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初めての山登り
しおりを挟む卒業旅行に山に行くことになった。
なんで山? って思うくらいに初心者な僕は、友達に言われるがまま登山服や靴を揃えて、まだ霧が残る時間、待ち合わせの駅で皆を待った。
それなのに。
誰も来なかったんだ。
待ち合わせの時間を三時間過ぎても誰も来なかった。
なんだかおかしいな、とは思ったんだ。
買い物の時、買うのは僕だけだったし、さながらファッションショーのように着せ替えさせられて、可愛らしいピンク色の入った服に決められた。
笑ってたから楽しんでくれているんだなと思ったのに。
いや、実際楽しんでくれていたのだろう。
コレっていじめかな。
悪戯にしてはタチが悪いよね?
思い当たることと言われれば。
僕だけ第一志望の証券会社に就職が決まったことを妬まれたのかな。
メンバーの一人は就職が決まってるけど、他はまだ就職活動中だ。
よく考えたら今までもおかしいなって思うことはたまにあった。
それでも今までのことは大した事なかったし、あんまり気にもしてなかった。
仲良くしてくれていると思ってたんだ。
僕をいじって楽しんでくれていると思ってたんだ。
また、僕の勘違いだったのかな。
それにしても、今回のは手が込んでる。
ご丁寧にLIMEのグループチャットも全員退会してるよ。
その上ブロックされてるっぽい。
なんで僕って昔から、友達だと思ってた人に裏切られるんだろう。
何か悪いことしたのかな。
みんなよりちょっと良い会社に就職決まったことがそんなに悪いこと?
そのことを自慢したりしなかったのに。
大学生になっても、僕は友達に恵まれなかったんだ。
よし、せっかくここまで来たことだし、一人でも登ってみようかな。
山登りでいい汗をかけば、このモヤモヤも少しはスッキリするかもしれない。
地図を見る限りでは、勾配のキツイところが幾つかあるけど、難しい道は無さそうだし、何箇所か休憩小屋も用意されてる。
流石にハイキング気分では登れなさそうだけど、幸い山登りの服装と準備はバッチリだ。
初めてだったから少し浮き足立って、色々買っちゃったんだよね。
調味料セットとか絶対要らないと思いながらも可愛さに負けて買っちゃったし。
そうだ、休憩小屋で、用意してきたコーヒーを飲もうかな。
ふふ、一人だけどなんだか楽しいや。
裏切った奴らのことなんか忘れて、楽しもう!
────そんなことを思っていた時もありました。
いい景色を眺めながら山を堪能して、目的の山頂に向かっていたんだけども。
その楽しみは序盤だけだった。
登り始めて三時間、代わり映えしない繰り返しのような景色にさすがに飽き始めていた。
とっくに到着しているはずの休憩小屋も、一向に見つからない。
その上、天候も怪しくなってきた。
遠くに黒い雲が見える。
晴れ予報と聞いてたけど、山の天気は変わりやすいと聞く。甘く見てた。
はぁ、ツイてないなぁ。
足も辛くなってきたし、そろそろ休憩したい。
近場の岩に腰掛けて、既に温くなった水を飲む。
額に汗が滲んで、頬も熱をもってる気がする。
山の木がサワサワと葉を鳴らし、風も強くなってきた。
止まると途端に汗が冷え始める。
このままだとまずい。
もう一度自分に喝を入れて歩き出す。
とにかく休憩所を見つけなきゃ。
30分ほど歩いたけど、やっぱり見当たらない。
少し前までは、まばらに人とすれ違っていたけど、もう一時間くらい誰とも会ってない。
スマホは圏外。
道はどんどん険しくなる。
不安に駆られながらも、地図を信じて突き進んだ。
ポツン。
ポツン。
ポツン、ポツン。
ついに空から雨粒が落ち始めた。
ポツン、ポツン。
ポツン、ポツ、ポツ、ポツ、ポツ。
葉を、服を打ちつける雨音がどんどん増えていく。
ものの数分で本降りに変わってしまった。
風が一気に冷たくなって、汗もすっかり冷えた。
雨に濡れないよう、フードを深くかぶって、足早に進む。
まだ、日の入りにはずいぶん早い時間なのに、空は真っ暗だ。
ばちばちと打ちつける雨を頼りないウインドブレーカーで凌ぎながら、必死に足を動かした。
更に15分ほど雨に打たれながら進むと、地図に書かれている方向とは逆の方角に鈍い灯りが見えた。
どういうことだろう?
こんなところに家?
なんでもいい。雨宿り出来るなら、お願いしよう。
疲れて棒になりつつあった足にもう一度力を入れて、ぬかるむ地面を踏みしめながら、灯りのともる家に向かった。
近寄ると、バンガローと思われる小屋が立っていた。
入り口には目印にしていた灯りが付いて、ガラス越しに中で人が動いているのが見える。
良かった。やっと雨宿り出来る。
僕はほっとして入り口のドアを叩いた。
「カムイン」
外国人?
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