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ヨシュア編
2.戸惑
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やっと休みを迎えた俺たちは、昼から出かける事にした。
この遠征もそろそろ終了する。
このまま順当に行けば、アレクは部隊を持つ事になる。それまでに終わらせなければいけない仕事と、アレクへの教育と作戦遂行、人員の移動など、ここのところ考えることが山積みだった。
悩ましいことが増えてディーに相談することも多かった。と言ってもあいつは俺の知らない隊員の事や上位部隊の動向を教えてくれるだけで、基本俺の邪魔をして楽しんでいるんだが。とはいえ、固まった思考を別の視点から見せてくれるのに良く役立っていた。
地味な悪戯をするのはやめてほしいところだがな。
ドアにノック音が響いて、アレクが来たようだった。しかし書類仕事がまだ終わっていない。
外で待たせるのも悪いと思って中に入るように言ったが、早く終わらせようと集中していたら、その存在をいつのまにか忘れていた。
---
デスクに影がかかり、手元が暗くなったかと思ったらしばらくして影が動いた。ディーがまた地味な悪戯を。ちょうど良い。意見を聞いてみようか。
確か以前、四隊の情報を持っているようなことを言っていた気がする。
「今度、第四隊と人員のトレードが入る。お前はどの人員を出したらいいと思う?」
「え?」
ん?あ、まずった。そういえばさっきアレクを部屋に通したな。考え事していて忘れていた。
俺から誘ったにもかかわらず、結構待たせてしまったようだ。作業に適当な区切りをつけて終わらせた。
アレクと話せば少し気分転換にもなるだろう。
少し待たせすぎたのか、腹を空かせたのかアレクを見ると元気がなかった。
昼は少しガッツリ食えるところへ連れて行くか。
ハンバーグやウィンナーステーキの食える店に到着してもまだ少し表情が暗かったが、いきなり頷いたと思ったら表情が変わったので、飯が気に入ったのかと思って声をかけた。飯で機嫌よくなるとか、意外とかわいいところがあるな。
「なんだ?いきなり元気になったな」
「今日を楽しみたいっすから」
予想外の返事が返ってきて、アレクが何か思い悩んでいた事に気づいた。
何に悩んでいたのだろうか。俺といる事でその暗い顔を閉じ込めさせてしまったんだろうか。その悩みを打ち明けてはくれないのか?
俺はアレクのその態度に少しフラストレーションを感じた。
映写はとても切ない内容で、面白いものだった。
しかし、俺はと言うとさっき見せたアレクの表情が気になって、そのことをずっと考えていた。
この暗闇の中、アレクの手を取れば、少しは心の中を理解できるのだろうか。
いや、何を考えてる。男の、それも部下だぞ。俺も仕事疲れで、思考がおかしくなったか。
アレクは日頃あまり弱音を吐く男ではない。それを引き出すにはどうすれば良いのだろうか。何か俺が悩みでも打ち開ければ、心を開いて相談してくれるのではないだろうか。
ちょうど良いネタもある。
俺の中でほぼ心は決まっていて、どう断るか悩んでいる話ではあったが、遠征中で身動きの取れない今では状況が掴めず、保留にしていた件だ。親にも遠征任務中を理由に返事を待ってもらっている。
俺に、縁談が持ちかけられている事を話す前に、アレクの事を聞いてみた。
まだアレクは若いが、家柄が良いこともあって、沢山の縁談を持ちかけられたことがあるのだろう。しかしその返答は少し意外なものだった。
俺でさえ思春期に来た縁談は心浮かれ、多少なりとも浮き足立ったものだが、アレクは女性達の心の機微を細かく観察していたようだ。
美人が近寄ってきて甘い声をかけられれば男は誰でも靡きそうなものだが。縁談が多すぎた故の達観だろうか。
俺の意図に気づいたようで、俺に縁談が来ているのか聞いてきた。
胡散臭過ぎて断る方法に悩んでいる縁談だったが、それを打ち明けると、調べてみると言い出した。
俺としては今の俺の地位を妬んだ誰かの差し金で恥をかかせるための罠だと結論を出していたのだが。
