俺の息子の息子が凶悪な件

把ナコ

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第一章 柊編

真実

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 尊のところへ戻ると、今度は明るい顔で迎えてくれた。
 コブが出来た程度だが頭も打っていたので、今日一日は安全を取って入院となった。病室をざっと片付けて立ち去ろうとすると、呼び止められた。

「もう帰っちゃうの?」
「面会時間が終わっちゃうんだよ。明日また来るから」
「そっかぁ。じゃあばいばいのちゅーして」
「先生がいた時はあんなにかっこよかったのに」
「ちゅー!!」
「はいはい」

 優しく抱きしめてキスを落とす。1人が寂しいのかもしれないな。

「僕もする」
「おう。よろしく」
「ちゅっ」

 頬を差し出したつもりが、何故か口の端にキスされた。狙いをミスったな?

「一人でお酒いっぱいのんじゃダメだよ」
「はいはい」

 寂しがり屋の尊を置いて病室を出ると、現実に引き戻されたように項垂れた。
 頭の中ががぐちゃぐちゃで、呼吸の仕方もわからなくなった。

 先生の言うように、俺の血液型が違うだけかもしれない。今まで漠然と疑問に思っていた俺と尊との身体的特徴の差異。一点を除いて、似ていると思ったことがなかった。顔も、四肢も、性格も、身体能力も。
 先生に言われた「ナイーブな内容だった場合」が耳裏でリフレインしていた。



 もやついた気持ちのまま家に着くと、元妻から電話がかかってきた。

『なんか用?』
『聞きたい事があるんだ』
『何』
『尊は俺の子か?』
『…………』
『聞いてるのか? 尊は俺の子か? それとも別の男か?』
『わからないわ』
『わからない? わからないってどういう事だ』
『わかんないものはわかんないのよ。あの頃は覚えられないくらい集まってたし、毎回集まる奴も違ったから、名前も知らないし顔も覚えてないわ』
『集まる……? 何故、黙ってた』
『妊娠してるってわかった時、あんたに言おうと思ってたのよ、一応。でも、あまりにも喜ぶもんだから、なんか悪いなーと思ってさ。おろすつもりだったのがそのまま。流石に悪いと思ったから引き取ろうとしたのよ。でも尊があんたのところ選んだから』
『俺の子の可能性はないのか』
『無いわ。気づいてなかったみたいだけど、妊娠の日数からしてあんたの可能性は皆無よ』
『しかし、あの時聞いた妊娠期間は計算があってたぞ』
『あんたずっと数え方間違えてたのよ。そんなことより、ねぇ、ちょっと! 今更こっちに寄こそうったって受け取らないわよ。戸籍上はあんたの子供なんだからね』
『君は……何故そんなに酷い事が言えるんだ』
『私の人生に尊はいらないわ。子供に縛られるなんてごめんよ』
『母親だろう』
『産んだけど、それだけよ。産んだからって無条件で愛せるわけじゃないわ』
『君はっ……! いや、そうか、そうだな。尊は俺が育てる。君には渡さないよ』
『じゃあもういいわね? 切るわよ』
  
 怒り以上に呆れ果て、通話が終了した画面をぼぉっと見つ下ろしていると、ぽたりと雫が落ちた。

 今更ながらに、何故俺はあんな女と結婚していたのだろうか。
 大学で彼女と知り合い、運命を感じて付き合い始めた。
 俺が大手の会社に就職してからすぐ、彼女は式場や式の日程を決め始めた。お互いプロポーズの言葉はなかったが、いつのまにか結婚する流れになっていた。
 俺は仕事が楽しく、専念したかったこともあって、深く考えずに結婚した。面倒な準備もあの時は彼女が進んでやってくれていたのだ。気が利いていい女だと思ったものだ。
 若かったとはいえ、ここまで人は変わるんだろうか?
 いや、多分俺が気づかなかっただけできっと元からそういう女だったんだろう。

 結婚してからは、直ぐに妊娠が分かったこともあって、俺は子供の中心の生活になった。身重の彼女を世話して、家事も俺がやった。安定期に入っても彼女の機嫌は悪化する一方。
 今思えば、父親がわからない不安を俺にぶつけていたのかもしれない。

 尊は俺の子だ。たとえ血が繋がっていなくとも、他の奴に渡すつもりはない。
 俺は、いつか尊に血が繋がった親子でないとばれても、胸を張って父親だと言えるよう、今まで以上に努力することを誓った。

 ◆

 尊の怪我は順調に回復していった。
 腕以外は大した怪我ではなかったので、退院後は通常通り登校している。
 風呂は大変そうだが、元々一緒に入る習慣が続いていたおかげで身体や頭を洗うのを手伝ってやるだけで問題なく過ごせた。

「怪我したおかげでパパがあたま洗ってくれて、ぼく楽ちんだね」
「そうだな、楽ちんだな。腕が治ったらお返しに俺の頭も洗ってくれよ」
「いいよ! きれいにしてあげるね」

 浴槽に腰掛けて、わしゃわしゃと尊の頭を泡立てていると不意に股に手が伸びてきた。
 そこはきれいにしなくていいぞ。

 ギプスを着けて風呂に入るようになって触らなくなっていたのに、やっぱり触りたかったらしい。頭の泡を洗い流す頃には俺の息子も硬く上を向いていた。

「こら、遊んでないで顔を洗え」

 体に飛んだ泡をざっと流してシャワーヘッドをスタンドに置こうと立ち上がったら、突然予想外の感触に見舞われた。
 それが視界に入ると、俺の脳はフリーズする。
 中腰のまま、ザーザーと流れるシャワーの音だけが室内に響き渡った。
 次の瞬間、滑る柔らかいものが先端を優しくなぞって一気に引き戻された。

「んぁっ」

 信じられないことに、尊が俺の息子を咥えていたのだ。なおも奥へ導こうと大きく口を開けて舌を差し出した瞬間、思わず突き飛ばした。

「いたっ」
「あ……、や、すまん、大丈夫か? 腕は痛んでないか?」
「腕は大丈夫だけど、おしりがいたい。おしりけがしてない? パパ見て?」

 尊は立ち上がるとくるりと後ろを向いて尻を突き出した。

「パパ?」
「え? あ、ああ。大丈夫だ。怪我はしてないようだ。悪かった」
「おしりがいたいよ。なでて痛いの痛いのとんでけして」
「……痛いの痛いの飛んでけ~」
「きもちがこもってないですよー?」

 先程のことは何事もなかったようにケラケラと笑う尊は、いつもの可愛い尊だった。
 無邪気に絡んできただけなのだろうか? それにしてもさっきのは。

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