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第十三話 キジバト【鳥言葉:高い適応能力】
しおりを挟むコレは。ひどいな。
俺、バカなんじゃないか?流石にやり過ぎだろ。
昨日は結局、裕樹の意識が飛ぶまで抱き潰した上に、俺も疲れてそのまま寝てしまった。裕樹の怖かった記憶を忘れさせるためだったはずなのに、ベッドの周りには大量のゴムとティッシュとローションの空ボトルが。
こんなんじゃ森田君のこと言えないじゃないか。
もちろん彼がつけたキスマークは倍にして全部上書きしてやったが。
「お"、お"ばよ"う"」
「裕樹。ごめん身体大丈夫?」
「だいじょ…ばな"い"」
「ほんとごめん。声もひどいね。水持ってくる」
優しく身体を起こして水を飲ませてやると、赤くなった目尻をほころばせて笑顔を見せた。
「後で身体綺麗にしてあげるから、今日は1日うちで休んでて。裕樹の家、鍵開けっ放しなんだろ?俺が行って着替え取ってくる」
「部屋、わかる?」
「前車で送った時、部屋に鳥が集まってたから。501号室かな?」
「うん、そう、でもいいの?」
「今日、裕樹が立てないのは俺のせいだし」
「そうじゃなくて、あの」
「それも。いずれ裕樹が解決しなきゃいけない問題でもあるけど、俺は裕樹を全力で助けるから。今日はとにかく休んでて」
「約束も。破ってごめん」
「約束?」
「あんまり飲むなって言われてたのに。絋輔がモテてるの見たら、なんか、イラついて」
「…それでいっぱい飲んじゃったの?」
「ほんと、ごめんね」
「もう謝らなくていいって」
「それと、もう一つ」
「ん?」
「僕、ずっと言ってなかったから」
「…」
「僕、絋輔のことが好き。…凄く好き」
「はは、なんとなく。最近はそうじゃないかなとは思ってたけど。祐樹の口から聞くと嬉しいもんだな」
「…どうしたの?」
「んん?」
「絋輔、泣いてる」
「そんなはず…」
俺の頬を伝う水を祐樹が指でするりと拭った。
自分が思っていた以上に、俺は祐樹の言葉が嬉しかったらしい。
「俺も好きだよ。愛してる。ああ、やばい。また欲しくなる」
「今日は流石に無理…」
抱き寄せた裕樹は少し不機嫌そうに俺を睨んだ。そんな顔もかわいい。
「わかってるって。ほんと、裕樹は可愛いなぁ。なんでこんなに可愛いんだろ?こんなに酷くしちゃって、本当、反省してます」
「体はつらいけど、絋輔の気持ちが伝わって嬉しかった」
「祐樹…?」
「それに僕も、凄く、その、乱れちゃった、し」
確かに、昨晩の祐樹はサキュバスかと思うほどエロかったが。
「昨日、も、森田君に触られて…」
「無理に思い出さなくていいんだぞ」
「ううん。ちがう、きいて。
昨日、本当に嫌だったんだ。絋輔には何されても気持ちいいしか感じたことなかったのに、森田君に同じことをされたら、すごく嫌だって思った。だからわかったんだ。絋輔のこと好きだったんだって。だから」
「うん?」
「だから元気になったら、また。一つになりたい」
「…あんまり俺を煽らないでくれ。止められなくなるだろ」
「今日は我慢して」
「ごめん、でも祐樹がかわいいのが悪いんだ」
「かわいくなんてないのに」
「いや、かわいいよ。本当、もう誰にも渡さないからな」
「…うん」
---
裕樹の家に行くと、森田君の置き手紙があった。
奴がいたら殴り飛ばす予定だったんだが。機会を失ってしまったな。
後輩君も反省したんだろう。気持ちは本気だと書かれていたが、よほど反省したのか、何度も謝りの言葉が連ねられていた。
それにしても。汚すぎるだろ、この部屋。
泥棒でも入ったかと勘違いするレベルだ。思わず裕樹に電話したくらいだからな。
鍵は鞄の中だと言ってたが、カバンの中もぐちゃぐちゃだ。仕事はかなりできる方だと思ってたが、整理整頓は苦手なのか?