縁談の相手がまさかアレクの知り合いだとは思いもしなかったが、冷静に考えれば、家柄の良いアレクなら顔も広いだろうし、そう言った情報も集まりやすいのかもしれない。爵位も違うし接点があると考えていなかったので、そう返ってくるとは思わなかった。
俺はただ、適当な悩みを打ち明けて逆にアレクの抱えている悩みを聞き出したかっただけなのだから。
こちらの話を終えて、また雑談に戻りはしたが、時折何かを話したそうな気配を感じて、それを待ってみたが、最後までアレクは口に出さなかった。
そんなにためらう内容なのだろうか。出来ればそう言った事も打ち明けてくれると嬉しいのだが。やはり、上官には言いづらいか。
---
しばらくして、アレクの兄だという男が遠征地に訪れた。アレクは遊びに来ただけだと言っていたが、外で忙しく立ち回るアイオライト殿を見ていると、とてもそうは見えなかった。
人脈の渡りをつけるためなのか、何か事業を考えているのか。情報として耳に入ってくる街や飲み屋での行動は聞き込み近いと感じた。
川沿いの建設も大方目処が立ち、天候が味方すれば予定通り完成しそれに伴って遠征も終わる。
その人々の動きを敏感に感じて、何か画策しているのだろうか。
何度か話をしてみたが、掴み所のない男だった。
ディーが妙に嫌っていたが、何故だろうか。
---
アレクと食堂で顔を合わせた折に、話があると言ってきた。何に関することかわからなかったが、珍しく思い詰めた顔をしていたので、何か重要なことなのかもしれない。
アレクが酒を手土産に部屋を訪れた。
素面では言えない話か?
一口煽ると、随分と美味い酒だった。こんな高価な物を手土産にするとは。
「で?話とはなんだ?」
「クレメンスさんからの縁談ですが」
「ああ」
「受けて良いと思います」
予想外の話だった。
俺の中ではもう終わった話だったからだ。
しかし、その辛そうな表情はなんだ?
それを問い質そうにも、アレクは縁談に裏がないこと、ロアーヌ嬢が俺に惚れたが故にこれほどの好条件となったこと、それらを畳み掛けるように伝えてきた。
アレクがこれ程言うのだ。そこに策略などは本当に無いのだろう。アレクの言葉は何一つ嘘でないと俺は何故か確信していた。そしてそれと同時に結婚を薦めてきたアレクに少しばかり幻滅していた。
いや、幻滅と言うのは失礼だろう。勝手に俺が勘違いしていたと言うだけの話だ。
俺は縁談の話などより、アレクの気持ちを知りたかった。その表情の下に抱えているものはなんだ。何故俺に言えない?何故言ってくれない?
用件が済むと足早に部屋を出たアレクを見送って、俺は少し自棄になった。何一つ始まってもいなければ、奴の思いがどんなものだったのかわからないまま。
結局、俺の片想いだった。ハッキリと自覚したのはたった今だが、それと同時に砕け散ったのだ。
テーブルに残ったウィスキーをもう一度口に含んでみても、美味くもなんともなかった。
---
俺は、直ぐ親に縁談を進めるよう手紙を送った。結婚なんて、誰が相手でも同じなのだ。
アレクが薦めるなら結婚でも何でもしてやる。
俺の返事をもって、早速縁談の話は進んだ。
中枢に戻ってからの顔合わせで本人達の意思を確認したら本決まりという予定だったが、アレクの言う通り相手がその気なら反故になることもないだろう。
その後、ロアーヌ嬢と会うようになってから、その反応を見たくてアレクを誘って報告を繰り返した。
我ながら最低な男だと思う。
アレクを使って、アレクへの想いを断ち切ろうと言うのだから。
俺がロアーヌ嬢の可愛いところを報告すれば、アレクは笑顔で返事をする。俺の惚気話を嬉しそうに聞く顔が無性に腹が立って彼女に関するどうでもいい話も、ほんの小さな出来事さえも細かく話した。
自分の気持ちを自覚してから一つ気づいたことがある。アレクと話しているときに時折見せる花を咲かせそうな笑顔、俺はそれを見るのが好きだ。
会うたびに湧き上がるこの気持ちに折り合いをつけようと考えるたび気持ちは更に募るばかりだった。
しかし俺は、そんな気持ちを携えたままロアーヌに会うのだ。
何と不誠実な男なのか。
自分でもこんな醜い感情が生まれたことに戸惑いがあった。
