十五歳の君が、これまで無かった闇魔法の癒しの魔術を提案し、今度は雷の魔法だと?
これまで何十年も魔術師達が研究してきて発見出来なかった新しい魔法の術を、この短期間でほいほい発見しているんだぞ。国として放っておく訳にいかないだろう」
なんと!
「か、雷の魔法は私じゃありません!」
思わずユラン様を見る。
「確かに、雷の魔法と思われる現象を起こしたのは私ですが、あれを雷ではないかと気付いたのは貴女です」
「シェリルが気付かなければ、たまたまいつもと違う現象が起きただけと片付けてしまったかもしれない」
ユラン様とウィルフレッド様も、私を見て言う。
「学園にはこれまで通り通えるようにしたが、護衛を付ける。バイトは諦めろ。生活の保証はするし、王宮にいる間は魔術師団の研究を手伝ってもらうから、その分の給料も出す」
有無を言わせない口調で、レオナルド殿下に矢継ぎ早に言われる。
ちょっと待って、理解が追いつかない!
「え?それは…これから先ずっと、私は国に囲われて生きるということですか?」
ジワジワと恐怖が込み上げて来る。
どうしよう。
こんなことになるなんて考えたこともなかった。
混乱する私の手に、そっと温かい手が重ねられる。
いつの間にか隣りに来ていたウィルフレッド様が、黒い瞳に労るような色を浮かべて私を見ている。
「しばらく、と言っただろう?レオナルド殿下が、シェリルが普通に生活出来るように議会を説得してくれている。ただ、中には稀有な才能を持つシェリルを、自分のものにしようと考えている奴もいる」
「稀有な才能なんてありません!」
あるのは前世の記憶と知識だけだ。
「周りはそう思わないのです。立て続けに新しい魔術を発見する貴女を手に入れられれば、魔法業界に大きな影響力を持てますからね」
ユラン様が優しい声で続けて言った。
「これは貴女を守るための処置なんですよ。王宮に一時保護することで、国が、国王陛下が、貴女の後ろ盾になると知らしめる意味があるのです」
「く…国。…国王陛下?」
あまりに大きくなってしまった話しを受け入れられず、困惑する私をレオナルド殿下が目を細くして見た。
「残念ながら君に選択権はない。今日授業が終わったら迎えを送る。少なくともこれからしばらくの間、君は王宮で暮らすんだ」
13
お気に入りに追加
1,284
あなたにおすすめの小説
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!
菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。
【完結】異世界で急に前世の記憶が蘇った私、生贄みたいに嫁がされたんだけど!?
長船凪
ファンタジー
サーシャは意地悪な義理の姉に足をかけられて、ある日階段から転落した。
その衝撃で前世を思い出す。
社畜で過労死した日本人女性だった。
果穂は伯爵令嬢サーシャとして異世界転生していたが、こちらでもろくでもない人生だった。
父親と母親は家同士が決めた政略結婚で愛が無かった。
正妻の母が亡くなった途端に継母と義理の姉を家に招いた父親。
家族の虐待を受ける日々に嫌気がさして、サーシャは一度は修道院に逃げ出すも、見つかり、呪われた辺境伯の元に、生け贄のように嫁ぐはめになった。
私は仕事がしたいのです!
渡 幸美
恋愛
エマ、12歳。平民。流行り風邪で寝込んでいる時に見た夢は、どうやら自分の前世らしい。今生の世界は魔法ありで、どうやら異世界転生したみたい!
それに前世を思い出してから見てみると、私、ずいぶん可愛くない…?しかもピンクブロンドの髪って、何だかいろいろ怪しくない?たくさん本は読んだけど、全部なんて覚えてない!しかもアラフォーだったので、乙ゲーに関してはよく知らないし……ヒロインってこんな感じ…のような?ちょっと分からないです!
けど、浮気男はごめんだし、魔法はいろいろ楽しそう!せっかくだから、世のため人のためにこの力を使おうじゃないか!
余計なものは頑張って回避して、大手企業の女社長(のようなもの)を目指したい?!
……はずなのに、何故か余計なものがチョロチョロと?何で寄ってくるの?無自覚だって言われても困るんです!仕事がしたいので!
ふんわり設定です。恋愛要素薄いかもです……。念のため、R15設定。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる