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コンタクト
しおりを挟む「────あれ?」
目を開けると、暖かい布団が掛けられていることに気づいた。
僕、職場にいたと思うんだけど。
頭がスッキリしてる。
どこだろう? ここ。
天井は真っ白で、壁は柔らかい木目調。
医薬品独特の匂いが漂う空間だった。
起き上がって周りを見回していると、パーテーションの裏から女性が顔を出した。
「目が覚めた?」
「はい。あの、ここは」
「医務室よ。貴方休憩室で倒れちゃってたの。慌ててここまで連れてこられたけど、幸せそうに寝こけてたのよ。顔にコーヒー被って」
勤務医さんはケラケラと揶揄うように笑った。
「ええっ、す、すみません! 戻ります」
「上司から休む許可は出てるから、ゆっくりして良いと思うわよ? 随分と寝不足だったみたいだけど、大丈夫?」
「大丈夫です。忙しかっただけなので」
改めて自分の身体を確認すると、シャツの肩口がコーヒーの染みで茶色くなっていた。
医者にはもっと休んでいけと言われたけど、残してきた仕事が気になる。
事務所に戻ると、先輩達の白い目で迎えられた。
すぐに謝罪しようと駆け足で自席に急いだ。
だけど、険しい表情のまま座る課長が顎でなにかを指示すると、先輩達から簡素な謝罪の言葉が注がれた。
作業を押し付けたことがバレて、ジョージが怒ったってことなのかな?
先輩達が僕の席を離れると、入れ替わるようにジョージが近寄ってきた。
「身体は大丈夫か?」
「はい、寝不足が祟ったみたいで。ご迷惑おかけしました」
「ついて来い」
会議室に呼ばれた。
僕にもお説教が来るのかな。
怖いけど少しワクワク。いや、やっぱり怖いかな。
最近の僕は作業の合間に、ジョージの新しい表情を見つけることが唯一の楽しみになっていた。
ジョージはやっぱりカッコいい。
まだあの優しげなお笑顔は見れてないけどね。
連れて行かれた会議室で向かいに座ると、ジョージが膝に手をついて謝ってきた。
「気づいてやれなくて悪かった」
「へ?」
「彼らの仕事を押し付けられていたんだろ? 君が配属されてから、彼らの仕事のペースが上がったから、君が入ったことで皆が本腰を入れてくれたんだと勝手に思っていたんだが、君が代わりにやっていたんだな」
「あ、ああ、なんだそんなこと。いつもあることなので。僕、要領悪くて時間かかっちゃうせいで残業になっちゃって。すみません」
「謝る必要はない。君は悪くないんだ」
「課長は……、課長は僕に優しいんですね。新入社員だから、ですか?」
会社で会ったジョージは、素っ気ないけど、今まで僕を叱ったことは一度もなかった。
今だって、僕を心配してくれてる。
「っっ、それは」
「どうして能勢さん達には厳しいんですか?」
「厳しくしているつもりはないが」
「いつもスケジュールキツキツだし、言い方だって」
「そんなことないだろう。彼らの能力に合わせて余裕を持ったスケジュールにしているし、出来るだけ高圧的にならないよう気を付けて」
「課長、もしかして、能勢さん達のこと過大評価してます?」
「過大評価? どういうことだ」
「多分課長が有能すぎるんだと思います。それと同じことができると思わない方がいいかなって」
「新入社員の君はできているだろう」
「えっ、僕、出来てるんですか?」
「君の上げた資料は読みやすくて整理されているし、作業も早い。能勢と森田、最近は脇山の分も仕上げて自分の仕事もこなしていたんだろ。ずっと君自身の作業に長い時間がかかっていて、無能なのかと勘違いしていたくらいだ」
「えへへ。嬉しいや」
「そうか、彼らは能力はあまり高くないのか」
「多分、先輩達は他の事が上手くできるから、かな? 会社や顧客とのやりとりは先輩達は凄く上手ですけど、資料作りは苦手みたいです。僕は会社とのやりとりが苦手です」
「エテキチフエテ、だったか。ふむ。教えてくれてありがとう、ところで」
何? エテキチフエテって。猿が増えた?
「得手不得手、ですか?」
あっ、何か言おうとしてたのにまた遮ってしまった。
「エテキチフエテ、だろ?」
「そんなことわざありませんよ。そういえば前も間違ったことわざ使ってましたね。課長の唯一の弱点、見つけちゃいました。へへ」
その上、つい軽口を叩いてしまった。
この部屋に入ってから、課長の雰囲気が僕の知ってるあの感じに近かったせいで、気が緩んでしまった。
「二人の時は、課長ではなく、ジョージと呼んでくれないか」
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