その内、将来の出世の話や子供のことまで嬉々として語るアレクに腹が立つと同時に、本当に俺の幸せを願ってくれていることが伝わってきた。
俺は、何か大きな勘違いしているのかもしれない。
程なくして俺達はそれぞれに昇級した。アレクは少尉に、俺は中尉に上がった。
アレクは短期間で俺の位置まで上がってくるだろうが、それ以上になるためには家柄だけでは難しいだろう。
俺が上がれたのはアレクを順当に昇級させたことに対する褒美のようなものだ。ロアーヌ嬢との婚約も一役買ったかもしれない。
アレクは昇級したことで態度の変わった隊員達に戸惑っているようだった。だがお前はこれからもっとそういう輩を相手に上へ上がって行かなければならない。今は辛いだろうが、早く慣れてどこかで折り合いをつけるしか無いのだ。
最近になって事あるごとに「隊長はずっと変わらないっすよね」と泣き言を言ってくるようになったが、それは直ぐに俺の言葉に変わるだろう。お前は俺を追い越していく男なのだから。
体制も新たになって半年ほど経った頃、いつものように俺の部屋に飲みに来ていたアレクに結婚式の招待状を渡した。
今の俺の部隊とアレクの部隊に関連がない事で呼ばれないと思っていたのか、書状を見て固まり、しばらくして嬉しそうな笑顔で「おめでとうございます」と告げてきた。
それから俺は更に忙しくなり、宿舎に戻れない日が増えた。実家に、ロアーヌ嬢の家に、上司への挨拶に。並行で今の仕事の確立に。
婚約者の家柄でのし上がった俺はやっかみも多かったが、隊にねじ込んだディーのおかげで多少楽もさせてもらえた。
ディーは幼なじみのいるこの部隊に移動したかっただけのようだ。全く、あいつは俺を利用するのがうまい。
上の部隊に来ても今までと変わりなく業務を遂行できるのだから、今までもそれくらい頑張って欲しかったよ。
今後の予定にも目途がついて久しぶりに宿舎へ戻ると、おかしな噂を耳にした。
この遠征もそろそろ終了する。
このまま順当に行けば、アレクは部隊を持つ事になる。それまでに終わらせなければいけない仕事と、アレクへの教育と作戦遂行、人員の移動など、ここのところ考えることが山積みだった。
悩ましいことが増えてディーに相談することも多かった。と言ってもあいつは俺の知らない隊員の事や上位部隊の動向を教えてくれるだけで、基本俺の邪魔をして楽しんでいるんだが。とはいえ、固まった思考を別の視点から見せてくれるのに良く役立っていた。
地味な悪戯をするのはやめてほしいところだがな。
ドアにノック音が響いて、アレクが来たようだった。しかし書類仕事がまだ終わっていない。
外で待たせるのも悪いと思って中に入るように言ったが、早く終わらせようと集中していたら、その存在をいつのまにか忘れていた。
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デスクに影がかかり、手元が暗くなったかと思ったらしばらくして影が動いた。ディーがまた地味な悪戯を。ちょうど良い。意見を聞いてみようか。
確か以前、四隊の情報を持っているようなことを言っていた気がする。
「今度、第四隊と人員のトレードが入る。お前はどの人員を出したらいいと思う?」
「え?」
ん?あ、まずった。そういえばさっきアレクを部屋に通したな。考え事していて忘れていた。
俺から誘ったにもかかわらず、結構待たせてしまったようだ。作業に適当な区切りをつけて終わらせた。
アレクと話せば少し気分転換にもなるだろう。
少し待たせすぎたのか、腹を空かせたのかアレクを見ると元気がなかった。
昼は少しガッツリ食えるところへ連れて行くか。
ハンバーグやウィンナーステーキの食える店に到着してもまだ少し表情が暗かったが、いきなり頷いたと思ったら表情が変わったので、飯が気に入ったのかと思って声をかけた。飯で機嫌よくなるとか、意外とかわいいところがあるな。
「なんだ?いきなり元気になったな」
「今日を楽しみたいっすから」
予想外の返事が返ってきて、アレクが何か思い悩んでいた事に気づいた。
何に悩んでいたのだろうか。俺といる事でその暗い顔を閉じ込めさせてしまったんだろうか。その悩みを打ち明けてはくれないのか?
