俺の息子の息子が凶悪な件

把ナコ

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第一章 尊編 ②

悪夢

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 オレは酒を飲み散らかし、掃除もしなくなった家の中は、すえた匂いで充満していた。父さんがいた時には考えられないほど、だらしない生活を送っていた。

 大学生活が始まっても、父さんは帰って来なかった。
 オレは父さんがどこに行ったのか、全然見当もつかなかった。父さんの職場の電話番号も知らない。どんな友達がいるのかも知らないんだ。
 あの後、2度ほど電話をかけてみた。
 電源が入っていなかった。もしかしてスマホも変えてしまったんだろうか。
 それでも、父さんがいつ帰って来てもいいように、父さんの部屋だけは綺麗に保った。オレはといえばリビングか2丁目で朝を迎える日が増えた。
 バーのママは、オレの話を静かに聞いて慰めてくれた。でも、どうすればいいか答えは教えてくれなかった。

 今日も今日とて飲んだくれている。旨くもないタバコも始めた。
 父さんが居なくなって3週間が過ぎていた。
 毎日恋しくて苦しい。もう1年くらい会ってない気がする。

 ミユキから何度か連絡が入っていた。
 会えば少しは気が紛れるかと思ったが、苛立ちが募るばかりで不機嫌でいると、ホテルに誘われた。気分が悪くなってそれも断って帰ってきた。
 やはりミユキとはしていない気がする。あの時ヤったようにはどうしても思えなかったし、何よりあの女で勃つとは思えなかった。

 父さんの部屋から、父さんの寝間着を引っ張り出してきて抱きしめる。もう父さんの匂いも薄くなってきた。寂しくて恋しくて涙が溢れた。
 父さん、会いたいよ。帰って来てよ。

 酔いに任せて、いつのまにか眠っていた。



『あんたなんか生まれて来なければよかったのに』

 うるさい。

『あんたのせいで、台無しよ』

 うるさい、うるさいっ

『腹の中で死んでくれれば良かったのに』

 だまれっ!!

 記憶の彼方にうっすらと覚えがある後ろ姿。
 長い髪が肩から流れて、真っ赤に汚れた細いタバコを忙しなく吸っている。

 長い間、一度も思い出さなかったあの女。オレから父さんを奪ったあの女。
 いつも酒とタバコの臭いをき散らし、オレに物を投げ、口汚くののしあの女母という存在

 顔もとうに忘れてしまったのに、不愉快な記憶だけが鮮明に残っていた。


 封印したはずの記憶が、何度も何度も再生される。




 何かに道引かれるようにドアを開けた。

 薄明かりの中、不自然に動く父の姿を見つけて釘付けになる。

 険しい顔で、腰を振る父さんと向かい合うように、女はだらしなく涎を垂らして奇声を発していた。はオレの方を見ると、ニヤリと気味の悪い笑顔を見せて告げた。

『私の物よ。お前には渡さない────』


 うわぁっっ!!!


 飛び起きた。
 ここのところ毎日同じ夢をみる。

 不快な汗が顎を伝って手の上に滴り落ちた。



 母を思い出すたびに思い知る、どす黒い独占欲。

 実の母親には、生まれて来なければ良かったと罵られ、愛しい父には、自分の暴言のせいで捨てられた。

 俺は、大嫌いだったあの女に、そっくりに育っていた。

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