まぁ、いい。洗濯ついでに着替えも持って帰るか。
何なら俺のところに引っ越して来ればいい。会社にも近くなるし。
なんとか見つけ出した鍵で玄関を閉めると、大量の荷物を持って家に戻った。
◆◆◆
あれからしばらくして、裕樹は部屋を引き払い、俺と住むようになった。後輩君とはちゃんと話をしたようだが、あんなことがあった自分のベッドで眠るのが怖くなったそうだ。
週明け、「怖くて眠れない」と夜中にうちを訪れた時は嬉しさと同時に悔しさで震えた。
ちなみに、怒りが抑えられなくて、一発森田君を殴ってやろうと思っていたのだが、どうやら祐樹にオイタをして蹴っ飛ばされた時、あばら骨にひびが入ったらしく、しばらくは出勤さえできなかったらしい。なかなかやるじゃないか、祐樹。
祐樹は随分と申し訳なさそうにしていたが、奴の自業自得だと納得させた。
祐樹が受けた心の傷に比べればあばら骨くらい折られても仕方ないさ。
森田君が怪我の原因を聞かれても祐樹の名を出さなかったことだけは良かったと思ったが、あいつがやらかしたことを考えれば言えるわけもないな。
祐樹が越して来て、俺の部屋には新たに遮音遮光カーテンがかけられた。裕樹が家にいると何羽か来てしまうが、裕樹が餌をあげれば直ぐに散開するし、俺がいる時はあまり寄り付かない。
念のため近所には詫びを入れておいたが子供たちが鳥と触れ合いたいと言い出したせいで、祐樹を連れてマンションに隣接している公園で遊ばせたら、それ以後、親たちは何も言わなくなった。祐樹は子供たちに「鳥のお兄ちゃん」と呼ばれて人気者になっていた。
管理人には睨まれたが、不思議なことに鳥は集まるだけで洗濯物を汚したり巣を作ったりするわけではないので、何とかなっている。
しかし部屋で致している時は、特に気を使わないとたくさん寄ってきてしまう。
やっぱり裕樹がフェロモンでも発しているんだろうか?俺もそれにやられたクチではあるけど。もう少ししたら、寄ってきても問題になりにくそうなマンションを見つけて二人で引っ越す予定だ。
一緒に生活を始めてわかったことの一つに、祐樹は家事全般が壊滅的だった。
同居を始めた当初は、手伝うようなことを言っていたから、何度かお願いしてみたが、無理だと判断した。
しかし、AV機器の配線はかなり上手いと思う。さすがシステム屋。俺はコードを見てもどれがどれだかわからなくて説明書を読まないと出来ないが、祐樹は物を見ただけで配線してしまう。
今まで電器屋任せだった作業も祐樹がやってくれるおかげで、宝の持ち腐れに なっていた電子機器も機能をフル活用できるようになった。
そもそもは祐樹がゲームをやりたいと言うのでセッティングを任せたら、今ま でできなかったことができるようになってびっくりしたのだ。
取扱説明書を全く読まないのに俺より電化製品の理解が深いってどういうことなんだよ。まぁ、祐樹のかっこいいところが見られるのは嬉しいけどな。
相変わらず血には弱いし、鳥も寄って来る。
この男の不思議な魅力は鳥にも動物にも、もちろん俺にも大いに影響を及ぼしている。俺はと言えば、なんだかよくわからないうちに祐樹にハマって、今はその沼から抜け出せなくなっている。抜け出すつもりもないが。
海外出張から帰って来た時の家のごった返し具合には多少憤りを感じるが、祐樹の笑顔を見れば自然と元気も出てくる。
祐樹の変化と言えば、お詫びと言って体を差し出してくるようになったことだろうか。俺が教え込んだことではあるが、随分と俺の扱いがうまくなったもんだ。
快楽に慣れた祐樹もかわいくて、おかげでジムに通う回数が減っている。
ちなみに、まだ俺は「ゲーム」に勝てていない。
ま、これからも地道に口説いていけばいいさ。チャンスは毎日あるんだから。
俺は人生初の好きな人を口説き落とすという行為を少しばかり楽しんでいる。
ただ、祐樹が俺を好きになるよりも俺の気持ちが募っていく方が強い気がする。
好きになった方が負けということを、今更になって思い知った。
俺はあの日からずっと祐樹に恋をしている。その熱は未だ上がり続けるばかりで天井知らずだ。
今日も頬をピンクに染めて俺を見上げる姿に、幾度目かの恋をした。
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