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二年生 後期
39 悪意
しおりを挟む「い~ち」
「うがああぁぁああ!!!」
「に~い」
「ふんなああぁぁあ~!!!」
「さ~ん」
べショッ!!!
「もうムリ~」
「まだ三回目だぞ!本気か?!」
私は今、ライリー様に体力テストという名の拷問を受けている。
場所は以前ユラン様と来たことがあるグラウンドだ。
「アマーリエだって腕立て百回は余裕で出来るぞ」
いや、それアマーリエ様がおかしいから。
王女様なのに、なんで腕立て百回余裕で出来るんだ。
心の中でそう毒づきながら、私は地面にうつ伏せに潰れたまま、過去の自分の発言を反省していた。
なんでこんなことになっているかというと、ウィンターパーティーでエルダー様に壁ドンされた時、怒りに任せてライリー様に体術を教えてくださいと言ったからだ。
でもよく考えたら私は魔法が使えるから、いざとなったら風魔法で吹っ飛ばせばいい。
つまり、無理して筋肉ムキムキにならなくていいんじゃない?と、ライリー様が何も言って来ないのをいいことに忘れた振りをしていた。
そうしたら今日、体術を教える前にどのくらい動けるのか確認したいって言われて、騎士の訓練服に着替えさせられ、グラウンドまで引っ張られて来られた。
ライリー様は忘れていなかったようだ。
「シェリル嬢は、まず基礎体力をつけた方が良さそうだな」
「はい~」
地面に伏せたまま、なんとか答える。
「…少し休憩するか」
「はい~」
休憩と聞いてゴロンと転がり、仰向けになって目を閉じる。
「お前、その格好…。女捨ててるのか?」
酷いことを言う。
こんな格好になってしまうまで、百メートル走だ腹筋だと色々やらせたくせに。
「まあ、いいか」
はい。もうどうでもいいです。
目をつぶって仰向けで寝転がる私の隣に、ライリー様が座る気配がした。
散々動いて汗をかいた体に、冬の冷たい風が心地いい。
「ウィンターパーティーの時、助けてやれなくて悪かったな」
申し訳なさそうな声。
助けられなかったというのは、エルダー様の壁ドンのことだろうか。
「お前とエルダーが星のテラスに行ったって聞いて急いで向かったんだが、まあ、無事で良かったよ」
「星のテラス?」
「やっぱり知らなかったんだな。知ってたら、お前なら行かないもんな」
「え?何ですか?それ」
思わず目を開けてライリー様を見る。
困ったようなライリー様の顔。
「あのテラスは、会場の端の目立たない所にあるだろう?人目につきにくいから、逢瀬目的で使う奴らがいるんだ。周囲の木立が切れて星が良く見えるから、星のテラスと呼ばれている」
「逢瀬目的?!」
「そういう目的で使う奴らを見張っている奴もいる。お前がエルダーと二人きりで星のテラスに行ったことは、結構な噂になってるぞ」
「ええー?!」
知らなかった。
しかも噂になっている?
なんてことだ!
全然気が付かなかった!
マチルダ様のことと雷魔法のことで頭がいっぱいで、周りの状況見えてなかった。
「そういえば、ユランからエルダーの様子がおかしいって報告が上がってたけど、最近どうだ?」
「…最近は寄って来ません」
そう、空き教室でユラン様に雷魔法らしきもので追い払われてから、以前のようにしつこく纏わり付いてくることは無くなった。
心の底から良かったと思っている。
「たまに目が合うくらいでしょうか。ただ…なんか暗い?エルダー様って、いつもみんなにニコニコ笑いかけている印象でしたけど、最近は暗い表情をしているように思います」
「確かにそうだな」
「何かあったんでしょうかね」
エルダー様に恨みはあるけど、明らかにこれまでと違うどんよりした顔を見ると、それはそれで気になってしまう。
私に対する迷惑行為も、よく考えるとアマーリエ様の暇つぶしに付き合っているだけで、私が王女であるアマーリエ様や高位貴族であるエルダー様に強く出られないのと同じように、エルダー様もアマーリエ様には逆らえないのだから、仕方ないともいえる。
いや、だからって恨みは消えないけども。
「まあ、付き纏わられなくなったので、私は平和に過ごさせて貰っています」
「…お前、勉強は出来るし頭も回るのに、たまに残念だな」
「何がですか?」
「いや…いい。お前はそのままでいいと思う」
いやいや、何が残念なのか教えてください。
そう言おうと思って口を開いたら、先にライリー様がポツリと呟いた。
「それにしても、アルノーには驚いたな」
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「ああ」
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隣にいたウィルフレッド様まで、うんうん頷いていたのが非常に気になる。
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ライリー様が静かな声で言った。
「いくら騎士とはいえ、元婚約者候補の男が結婚後も側にいるなんておかしいだろ」
寝転がったままライリー様を見上げると、悲しげな顔をしているように見えた。
「結婚出来ないと、決まっているような言い方ですね」
「そうだな」
ライリー様は遠い目をして、グラウンドの先を見ている。
ライリー様とアマーリエ様は、お互い思い合っていると思っていた。
でも、アマーリエ様は王族だ。
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ライリー様も…。
「アルノーみたいに、追いかけて行けたらいいんだけどな」
小さな小さな声で、ライリー様が呟いた。
一陣の風が吹き、その冷たさに思わず身震いした。
もう体はすっかり冷えている。
「よぅし!じゃあ取り敢えず、グラウンド十周するか!」
「ええ?!」
取り敢えずって何だ!
ライリー様が勢いよく立ち上がる。
「俺も走る!」
「ええー!!!」
止めて!
自分が走りたいなら私を巻き込まないでひとりで走って!
私の心の叫びは伝わらず、休憩は終了し、ライリー様は私が一周している間にグラウンドを十周していた。
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取り敢えずお礼を言ってグラウンドを後にした。
もうすぐ宿屋のバイトの時間だけど、一旦教室に戻って制服に着替えなくてはならない。
クタクタの体に鞭打って足速に教室に戻る。
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うっすら暗くなった廊下は人の気配がなく、少し薄気味悪く感じた。
逸る気持ちで教室のドアを開けると、
「え?!何これ!!!」
私の机の上には、無惨にもビリビリに破かれ、インクで真っ黒に染められた、魔術学の教科書があった。
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