俺はアレクのその態度に少しフラストレーションを感じた。
映写はとても切ない内容で、面白いものだった。
しかし、俺はと言うとさっき見せたアレクの表情が気になって、そのことをずっと考えていた。
この暗闇の中、アレクの手を取れば、少しは心の中を理解できるのだろうか。
いや、何を考えてる。男の、それも部下だぞ。俺も仕事疲れで、思考がおかしくなったか。
アレクは日頃あまり弱音を吐く男ではない。それを引き出すにはどうすれば良いのだろうか。何か俺が悩みでも打ち開ければ、心を開いて相談してくれるのではないだろうか。
ちょうど良いネタもある。
俺の中でほぼ心は決まっていて、どう断るか悩んでいる話ではあったが、遠征中で身動きの取れない今では状況が掴めず、保留にしていた件だ。親にも遠征任務中を理由に返事を待ってもらっている。
俺に、縁談が持ちかけられている事を話す前に、アレクの事を聞いてみた。
まだアレクは若いが、家柄が良いこともあって、沢山の縁談を持ちかけられたことがあるのだろう。しかしその返答は少し意外なものだった。
俺でさえ思春期に来た縁談は心浮かれ、多少なりとも浮き足立ったものだが、アレクは女性達の心の機微を細かく観察していたようだ。
美人が近寄ってきて甘い声をかけられれば男は誰でも靡きそうなものだが。縁談が多すぎた故の達観だろうか。
俺の意図に気づいたようで、俺に縁談が来ているのか聞いてきた。
胡散臭過ぎて断る方法に悩んでいる縁談だったが、それを打ち明けると、調べてみると言い出した。
俺としては今の俺の地位を妬んだ誰かの差し金で恥をかかせるための罠だと結論を出していたのだが。
縁談の相手がまさかアレクの知り合いだとは思いもしなかったが、冷静に考えれば、家柄の良いアレクなら顔も広いだろうし、そう言った情報も集まりやすいのかもしれない。爵位も違うし接点があると考えていなかったので、そう返ってくるとは思わなかった。
俺はただ、適当な悩みを打ち明けて逆にアレクの抱えている悩みを聞き出したかっただけなのだから。
こちらの話を終えて、また雑談に戻りはしたが、時折何かを話したそうな気配を感じて、それを待ってみたが、最後までアレクは口に出さなかった。
そんなにためらう内容なのだろうか。出来ればそう言った事も打ち明けてくれると嬉しいのだが。やはり、上官には言いづらいか。
---
しばらくして、アレクの兄だという男が遠征地に訪れた。アレクは遊びに来ただけだと言っていたが、外で忙しく立ち回るアイオライト殿を見ていると、とてもそうは見えなかった。
人脈の渡りをつけるためなのか、何か事業を考えているのか。情報として耳に入ってくる街や飲み屋での行動は聞き込み近いと感じた。
川沿いの建設も大方目処が立ち、天候が味方すれば予定通り完成しそれに伴って遠征も終わる。
その人々の動きを敏感に感じて、何か画策しているのだろうか。
何度か話をしてみたが、掴み所のない男だった。
ディーが妙に嫌っていたが、何故だろうか。
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アレクと食堂で顔を合わせた折に、話があると言ってきた。何に関することかわからなかったが、珍しく思い詰めた顔をしていたので、何か重要なことなのかもしれない。
アレクが酒を手土産に部屋を訪れた。
素面では言えない話か?
一口煽ると、随分と美味い酒だった。こんな高価な物を手土産にするとは。
「で?話とはなんだ?」
「クレメンスさんからの縁談ですが」
「ああ」
「受けて良いと思います」
予想外の話だった。
俺の中ではもう終わった話だったからだ。
しかし、その辛そうな表情はなんだ?
