俺の息子の息子が凶悪な件

把ナコ

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第一章 柊編

ご褒美

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 明日、尊は13歳の誕生日を迎える。

「誕生日プレゼント、何か欲しいものはあるか?」
「パパが欲しい」
「パパは居るじゃないか。ママが欲しいの間違いじゃなくてか?」

 妻と別れてから、尊は女性が家に来ることをこの上なく嫌がった。いや、女性だけでなく男もだったか。
 時期的に仕事が忙しかったこともあって引っ越した直後は、週に一度、ハウスキーパーを依頼した事がある。しかし若い女性も、熟練の女性も、男性の職員もダメだった。職員が帰ると「次からは担当を変えます」と派遣会社から連絡と謝罪をもらい、尊が追い返したのだと分かった。
 尊は当時、この家に他人が入ることを嫌がっていた。俺の母でさえあまりいい顔をしなかったくらいだ。

 8歳になった頃、職場の上司に「息子には母親が必要だ」と薦められ、一度だけ見合いをしたことがある。そのことを伝えると尊は一週間、口を聞いてくれなかった。
 その時は尊の独占欲を嬉しく思った程度だった。
 俺はといえば、性欲を持て余すことはたまにあるが、抜けばスッキリするし、女がいなくても特に困ることはないと考えていた。そもそも俺と相性の良い女性が見つかるとも思えなかった。

「ママなんていらないよ」
「そうだったな」

「ねぇパパ、サッカーの試合、見に来てくれるでしょ? 僕スタメン取れたんだよ」
「もちろんだ。その日はちゃんと休み取ってあるよ」
「勝ったらさ、お祝いしてよ」
「そうだな、美味いもん食いに行こうか」
「勝ったらお誕生日と合わせてお願いごとしてもいい?」
「お願いごと? なんだそんなに高いものが欲しいのか?」
「欲しい、うん。欲しいかな」
「何が欲しいんだ?」
「まだ内緒」
「なんだよそれ」
「約束だよ!」
「わかった、約束な」



「尊! そこだ! 打てっ!!! ゃったぁー!」
「尊くんすごいですね! チーム最年少なのに2得点上げましたよ!」
「頭もいいし、やっぱりお父さんに似たのかしらぁ?」
「俺はそんな運動神経はいい方じゃ無いので。尊の努力の賜物ですよ」

 ママさん達の話に巻き込まれながら応援席から声を飛ばした。
 ゴールを決めて嬉しそうにこちらに手を振った尊が、俺と目が合うと何かに気づくように固まって、しかしすぐチームメイトに後ろからどつかれて、笑顔になっていた。
 フフン。俺の息子はすごかろう?

 試合は勝利で終わったが、俺の元へ戻ってきた尊は、何故かとても不機嫌そうだった。人前だしいつもの甘える感じで来ないことはわかっていたが。
 俺が声をかけても無視して荷物を受け取ると、さっさと車に向かって歩き始めた。

「あらあら、反抗期がもう来ちゃいました?」
「え?」
「あのくらいの年齢の男の子ってお父さんと喋りたがらないですよね」
「そう、ですね」
「良かったら悩み相談乗りますよ? 上の子の時わたしも悩みましたし」
「そうですよぉー。大洲さん。みんな悩みは一緒ですからぁ。気軽に相談してくださねぇ」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます。それではお先に失礼します」
「必ずですよぉー!」
「連絡してくださいねー!!」

 ママさん達の勢いに気圧されながら逃げるようにその場を立ち去ると、尊が車の横で膨れっ面のまま突っ立っていた。

「遅いよ」
「悪い悪い」
「あんなオバサン達にチヤホヤされて鼻の下伸ばしてんなよ」
「オバ……、ママさん達か? お前が反抗期なんじゃ無いかって心配してくれたんだよ」
「はぁ? そんなの口実に決まってんじゃん」
「なんの口実だよ」
「(パパと喋りたいだけなんだよ、あのビッチども)」
「なんか言ったか?」
「なんでもないっ」
「今日はお祝いだな! それで、何が欲しいんだ?」
「家に帰ってから言う」
「飯はどうする、何食いたい?」
「なんでもいいよ」
「なんだよ、お祝いしろって言った割には要望が少ないじゃ無いか」
「じゃあ焼肉」
「よし来た」

 ◆

「あーーーー、久々に食ったな。酒が飲めたら最高だったんだが」
「お酒はお風呂上がりに飲めばいいじゃん」

 家に着いてドタバタとしていると、尊が酒を勧めてきた。

「そうなんだけどな、まだちょっとやること残ってるから、お前は先風呂に入っちまえ」
「一緒に入らないの?」
「だからやる事があるって」
「じゃあ待ってる」
「ふー。わかったわかった。すぐ行くから先に風呂行ってくれ」
「絶対だよ! 絶対すぐきてよ!」

 駆け足で風呂場に行ってお湯張りを始めた。

「あいつ、俺と風呂入るのほんと好きだな」



「それで、誕生日とサッカーの勝利祝いは何がいいんだ?」

 一緒に浴槽に浸かって、尊は背中を俺に預けて足の間に収まっていた。

「パパ、怒らないで聞いてくれる?」
「なんだ?」
「僕、この前白いおしっこ出たんだ」
「そうか、おめでとう」
「おめでとう、なの?」

 首を捻って、驚いた様子で俺を見上げる。

「そりゃ、男になった証拠だからな」
「う、ん。それで。その、調べたんだ。僕病気かと思って」

 直ぐに首を戻して、下向き加減で零した。
 恥ずかしいのだろうか。

「相談してくれればよかったのに」
「それでさ。お願い事なんだけど」

 ──────まずい、まずいぞ。とてつもなく嫌な予感しかしない。


「パパが白いの出すところ見たい」

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