俺の息子の息子が凶悪な件

第一章 尊編 ②

父さんの家出

　大学の合格祝いにバイト先の先輩達がお祝いをしてくれた。

　２丁目に遊びに行くようになった頃に、父さんに怒って欲しくて酒を飲んでみたことがあったが、頭が痛くなっただけで、未成年はやめておけとママに止められた。
　バーで知り合った他の奴らと別のバーに行った時も、お酒は飲ませてくれなかった。2丁目の奴らはいたずら好きだけど、みんな紳士だからな。

　だけど、バイト先の先輩達はその辺の加減がない。嫌がるオレに無理矢理飲ませにかかった。
　一気に大量に飲まされて、頭が痛くなるかと思ったら、楽しい気分になってしまい、その後調子に乗ってたくさん飲んだせいで、今度は眠くなってしまった。

　目を覚ますとバイト先の同僚のミユキがオレの顔を覗き込んでいた。

「うわっ、なんだ。どこだここ」

　裸だ。いや、下は履いてた。

「昨日のこと、覚えてないの？」
「昨日のこと？」
「ここは私の家。尊くん、酔っ払って無理矢理ここに来たんじゃん」
「なんで」
「なんでって、酷い。セックスまでしたのに」
「え」
「覚えがあるでしょ？」
「オレとお前が？」
「信じないの？　コレ見れば信じる？」

　差し出されたスマホにはオレが彼女のベッドで眠る写真が表示されていた。
　追い討ちをかけるように彼女は肩を出して胸元に残るキスマークを見せた。

「本当にヤったのか？」
「責任、とってくれるでしょ？」

　というか、この女はできる女だったのか。
　今、肩を艶かしく差し出す姿を見てもピクリとも反応しない。

　最近は、以前よりも更にスキンシップが無くなった父さんと大きな溝を感じて、気分が落ちていたことは確かだ。受け入れる準備は出来たのに、父さんとは1ミリも進展していない。
　それもあって最近抜いてなかったが、だからと言って、コイツとするか？

◆

　それから、この女はオレの彼女だと言いふらし始めた。

　オレは、あの夜のことがまだ信じられなかった。しかし、彼女がこれだけ言ってるわけだし、何かをしたのは本当なんだろう。

　何度かデートには付き合わされたが、やることは友達と出かけているのとさほど変わりはない。
　だが、キャッキャとはしゃぐ彼女を見ていると、可愛らしい動物のようで、いい気分転換になった。
　少しだけ、ほんの少しだけ、彼女を作ってみるのもいいかもしれないと思いはじめていた。

────

　オレも春から大学生だ。
　父さんが大学の入学申込書と入学金を用意してくれたと連絡があった。
　まだしばらく父さんには世話になるけど、就職したらやっと対等になれる。
　それまでに、もう少しオレを男として見てくれるようになって欲しいんだが、どうすればいいのか全然思い付かなくて、今まで何も行動を起こせなかった。
　本当にオレって、即物的な誘い方しかしてなかったんだと今更になって痛感した。

◆

　家に着くと、父さんにこの家を出ていけと言われた。
　一人暮らしする気なんてさらさらなかったのに、ご丁寧に複数の住宅情報まで取って来てやがる。
　そんなにオレを追い出したいのかよ。
　オレを育てるのはもう充分ってか？
　あんたにとっては赤の他人を世話させられたんだ。卒業するまでの我慢だったのか？

「……それって、この家からオレを追い出すってこと？　他人のオレはお払い箱なのかよ！？」

　頭に血が上って、口を滑らせてしまった。
　父さんもオレが知っていることに気づいていたみたいだった。

　血が繋がっていなかったことを喜べば、父さんも少しはオレを男として見てくれると思ったのに、父さんは酷く傷ついた顔をして、出て行ってしまった。

　すぐに帰ってくると思ったのに、３日経っても、1週間経っても父さんは戻って来なかった。
　きっと、父さんはオレを捨てたんだ。