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第七話 アオバト【鳥言葉:止められない衝動】

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「もしかして、忙しかった?」
「忙しくはないですが」
「が?」
「今日、買いたいものがあったので」
「何買いに行く予定だったの?」
「…ゲーム」
「今から行く?」
「えっ」
「欲しいゲームがあるんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、買いに行けばいいじゃない」
「でも、今日は兆壬さんが」
「いや、俺も祐樹の予定聞かずに呼び出しちゃったから」

 もしかして、それで機嫌が悪いのか?

「あー、でも、もう買えないし」

 どうやら今日の12時発売だったらしい。並んで買いたかったのだろうが、今の時間は14時。今から並んでも買えないし、並んでいたらここには来られなかった。
 売り切れたら、ひと月先まで手に入らないらしい。

「ごめん、俺の伝手に聞いてみようか?祐樹の欲しがってるゲームに明るいやつがいるかわからないけど、何人か思い当たるし」
「えっ?!」
「なんていうゲーム?」
Birthバース Strandingストランディング
「わかった。ちょっと待ってね」

 知り合いのゲーム好きと小遣い稼ぎが趣味の奴の何人かに対象のゲームを手に入れている奴がいないか聞きまわったら、2人ほどが手に入れていた。
 今日の受け渡しが可能な奴から買うことにしたら、メーカー価格の3倍を吹っ掛けられたが、それを買うことを告げ、祐樹にも手に入ることを伝えた。

「ほんとに?ほんとに!?すごく楽しみにしてたんだ!」
「そんなに楽しみにしてたなら言ってくれたらよかったのに」
「…兆壬さんが誘って来たから」
「祐樹も会いたいと思ってくれたの?」
「……」

 やっぱりかわいいな。また顔を赤らめてる。


 1時間後、ゲームを受け取って祐樹に渡した。
 祐樹には多少値が張ったことは伝えていないので正規の値段の分だけ受け取った。祐樹の笑顔のためならこの程度の出費は微々たるものだ。

 本当は食事に行くか、祐樹の家にお邪魔をしたかったが、ゲームを楽しみにし過ぎていて、さすがにその時間を奪う言葉を発することはできなかった。
 土産も渡してマンションまで送ると、追いかけて来た猫にさえ目もくれず、嬉しそうに駆け足でマンションに入って行った。
 その後ろ姿を眺めながらふと思う。なんか俺、すげぇ都合のいい男になってないか?しかし俺の心の大半が、それでも良いと告げてくる。なんなんだこの感情は。



 後で知ったが、祐樹が欲しがったゲームは世界的にも人気なゲームで、データ配信もされているようだったが、祐樹はメディアが欲しいのだと言っていた。ゲーマーにしかわからないこだわりなのかもしれない。


 それから2日経って、祐樹から『お土産たくさんありがとう』と、メッセージが届いた。わざわざ日曜に渡すためだけに大量にした土産だ。ほんと俺、なんでこんなに一生懸命なんだろうか。
 直ぐに電話を掛けて、ゲームのことを興味本位で聞いてみたら、どうやら今日までずっと寝る間も惜しんでゲームをしていたらしい。
土産も今日中身を見たと言っていた。
 俺のことも完全に忘れていたようで、優先順位がゲームに負けたのはとても悔しいが、どうやら寝る間どころか食べるのも忘れていたらしく土産にチョコレートを入れていたことに随分喜んでいて、俺はそのことだけで先ほどまでの悔しさが薄まっていくのを感じた。
 俺とゲームどっちが大事なんだ、とか。ものすごく面倒な女のセリフが一瞬頭をよぎったことは墓場まで持って行こう。一番嫌いなタイプの女の思考を身をもって理解することになるとは。少し落ち込んでしまった。


 やはり放っておくと全く連絡をくれない裕樹に俺が先に焦れて数日後、食事に誘った。
 まだゲームはやりたいようだったが、社長賞を貰ったから回らない寿司屋に連れて行ってやると伝えたら行くと言ってくれた。

 祐樹の話はゲームのことばかりだった。操作に慣れて前半ミッションは終了したらしく、今はキャラクターの育成を楽しんでいるそうだ。
 話が盛り上がったときに、ついでとばかりに週末家に来ないか聞いてみると、顔を赤らめて「行く」と返ってきた。
 今はゲームが楽しそうだし、渋られるかと思ったが直ぐに承諾の返事をくれた。


 少し、恋人らしくなってきただろうか?



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