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第一章 尊編 ②
悪夢
しおりを挟むオレは酒を飲み散らかし、掃除もしなくなった家の中は、すえた匂いで充満していた。父さんがいた時には考えられないほど、だらしない生活を送っていた。
大学生活が始まっても、父さんは帰って来なかった。
オレは父さんがどこに行ったのか、全然見当もつかなかった。父さんの職場の電話番号も知らない。どんな友達がいるのかも知らないんだ。
あの後、2度ほど電話をかけてみた。
電源が入っていなかった。もしかしてスマホも変えてしまったんだろうか。
それでも、父さんがいつ帰って来てもいいように、父さんの部屋だけは綺麗に保った。オレはといえばリビングか2丁目で朝を迎える日が増えた。
バーのママは、オレの話を静かに聞いて慰めてくれた。でも、どうすればいいか答えは教えてくれなかった。
今日も今日とて飲んだくれている。旨くもないタバコも始めた。
父さんが居なくなって3週間が過ぎていた。
毎日恋しくて苦しい。もう1年くらい会ってない気がする。
ミユキから何度か連絡が入っていた。
会えば少しは気が紛れるかと思ったが、苛立ちが募るばかりで不機嫌でいると、ホテルに誘われた。気分が悪くなってそれも断って帰ってきた。
やはりミユキとはしていない気がする。あの時ヤったようにはどうしても思えなかったし、何よりあの女で勃つとは思えなかった。
父さんの部屋から、父さんの寝間着を引っ張り出してきて抱きしめる。もう父さんの匂いも薄くなってきた。寂しくて恋しくて涙が溢れた。
父さん、会いたいよ。帰って来てよ。
酔いに任せて、いつのまにか眠っていた。
◆
『あんたなんか生まれて来なければよかったのに』
うるさい。
『あんたのせいで、台無しよ』
うるさい、うるさいっ
『腹の中で死んでくれれば良かったのに』
だまれっ!!
記憶の彼方にうっすらと覚えがある後ろ姿。
長い髪が肩から流れて、真っ赤に汚れた細いタバコを忙しなく吸っている。
長い間、一度も思い出さなかったあの女。オレから父さんを奪ったあの女。
いつも酒とタバコの臭いを撒き散らし、オレに物を投げ、口汚く罵るあの女。
顔もとうに忘れてしまったのに、不愉快な記憶だけが鮮明に残っていた。
封印したはずの記憶が、何度も何度も再生される。
◆
何かに道引かれるようにドアを開けた。
薄明かりの中、不自然に動く父の姿を見つけて釘付けになる。
険しい顔で、腰を振る父さんと向かい合うように、女はだらしなく涎を垂らして奇声を発していた。女はオレの方を見ると、ニヤリと気味の悪い笑顔を見せて告げた。
『私の物よ。お前には渡さない────』
うわぁっっ!!!
飛び起きた。
ここのところ毎日同じ夢をみる。
不快な汗が顎を伝って手の上に滴り落ちた。
母を思い出すたびに思い知る、どす黒い独占欲。
実の母親には、生まれて来なければ良かったと罵られ、愛しい父には、自分の暴言のせいで捨てられた。
俺は、大嫌いだったあの女に、そっくりに育っていた。
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