【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき

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二年生 冬休み

30 面倒くさい妹

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アンさんとセイラさんのお胸攻撃から無事救出し、呆然としているマチルダ様を取り敢えず夕食に誘った。
思いのほか時間が経っていて、お腹がぺこぺこだった。

今日は私も宿屋に泊まることにしたので、お客さんとして食堂のテーブルに座る。

「あー!シェリルがサボってるー!」

「サボってません!今日はお客さんなんです!」

アンさんとセイラさんも同じテーブルに座る。

「マチルダ様、お肉とお魚どっちにしますか?」

この宿の夕食は、お肉とお魚が選べる。
菜食の人は頼めば野菜もりもりのお皿が出てくる。

「今日のお肉は角うさぎと根菜のトマト煮、お魚は鱒の燻製とじゃがいものグラタン」

注文を取りに来たバイト仲間が本日のメニューを教えてくれた。

「私は……シェリルと同じものにしますわ」

「じゃあ、お肉とお魚両方頼んで半分こしましょう」

「え?ええ。よろしくてよ」

賄いはいつも食べてるけど、お客さんに出す料理を食べるのは初めてだ。
両方食べたい。

アンさん達もそれぞれ注文を済ませ、こちらに向き直る。

「マチルダちゃん、盗み聞きなんてしてごめんなさいね」

アンさんがマチルダ様に謝罪する。
あぁ、もういきなりマチルダちゃんって呼ぶんだ。
一応伯爵令嬢なんだけどな。

「本当にごめんな。シェリルはいつも変な無茶するから、心配だったんだ」

「ああ、それは…そうですわね」

ん?何がそうなの?

「お二人共顔を上げてくださいませ。シェリルのことが心配だった気持ちは私にもよくわかりますわ」

「それってどういう意味ですか?」

「マチルダちゃん、家出してきたのはいいけど、どこに行くつもりだったの?」

私の質問はスルーされ、アンさんがマチルダ様に質問する。

「叔母の所を頼ろうと考えていましたの。馬車で五日程で行けると聞いていますわ。でも、お金が足りなければ、修道院へ行こうと思っているのです」

「あんた、伯爵家のご令嬢だろ?いなくなったらすぐに捜索願いが出されるだろうし、もう王都から出られないかもしれないぞ」

セイラさんのごもっともな言葉に、マチルダ様が首を横に振る。

「いいえ。私がいないことには、しばらく気付かないと思いますわ」

私とアンさん達は目を見合わせる。

「今は…学園が冬休みですから。登下校で屋敷を出入りしなければ、家族と顔を合わせることは滅多に無いんですの」

「でも、使用人とかは気付くんじゃないですか?」

伯爵家ならマチルダ様の専属侍女もいるだろうし、他の使用人だって食事の支度や部屋の掃除に入るはずだ。

「私と親しい使用人達は、私が屋敷を出て叔母の所に行くことを喜んでくれましたの。この服を用意してくれたり、叔母の嫁ぎ先への行き方を教えてくれたのは使用人達ですわ」

使用人まで家出を後押しするなんて、キャンベル伯爵家でのマチルダ様の扱いは使用人から見ても目に余るものだったんだろう。

「でも、さすがに星祭りは家族で過ごすんじゃないんですか?」

そう、年越しの星祭りは家族と一緒に、無事年を越せることに感謝し、新しい年に願いをかけるのが一般的だ。

「星祭りのお祝いも、毎年両親と妹の三人でしていましたわ。今年は私の婚約者を含めて四人で花火を見に行くと言っていましたから、冬休みの間は気付かれないかもしれません」

