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第六話 ハマシギ【鳥言葉:執着心】

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 あれから一週間。祐樹から一度も連絡がない。



 そう言えば俺、今まで付き合った相手に自分から行動したことがない。付き合うまでも、付き合ってからも誘われるがまま相手をしていた。だいたいそれに合わせていれば良かったのに。
 今考えると、「連絡くれない」と良くキレられていた気がする。そういう女は面倒になって、だいたい別れ話になるんだが…今そんなことはどうでもいい。
 困った。意中の人に何と連絡すればいいのかわからない。断り方なら幾通りも引き出しがあるんだが。

 祐樹も付き合うのは初めてだと言っていたし。もしかしたら祐樹から連絡するのも恥ずかしがっているのかもしれない。

 でも、なんて誘えばいいんだ?
 今までの女達は何と言って誘ってきてた?困った。思い出せない。

 そう言えば、俺は祐樹のことを仕事以外ほとんど知らない。知っているのは、魚が好きなこと、野生の鳥に好かれること、身体の感じやすいところ。その3つだ。裕樹はいつも何してるんだろう?
 会って、話をして、笑顔を見たい気持ちがあるのに、どうやって会えばいいのかわからない。俺のいるこの場所から数階下のフロアにいるはずなのに。
 昼もあの場所に来なくなってしまったから、後輩君の弁当でも食べているのだろう。それも嫌だが、やめさせる方法も思いつかない。

「係長、明日から出張じゃなかったでしたっけ?準備終わったんすか?」

 休憩ブースでコーヒーを飲みながら、一人グルグルと考えていたら、後輩で部下の山下君が声をかけて来た。

「そうなんだよ。出張なんだよ」
「どうしたんすか?なんか元気ないっすね?」
「そうだ。山下君、女の子好きだよね?」
「そうっすね」
「いつも、なんて言ってデートに誘ってるの?」
「え?どうしたんすか?もしかして係長、誘ったことないとか言わないっすよね?」
「ないけど?」
「うわーー。相変わらず嫌味っすねぇ。なんでそんななのにモテるんすかね?いやでもいつも続いてないし、やっぱり人間的に問題が…」
「山下君、気付いてるか知らないけど、全部声に出てるよ」

 山下君はこんな子だから下手な奴らよりも信頼できるのだが。

「係長、好きな人でもできたんすか?」
「まぁ、そんなとこ」
「係長なら普通に誘ったらいいじゃないですか。絶対ノッてくれますって」
「理由が無いっていうか」
「理由ってなんすか」
「ん?誘う理由だよ」
「好きな人と会うのに理由なんていらないでしょ」
「そういうもん?用もないのに何で会うの?」
「マジすか。うわー。係長、完璧男だと思ってたら超残念男じゃないっすか。もしかして今までの彼女に『用がないなら会わない』とか言っちゃってないですよね?」
「失礼だな。そんなはっきりは言わないよ」
「言うのは言うんすね。はー、わかったっす。そんな残念係長に俺がレクチャーしてあげてもいいっすよ」
「それはいらない」
「なんなんっすかっ!」
「とりあえず、誘う言葉を教えてくれれば」
「嫌っすよ」
「なんだ、レクチャーしてやるとか言ったくせに」
「係長も悩んだらいいんす。そしたら俺がいつもどんだけ努力してるかわかるっすよ!」

 君が努力してることは知ってるんだけどね。そういう君も彼女といつも長続きしないじゃないか。
 散々山下君には揶揄われてしまったが、言われてみれば祐樹は恋人なんだし、普通に誘ってもいいわけか。確かに祐樹と食事をするならそれはとても楽しい時間になるだろう。

 しかし明日から3日間、出張で日本を離れる。帰ってくるのは日曜だ。どうしたものかと考えて、妙案を思いついた。土産だ。
 出張先で何か買って渡せばいい。そうすれば会う口実ができる。


---


『日曜、日本に戻るんだけど会えないかな?土産を渡したいんだ』
『その日は疲れてるだろうし、月曜日会社で受け取るでも良いですよ?』

 Oh... まさかの返事だ。
 ここで食い下がってもいいものなのか、それとも、提案を受けるのが普通なのか。もしかして、休日は会いたくないとか言わないよな?

『職場に持っていくには土産の量がちょっと多くて』
『わかりました』

 あれ、なんかちょっと、嫌がってる?
 うわぁ、俺何でまたこんなに動揺してるんだ。
 大丈夫だ、きっとなんてことない。


「祐樹!」
「どうも」

 駅前に呼び出した祐樹に声をかけると、先週会った時に見た表情と打って変わって随分と不機嫌そうだった。



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