俺の息子の息子が凶悪な件

把ナコ

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番外編

柊の裏の顔

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「あれぇ? 君、部長の息子さんじゃないっすか?」

 ママに久しぶりに顔を魅せようと思って店を訪れた時、カウンターで飲んでいた客に声をかけられた。

「なぁに? さとちゃん尊くんのお父さんのこと知ってるの?」
「同じ会社の部長さんっすよ。大洲部長。サユリちゃんと俺のキューピッド!」
「あら、そうだったの? 噂のしゅうさん?」
「ママ、この人は?」
「彼は、山際悟くん。Venusのサユリちゃんとお付き合いしてるの。でも今喧嘩中なんですって。さとちゃんは別かれる度にここでくだ巻いてるのよ」
「別れてねぇっすよ! ちょっと喧嘩しちゃっただけっす」

 山際さんって、柊がよく飲みに誘ってくるって言ってた人の一人だよな?
 何年か前、転勤して雑用させるやつがいなくなって苦労してるって言ってたな。
 
「Venus? 山際さん、しゅ……、父さんと行ってたのってClubVenusなんですか?」
「そっすよぉ」

 ClubVenusは会員制の高級ホステスがいる店だが、特殊なお店で、ホステスは女装した男性で、ギャルソンは男装した女性だ。戸籍上性転換している人もいるが、そういう人は、このお店でどちらで働くのも本人の自由だ。そこで働いている何人かが、ママのいるこの店の常連客にいる。俺の夜の授業の先生だった人もいる。

「父さん、おねーちゃんのいるクラブって言ってたから、てっきり」
「部長いっつもあの店のママのこと「おっさん」って呼んでましたよぉー? あー、でもいつも怒られて、おっねーちゃんって呼んでたっすけど」

 そういえば、おねーちゃんじゃなくて、「お、ねーちゃん」だったかもしれない。

「そうそう。だいぶ前っすけど、部長がVenusのママをおっさんって呼ぶから、部長に嫌がらせでキスしたんすよ。そしたら部長、気持ち悪いぃ! って必死に逃げてたっすけど、そのあと名前で呼べー! って責められながら馬鹿みたいに飲まされてたっすよ。部長、ママにだけ厳しいんっすよねー。あれから部長、ママの前ではちゃんと名前呼ぶようになったっすけど」
「それ、4年くらい前ですか?」
「うーーーーん? ああ、そうっすね。あの時付き合ってたのアケミちゃんっすから」

 あの日か?

「ちなみにVenusのママの名前って」
「ミチルちゃんっすか? オレの好みじゃないっすけど、ミチルちゃんも美人なんすよ~。部長がいじめるからいっつも部長がからかわれてるっす」

「つかぬことを聞きますが、山際さんはゲイなんですか?」
「ええっ? どうなんだろうー。多分違うっすよ。俺が好きなのは女の格好をした男っす」
「え?」
「だから。女の子みたいに綺麗にメイクしてきれいな服を着た、男」
「女の子じゃだめなんですか?」
「女の子はいやなの。男の娘がいいのー」
「へぇ。そういう人もいるんですね」

「なんすかっ。そういう君のお父さんだって十分変態じゃないっすかー」
「え」
「部長から毎日のように聞かされるこっちの身にもなってくださいよー」
「と、父さんから何を」
「のろけ話っすよー。もう俺が会社入った時からずーっと毎日っす。溺愛っぷりがマジきもいっす。その上最近なんか顔赤らめてのろけだしたんっすよ。もう。聞かされるだけで俺ら妊娠するっての」

「父さんは一体どんな話をしてるんですかっ」
「ええぇえぇ? だからー。のろけっすよ。尊に目やにがついてて取ってあげたとか、俺が作った飯を美味そうに食ってたーとか、最近は筋肉がついてかっこいいとか、論文が評価されたとか、おはようって笑ってたとか! 毎回マジどうでもいいの入ってて! 付き合いたての恋人かよ! って突っ込みたくなるっす。ほんといい加減にしてほしいっすよ」
「あの、なんか、すみません」

「俺ー、ちょっと前まで海外赴任だったんすけど、その間はさすがに逃げられると思ってたのに、二人でリモートすると必ず息子自慢始めるんすよ。だから部長とリモートするときは家ではやんなかったっす。絶対カフェ。人がいるところ」
「なんか、ほんと、すみません」

「尊くん、あんなきもいお父さんで本当にいいの? ちゃんと本物のお父さん見つけた方がいいんじゃない?」
「え」
「あれ? 言っちゃダメだったでしたっけ? 解決したって聞いたっすけど」
「あの」
「血が繋がってないんすよね?」
「ええ、まぁ」
「だから、あんな変態親父、やめといた方がいいですって。そのうち絶対襲われるっすよ」

 もう襲われてるんだけど。いや、襲ったのはオレだけど。

「父さんが、外でオレのことをそんな風に言っていたのは意外でした」
「もーほんと。うんざりするほど毎日っすよ。俺と専務は耳にタコ。専務は君が生まれたときからっすから、もっと長いっすけど」
「ほんと、すみません」
「襲われないよう、気を付けるっすよー!」

 ママを見ると声を抑えて笑っていた。
 



 オレって、結構愛されてる? 



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