婚約者…婚約者はマチルダ様の婚約者なんだよね?
マチルダ様…どんだけ家族から除け者にされているんだろう。
っていうか、これはもう虐待なんじゃないだろうか。

「だとしたら、まだ結構余裕はあるな」

「早く動くに越したことはないけどね」

マチルダ様が困惑した顔を向ける。

「私のことを、見逃してくださるのですか?」

アンさんとセイラさんが顔を見合わせて頷き、マチルダ様に笑顔を見せた。

「見逃すも何も、止める理由がないだろ」

「安全に叔母さんの所に行けるように、もう少し考えなくちゃいけないけどね」

「アンさん…セイラさん…ありがとうございます」

マチルダ様が鳶色の瞳に涙を浮かべ、アンさんとセイラさんが優しく微笑む。

そこにホカホカ熱々の角うさぎのトマト煮と鱒のグラタンがやってきた。

「はい、お待たせしました~」

「やったー!」

「「「シェリル…」」」

何故か三人に睨まれた。



お客さん用の角うさぎのトマト煮と鱒のグラタンは、と~っても美味しかった。

ご飯を食べながら話していて分かったのは、マチルダ様の妹はなかなかの問題児であるということだった。

両親の愛情を一身に受け、欲しい物は何でも買い与えられているのに、それだけでは満足出来ず、マチルダ様を筆頭にお友達になった令嬢や使用人の持ち物まで欲しがるらしい。

同じものを用意すると言っても聞かず、その人が持っているそれが欲しい、となるらしい。

マチルダ様もハンカチやペン、数少ないドレスや宝飾品から、専属侍女まで妹に持って行かれたそうだ。
極め付けが家と婚約者だろう。

姉であるマチルダ様や、キャンベル伯爵家より格下のお友達や使用人は泣き寝入りするしかないけど、問題は格上の相手にも同じようにしてしまうこと。

以前は同年代の子供達が集まるお茶会に参加していたけど、あちこちで問題を起こしまくり、出入り禁止になっている家もあるそうだ。

「そんな問題児な妹さんなのに、ご両親もマチルダ様の婚約者も何がいいんですかね」

「シェリルちゃん!」

うっかり思ったことが口から出たらアンさんに怒られた。

「妹は…見た目の可愛らしさもあると思いますが、様々なことを自分に都合良く考えて、事実を曲げてしまうところがあるんですの」

マチルダ様は困ったように言う。

「お茶会を出入り禁止になったのも、妹の中では他のご令嬢方に嫌がらせをされていることになっていますし、私のことも……」

「うわあ、面倒くさっ」

セイラさんが顔を顰めて叫んだ。

「いるのよね、たまにそういう子。関わらないのが一番だけど、妹じゃそうもいかないものね。
大変だったわね、マチルダちゃん」

アンさんも苦い顔をしてマチルダ様を労う。
そのマチルダ様は少し困ったように小首を傾げて言った。

「そう…ですわね。確かに、妹がご迷惑をかけたお友達に謝罪に行ったり、何か都合の悪いことがあると私のせいにされたりして大変でしたけど、不思議と妹のことは許せてしまうのですわ。
両親との関係の中で、あの子を妬ましく思ったこともありますけど、たったひとりの妹ですもの」

マチルダ様は天使かな?
私だったらそんな妹、風魔法で吹っ飛ばしちゃう。

「さてと、明日は朝から動く予定だし、マチルダは疲れてるだろうから、早く寝かせてやんなきゃな」

セイラさんが立ち上がりながらそう言った。
時計を見ると、もう二十二時だった。

「セイラさん、私も疲れてますよ」

「だったらさっさと寝な!」

一応言ってみたけど冷たくあしらわれた。
今日は錬金術師ギルドのバイトをしたり、子供達と走り回ったり、マチルダ様の話しを聞いたり、なかなかハードな一日だったのに。

「じゃあ、明日あたしはマチルダの家の様子を見て来るよ。使用人に話しを聞けたら聞いてくる」

セイラさんがそう言ってニヤリと笑う。
アンさんも立ち上がり、にっこり笑う。

「わたしは、マチルダちゃんが叔母さんの所まで安全に行ける経路を調べてくるわね」

「私達は、アンさんに教えてもらった宝飾品店に行ってみます」

明日はちょうど風の日で、バイトはお休みだ。

「皆さま、ありがとうございます」

マチルダ様が頭を下げる。

「お礼を言うのはまだ早いよ」

「何があっても絶対悪いようにはしないわ」

「明日のお昼ご飯は屋台で食べましょう」


「「「シェリル…」」」

また三人に睨まれた。
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