それを問い質そうにも、アレクは縁談に裏がないこと、ロアーヌ嬢が俺に惚れたが故にこれほどの好条件となったこと、それらを畳み掛けるように伝えてきた。
アレクがこれ程言うのだ。そこに策略などは本当に無いのだろう。アレクの言葉は何一つ嘘でないと俺は何故か確信していた。そしてそれと同時に結婚を薦めてきたアレクに少しばかり幻滅していた。
いや、幻滅と言うのは失礼だろう。勝手に俺が勘違いしていたと言うだけの話だ。
俺は縁談の話などより、アレクの気持ちを知りたかった。その表情の下に抱えているものはなんだ。何故俺に言えない?何故言ってくれない?
用件が済むと足早に部屋を出たアレクを見送って、俺は少し自棄になった。何一つ始まってもいなければ、奴の思いがどんなものだったのかわからないまま。
結局、俺の片想いだった。ハッキリと自覚したのはたった今だが、それと同時に砕け散ったのだ。
テーブルに残ったウィスキーをもう一度口に含んでみても、美味くもなんともなかった。
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俺は、直ぐ親に縁談を進めるよう手紙を送った。結婚なんて、誰が相手でも同じなのだ。
アレクが薦めるなら結婚でも何でもしてやる。
俺の返事をもって、早速縁談の話は進んだ。
中枢に戻ってからの顔合わせで本人達の意思を確認したら本決まりという予定だったが、アレクの言う通り相手がその気なら反故になることもないだろう。
その後、ロアーヌ嬢と会うようになってから、その反応を見たくてアレクを誘って報告を繰り返した。
我ながら最低な男だと思う。
アレクを使って、アレクへの想いを断ち切ろうと言うのだから。
俺がロアーヌ嬢の可愛いところを報告すれば、アレクは笑顔で返事をする。俺の惚気話を嬉しそうに聞く顔が無性に腹が立って彼女に関するどうでもいい話も、ほんの小さな出来事さえも細かく話した。
自分の気持ちを自覚してから一つ気づいたことがある。アレクと話しているときに時折見せる花を咲かせそうな笑顔、俺はそれを見るのが好きだ。
会うたびに湧き上がるこの気持ちに折り合いをつけようと考えるたび気持ちは更に募るばかりだった。
しかし俺は、そんな気持ちを携えたままロアーヌに会うのだ。
何と不誠実な男なのか。
自分でもこんな醜い感情が生まれたことに戸惑いがあった。
その内、将来の出世の話や子供のことまで嬉々として語るアレクに腹が立つと同時に、本当に俺の幸せを願ってくれていることが伝わってきた。
俺は、何か大きな勘違いしているのかもしれない。
程なくして俺達はそれぞれに昇級した。アレクは少尉に、俺は中尉に上がった。
アレクは短期間で俺の位置まで上がってくるだろうが、それ以上になるためには家柄だけでは難しいだろう。
俺が上がれたのはアレクを順当に昇級させたことに対する褒美のようなものだ。ロアーヌ嬢との婚約も一役買ったかもしれない。
アレクは昇級したことで態度の変わった隊員達に戸惑っているようだった。だがお前はこれからもっとそういう輩を相手に上へ上がって行かなければならない。今は辛いだろうが、早く慣れてどこかで折り合いをつけるしか無いのだ。
最近になって事あるごとに「隊長はずっと変わらないっすよね」と泣き言を言ってくるようになったが、それは直ぐに俺の言葉に変わるだろう。お前は俺を追い越していく男なのだから。
体制も新たになって半年ほど経った頃、いつものように俺の部屋に飲みに来ていたアレクに結婚式の招待状を渡した。
今の俺の部隊とアレクの部隊に関連がない事で呼ばれないと思っていたのか、書状を見て固まり、しばらくして嬉しそうな笑顔で「おめでとうございます」と告げてきた。
それから俺は更に忙しくなり、宿舎に戻れない日が増えた。実家に、ロアーヌ嬢の家に、上司への挨拶に。並行で今の仕事の確立に。
婚約者の家柄でのし上がった俺はやっかみも多かったが、隊にねじ込んだディーのおかげで多少楽もさせてもらえた。
ディーは幼なじみのいるこの部隊に移動したかっただけのようだ。全く、あいつは俺を利用するのがうまい。
上の部隊に来ても今までと変わりなく業務を遂行できるのだから、今までもそれくらい頑張って欲しかったよ。
今後の予定にも目途がついて久しぶりに宿舎へ戻ると、おかしな噂を耳にした。
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