俺の息子の息子が凶悪な件

把ナコ

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【閑話】ハロウィン・ナイト

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「月末、オレ出かけるけど」

「月末……? もしかしてハロウィンか?」

「ああ」

「すっかり大人向けのイベントになったなぁ」

「柊も変装するか?」

「流石に俺がやってもな。そういえば、尊があの黄色い怪獣のキグルミ着て、トリックオアトリートって言ってきた
時は可愛かったなぁ」

「一体いつの話だよ」

「小学生の頃。なんかイベント熱心な先生いたろ? あのときのキグルミ」

「それは覚えてるけど……」

「アレ、もう着ないのか?」

「はぁ? 着ねぇって。何歳だと思ってんだよ」

「可愛いと思うんだけどなぁ」

「単に柊がピカ◯ュウ好きなだけだろ」

「そんな名前だったのか、あの怪獣」

「知らなかったのか?」

「みたことはあるぞ? アレだろ? あのボールに入れるやつ」

「ま、まぁ、大きく間違ってないけど」

「やっぱり着ないのか?」

「あれ着たらずっとキグルミ触ってるだろ」

「ふふふ、可愛いからな」

「じゃあぬいぐるみで良いじゃねぇか」

「ぬいぐるみ触って何が楽しいんだ」

「あの耳触んのが好きだったんじゃねぇの?」

「違うよ。あのキグルミを着てる尊が好きなんだ」

「そ、そうか」


 不意打ちのご褒美……。

 当時柊は、ピカチ◯ウのキグルミを着たオレを耳を触っては頭から脱がし、そしてまた被せ、また脱がすを繰り返し、一時間ほどいじっていた。
 かわいいかわいいと何度も繰り返される言葉と何度も抱きしめたり触ったりする柊の動向に、初めの数回は喜んでいたが、途中からオレではなくキグルミに興味を示していることに気づいて、ただ苦痛な時間に変わった。あまりに長く触るもんだから耐えられなくなって必死で逃げた記憶がある。
 あれから、あのゲームもやらなくなったし、なんならあの黄色いモンスターも嫌いになったくらいだ。

 柊のこと、なんでも知ってるつもりになってたけど、この数ヶ月で、知らないことがたくさんあるとわかった。
 20年近く一緒にいても、知らないことは意外にあるらしい。
 最近はもっと知りたいと、以前より貪欲に思う。

────

 ハロウィンは、藤崎に呼ばれて仕方なく参加することにした。
 オレは、藤崎が持ってくる誘いを毎度断っていた。
 女が絡んでいたからだが、それが半年近く続いたことで流石に申し訳なさを感じた。
 話を持ってくる藤崎の表情が日に日に暗くなっていったのも要因の一つだ。
 断られるのがわかっていて持ってくる藤崎もどうかと思うのだが、どうやら女性にお願いされると断れない性格らしい。

 仮装と言っても私服でほぼ対応できそうなあの名探偵に扮する予定にしていたが……。
 夜用に別のものも用意しておくのもいいかな。




「よく来てくれたな」

「藤崎が何度も言うから来たのに」

「そ、そうか。助かるよ。マジで」

「でも適当なところで抜けるぞ?」

「あ、ああ。それはどうにか抜け出せるようにするよ」

 待ち合わせの場所に到着したこの大洲尊は、チェックのコートに身を包んだ英国紳士のようだった。
 帽子はかなり特徴的だけど、こいつは何を着ても格好いい。

──

「きゃー! かっこいい! そのコート似合うね!」

「帽子も似合う~。日本でその帽子かぶってきまるのって大洲くんだけじゃない?」

「本当に~!! 着こなすの難しそう~」

「藤崎くんは──、可愛いね」

「あ、ありがと」

 ついでの様に感想を言われたのは気にしない。言ってくれただけマシだ。

「ねぇねぇ、私達はどう~?」

 お披露目された女子たちの姿は、どれもこれも攻めた姿で、この季節には少し寒い見た目だった。

 一人は、懐かしの鬼の女の子。緑のロングヘアーに鬼のツノが見える。
 今の時代、そのキャラ知ってるやついるのか?
 でも、そのモフモフ衣装にはちょっと興味あるぞ。

 もう一人は悪魔っぽい、色っぽい衣装の女の子。定番な見た目だが、迫力のある胸元ふぁ目を引く。
 メイクも凄いが、その尻尾は一体どこから出てるんだ?

 最後の一人は警察官コス。エナメルの超ミニスカに、ヘソのピアスが光って目を引く。
 顔に縫い目のメイクがあるせいで怖い婦警さんになってるぞ?
 警棒は振らないでくれ。マジで怖いから。
 
 僕はといえば、ドン◯で売れ残ってた男女ペアのピーターパン。妹と分けた。  
 僕のセンスのなさに妹は随分と怒っていたが、女の子用は一応ミニスカだったから渋々受け取っていた。

 他にも同行したメンバーはいるが、既にカップルが出来上がってる奴らだから自由気ままなもんだ。
 こっちは大洲狙いの女子が3人。 
 大洲の擁護要員に僕一人。
 大洲が女の子を持ち帰るとは考えにくいけど、女の子に連れていかれる可能性はあるからな。

────

「それ、どこから尻尾生えてるんだ?」

「やだー、大洲くんえっちー。スカートの中見たいの?」

 悪魔衣装のナミが、お尻を振りながらおどけてみせた。

「どうなってんのかと思って」

「二人っきりになったら見せてあげる」

 大洲の耳に小声で伝えている。

「そんなに恥ずかしいのか?」

「ええー? もうなにぃ? そんなに急がなくてもいいじゃん」

「もしかしてケツに入れてんの?」

「は、はぁ!? な、な、そんなわけないじゃん! ベルトだよ! ベルトで止めてスカートから出してんの! 変なこと言わないで!」

 大洲よ、おまえにデリカシーという概念はないのか。

「てっきりそう言う趣向のやつなのかと」

「ちっ、違うからっ! 違うからね!?」

「別にいいと思うぞ?」

「はえっ!?、もしかして、大洲くん、その、そう言うのが好きなの?」

「そうだな」

「へ、へぇ? そうなんだ?」

 何やら大いなる勘違いと、大いなる期待の上に会話されてるようだけど、多分彼女の思い描いていることとは大きくずれてるんだろうなぁ。
 
「ナミちゃんだけずるい。抜け駆けしてるぅ」

 後ろからついて来ていた彼女達は、大洲とナミが盛り上がっていたことで不貞腐れていた。

「大洲から喋りかけたみたいだよ?」

「ええっ、大洲くんああいうのが好みだったの?」

「そういうわけじゃないと思うけど」

「やっぱ、あのおっぱいかな」

「ち、違うと思うよ」

「私たちもしゃべりたいなぁ」

「行って来なよ」

「そう? ごめんね!」

 そそくさと連れ立って大洲のところに走っていくと、大洲を両脇から挟んで仕切りに喋りかけていた。
 その姦しさに少し羨ましさを覚える。

 彼女らはまだ良い子達なんだ。
 その証拠に、僕に気遣いが出来る。

 大洲を狙う女子達の中にはかなり面倒なやつや、ヤバいやつもいるから、僕はそれを寄せ付けないように目を光らせてる。

 僕の助けなんていらないのかもしれないけど、大洲の役に立てるなら何だって良いんだ。
 ────なんてな、そんなのは言い訳だ。
 僕は適当な理由をつけて、あいつと居たいだけだ。
 内緒だけどな。
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