ジョージと讓治の情事

把ナコ

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新入社員

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  今日から社会人だ。

 入社式を終えて、配属部署の辞令が下りた。
 僕は外資系の会社を受け持つ部署の下っ端になった。
 同期の話では、僕が配属される部署に、本社から派遣されたやり手の課長さんがいて、部署の成績も社内で鰻登りらしい。
 その分仕事もきついと聞いたので、心してかからねば、と意気込んだ。

 配属された部署で僕の教育担当だという能勢さんに色々と案内をされたけど、直属の上司は不在でフロア挨拶を済ませた後は、社内を案内してもらった。
 初日は社内のルールや雑用をこなしながら設備や社内での過ごし方の説明を受けた。
 
「うちの課長見たら、お前、腰抜かすぞ」

「そんなに怖いんですか?」

「そうだな。女には優しいからモテるようだが男には厳しいぞ。見た目イカツいし、スーツがはち切れそうなくらいバッキバキだよ。それに、」

「わぁ、うらやましいですね。僕そういう人憧れます」

 少し食い気味に相槌を打ったせいで話を途切らせてしまった。

「結城ってひょろっとしてるもんな」

「昔から筋肉が付きづらい身体みたいで、鍛えても大きくならないんです」

「体質ってやつか。すぐに腹が出る俺からすれば羨ましい限りだね」

「能勢さんも、ガッチリした体つきで羨ましいです」

「そ、そうか?」

 能勢先輩は、満更でも無い表情で頬をかいた。

────

 夢のような登山の後、僕は大学に戻って、友達だと思っていた奴らとは距離をおいた。
 卒論だけに集中した。

 失うことに慣れていた僕だけど、一人になりたくない一心でいつも顔色を伺って人といた。
 裏切られても、蔑ろにされても、いつも「ああ、またか」「僕が我慢すればいいか」って思ってた。

 今回はその諦めの気持ちとは違う、何処か晴れやかな気持ちが混在していた。

 多分だけど、夢か現実かわからないあの出会いがあったからだと思う。
 それにうるさい姉ちゃんが僕を見つけるたびに絡んできたから、少し気が紛れたのもある。
 それにしても、僕と同じ日に生まれた姉ちゃんだけど、ここまで性格が違うって、逆に不思議だよ。

────

 デスクに戻って日報を書いていると手元を大きな影が横切って直ぐに、能勢先輩に肩を叩かれた。

「課長が戻ってきたぞ」

 挨拶に向かおうと能勢先輩に連れられていった先には、見知った顔があった。

「ジョージ、さん?」

「讓治……」

「もしかしてネルソン課長と知り合い?」

「え?」

「いや、今、課長のことファーストネームで呼んだろ」

「今日配属の新人って、讓治か?」

「お知り合いだったんですね」

「山で、ちょっと、な」

「はい、山で、ちょっと。あの、本日より配属になります、結城讓治です、よろしくお願いします」

「よろしく」

──

 びっくりした。びっくりした。
 
 ついに僕の夢から飛び出してきちゃったのかと思った。

 あれから一度も忘れたことなんてなかったけど、あまりにも現実離れした夢見心地の1日だったせいで、ジョージに会ったこと自体が夢だったんじゃ無いかと思い始めていたんだ。

 たった一度、たった一回。

 だけど、もうどうしようもなく僕の心を占めて、心はジョージでいっぱいだった。
 万が一、もう一度会えたとしても、もう相手もされないだろうからと、胸に秘めた。
 でも、会えた。それに僕の上司だなんて。

 同じ部署なら話をすることもあるよね。
 友達、は難しいかもだけど、飲みに誘われたりして。
 うわ! 最高の職場じゃん。

 どうしよう。心臓が太鼓叩くみたいにドンドコ言ってるよ。なにこれ鎮まって!
 
 それにジョージも僕のことを覚えててくれた。
 山で会ったのは夢じゃなかったみたいだけど、やっぱりその後のことは妄想だったかな。
 まぁいいや。どうせそうだろうと思ってたし。
 会えたんだから、そのうちそういう機会があるかも……無いかなぁ?




 自席に戻って、課長席に座るジョージをちらりと覗き見た。

 ああー、スーツ姿もかっこいいなあ!
 眉間に皺がよってるけども、あのすらっとした鼻筋、ほんと綺麗。
 優しげだったジョージもいいけど、スーツで決めてるジョージもかっこいい!

 だけど、僕の記憶にあるジョージと、課長として会ったジョージは何かが違う気がした。
 山で会った時と違って、険しい表情だし、少し近付き難い感じがする。


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