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第十二話 カツオドリ【鳥言葉:清冽】※

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 絋輔君が、また寝てる僕にいたずらしに来た。絋輔君に触られるのはいつも気持ち良くて、逃げられなくなって、流されてしまう。
 だけど、嫌じゃないんだ。やっぱりそれは絋輔君が上手だからなのかな。最初はされるがままだったけど、最近はもっとして欲しいって思っちゃう。
 僕、こういうことに縁が無かったから、どうしてたら良いかわかんなくなっちゃうけど、最近は少しくらい乱暴でも絋輔君にされるならイイかもって思っちゃうくらい気持ち良い。

 熱くて分厚い舌が僕の口の中で蠢いてる。そんなにされたら触って欲しくなっちゃうよ。
 いつもみたいに優しく肌を撫でて、柔らかく包み込むように、気持ち良くして欲しい。


 だけど。


 ……なんだか、いつもと違う。気持ち良いけど、なんか違う。どうしちゃったの?絋輔君。

「こうすけ、くん?」

「ちがいますよ。俺です。初めて勃ててくれましたね」
「ひっ、な、何してっ」
「これから、先輩を俺のモノにします。あんな奴より、絶対良くするから」
「や、やだ、森田君、正気に戻って」
「やだなぁ、正気ですよ。ずっとこうしたいと思ってました。先輩、好きです。俺のものになってくれますよね?」

 そんなことを言って僕の脚の間から、森田君が迫り上がって来た。僕も逃げたけど、ベッドボードに阻まれて、行き場を失ってあたふたしているうちに僕の口に唇を押し付けてきた。口の中を蠢くそれが、何かを思い出させる感覚に囚われたと同時に、強い拒絶感が込み上げた。
 嫌だ。僕は森田君としたくない。
 必死に森田君を手で押しても全然離れてくれない。力で勝てないんだ。

「あれ?びっくりして萎えちゃいました?直ぐ良くしてあげますよ」
「ぃたっ」

 胸を抓られて、反対の手は僕の急所を掴んでる。
 恐怖で縮み上がったそれをもう一度大きくしようと擦り上げる手が気持ち悪くて、僕は思いっきり森田君を蹴飛ばした。

「っ、ゴホッ、先輩、何故ですか。なんで俺じゃダメなんですか。気持ちいいことしたいだけなら俺でもいいでしょ」
「森田君とはしたくない。森田君とはしたくないんだ。ごめん」



 僕は目に入った服を掴んで外に飛び出した。エレベーター内でどうにかズボンとシャツだけは着たけど、下着もつけてないし、靴も履いてない。スマホも財布も持って出るのを忘れた。
 だけど森田君のいるあの部屋には帰りたくない。

◆--

 どうしたら良いのか分からなくなって、何気なくズボンのポケットを探ったら、絋輔君がくれた鍵が出てきた。
 絋輔君。絋輔君。ごめんなさい。ごめんなさい。





---


 家に帰っても、裕樹は来ていなかった。

 何度かスマホにメッセージも送ってみたが既読にもならない。電話をかけても、繋がらなかった。
 不安が拭えず、急ぎ裕樹のマンションに向かった。



 裕樹のマンションに到着すると、着乱れた状態で裕樹がマンションの入り口に力なく座り込んでいた。靴を履いていない。何があったんだ?

 慌てて駆け寄ると俺の顔を見て、ごめんなさい。ごめんなさいと、何度も謝りながら目に涙をたくさん溜めてしゃくり上げるせいで、話も要領を得なかった。
 混乱しているようだが、自分の部屋に帰ることを頑なに嫌がる裕樹を落ち着かせたくて、俺の部屋へ連れ帰った。

 タクシーの中、ずっと泣いて俺の胸に抱きついていたが、飛び飛びに話す内容をつなげると、どうやら森田君がやらかしたようだった。
 激しい怒りが込み上げてきたが、それ以上に目の前の祐樹が心配だった。

 俺の胸に置いていた手が、ずっと何かをきつく握り絞めていたのに気づいて、手を取ってゆっくり広げてやると、俺が渡した鍵が出てきた。よほど強く握っていたのか、血が滲(にじ)んでいる。
 俺は裕樹をもう一度強く抱き寄せた。

 裕樹をこんなになるまで追い詰めるとは。


 俺の家に着いて、風呂に入れてやろうと宥めながら服を脱がすと祐樹の身体を見て唖然とした。

 身体中にキスマークが付けられている。その上奴が出したのか、裕樹の体からは青臭い男の匂いが漂っていた。
 祐樹は下着を履く暇もなく飛び出てきたようだ。よほど怖かったのだろうに。

 丁寧に洗ってやると、自分でも事態を把握したのか、また、ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返し謝ってきた。

「怒ってるけど、裕樹には怒ってないよ。飲まされてた酒、アルコールが強いことに気づかずに飲んじゃったんだろ?」
「ごめんなさい」
「もう謝らなくていいから、教えて。何された?」
「えっ」
「全部、俺が上書きしてあげる」
「でも」
「裕樹、俺を見て?」
「あっ…」
「裕樹。怖かったことは全部俺が忘れさせてやる。だから教えて」

 俺を見上げて直ぐに、裕樹の中心が首を擡げた。
 俺、もう自惚れていいだろ?

「キス、された」

 唇を合わせるキスをする。

「他には?」
「もっと深いキスも」

 怒りを抑えて、裕樹に優しく甘い口づけを落とす。歯列をなぞるように、上顎を愉しむように。熱い舌を引き出し吸い上げて、濃厚に絡めた。
 裕樹も俺を欲しがるように、舌を差し出してくる。
 甘い口づけは裕樹の息を上げ、色をはらんだ吐息をこぼした。祐樹が口の端から飲みきれなかった唾液を零し、俺を見上げる姿が艶めかしい。

「他に、何された?」
「いろんなところに、キスされて、触られた」
「うん。他には」
「あと、それを…」

 目線を下に動かして、されたことを恥ずかしそうに告げた。そんな姿にまで煽られている俺も充分イカれてる。

「どうされたの?」
「口で」
「うん、綺麗にしてあげる」
「あっ、絋輔…」
「奴にフェラされてイった?」

 咥えたまま見上げると、目を瞑って首を大きく横に振っていた。

「出さなかったの?」

 うんうんとうなづいている。

「どうして?」

「僕眠ってたから、最初、してるの絋輔くんだと思って。でも、なんかいつもと、違う、感じがして目を開けたら、も、森田君で」
「うん」
「そしたら急に怖くなって」
「萎えちゃった?」

 またうんうんうなづいてる。

「そうか。ところで裕樹、俺が咥えてるコレ、今にもはちきれそうだけど?」
「ああっ、言わないで」
「気持ちいいんでしょ?」

 恥ずかしそうに顔を隠して、うなずいた。

「イかせてほしい?」

 またうなずいた。

「口で言って」

 俺は裕樹の硬くなったピンクから口を離した。
 裕樹は困ったような、辛そうな泣き顔をして、俺の肩に拳を当てて来る。
 痛くないそれは、ペチペチと音を立てるだけの可愛らしい抗議だった。

「裕樹」
「こうすけくんのいぢわるっ」
「うん、でも聞きたい。ほら、俺にどうしてほしい?イきたいでしょ?」



「う。ん。こうすけくん、抱いて」


 予想外の裕樹の言葉に、俺はたがを外された。





「やば、裕樹。ごめん、手加減できる気がしない」




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