Pieces of Memory ~記憶の断片の黙示録~

橋本健太

文字の大きさ
上 下
175 / 229
第5章 六凶編 VS ブラッディマリア・ブルードラグーン

第174話 ドキュメンタリーin香港

しおりを挟む
 ウォン・クーシェンは、1970年6月16日中国北京市で生まれた。当時、中国では、権力奪還を狙った毛沢東が、国中の学生や青年達をけしかけ、プロレタリア文化大革命を発動。学生達は過激化し、紅衛兵と呼ばれ、各地で破壊・暴動・殺戮を繰り返した。現在の名前は、香港での広東語の読みである。アジアでは、ベトナム戦争が起きており、中国も援軍を送っていた。1975年にベトナム戦争が終結、1979年に毛沢東が死去。それに伴い、文化大革命は終結した。貧しい状態の中国の現状を憂い、1980年に一家で香港に移住。1980年代、香港は経済発展し、韓国・台湾・シンガポールと並び、アジア四小龍と呼ばれた。現地の学校に通うウォンは、広東語も達者で頭脳明晰。香港の文化になじんだ。
「茶餐店もいい雰囲気だな。」
1980年代、香港映画は全盛期を迎えた。尹彪(ユンピョウ)、洪金寶(サモハン・キンポー)、陳港生(ジャッキー・チェン)などのアクションスターが現れ、特にジャッキー・チェンのコミカル×命がけのアクションは見る者を魅了した。
「「「ポリスストーリー 香港国際警察」」カッコいいな。」
映画の影響で、香港警察に憧れを抱くようになった。

 1993年、ウォンは猛勉強の末、香港警察から内定獲得。念願の警察官になることが出来た。当時の香港は経済発展していたが、九龍城砦というスラム街があり、黒社会の首都と言われた時期があって、治安は改善点があった。ウォンは、来る日も来る日も、香港市民と香港の平和のために、日々、警察官としての職務に勤しんだ。
「重慶大廈、予想以上にカオスだな。」
「お嬢さん、こんな時間まで遊んでたらダメだよ!」
九龍城砦の取り壊しが決まり、スラム街は跡形もなく消えた。1997年に香港返還で、中国に返還された。一国二制度が保障されるが、中国の影響が及ぶことを懸念していた。警官として働き続けたが、昇進試験は悉く不合格で、出世から程遠かった。ジャッキー・チェンの「ポリスストーリー 香港国際警察」で憧れて入った香港警察だが、ヒーローは思っていたより地味で、今では汚職が取り締まられているが、黒社会と癒着していることを知ってしまい、失望に駆られた。
(俺が憧れたヒーローは、こんなものじゃなかったのに…。何だよ、俺は何のために…。)
段々と憂鬱になり、2001年に香港警察を退職した。

 同年夏、茶餐店でアルバイトをしながら、次の道を探していた。香港で「少林サッカー」が公開されており、こんな風なサクセスストーリーが自分にも起こるかな、と少し夢を見ていた。ある日、仕事が休みなので、九龍公園で武術の特訓をしていると、1人の辮髪風の男を見た。往年のブルース・リーを彷彿とさせるような身のこなしで、軽々とヌンチャクを振っていた。高速の蹴りや正拳、どれをとっても凄腕の拳法家だと感じた。
「スゴいな!!!」
ウォンが近寄ると、彼は中国での決まり文句を口にした。
「吃飯了?」(チーファンラ?)
これは、「ご飯は食べましたか?」転じて、日本語でもある「飯食ったか?」というフレーズ。流暢な北京語を話す彼。香港は広東語で、北京語と広東語は別の言語である。
「吃飯了!」
「尓好!我是陳青鴻。」(ニーハオ!ウォーシーチェンチンホン。) (こんにちは!私は陳青鴻です。)
「ネイホウ!ンゴハイ ウォン・クーシェン!」(こんにちは!私はウォン・クーシェンです!)
陳は拳法家、ウォンは元警官。最低限格闘技は嗜んでいる。手合わせ願いたい、という意思が湧いた。
「戦うか?」
「いいだろう。」
互いに構える。ウォンの頭の中で「ポリスストーリー 香港国際警察」の主題歌が流れ出す。

 ウォンが正拳を放つと、陳は軽くかわし、上段蹴りを放つ。ウォンもすかさず防ぎ、下段蹴りで攻める。「ポリスストーリー 香港国際警察」の終盤 デパートでの乱闘シーンさながらの速いテンポで攻撃の応酬。目にも留まらぬ蹴りと正拳だが、陳の方が強い。圧倒されたウォンはノックアウト。
「ハァハァ…。中々やるな。」
手を差し伸べる陳。
「私の家に来るか?」
九龍にある陳の家で昼食をいただく。海老餃子・肉まん・焼きシャコ、と広東料理を振る舞った。
「美味い!中々の腕前だな!」
「酔拳2」のジャッキー・チェン並みに貪り食う。陳は広州で点心師としても活動しており、香港でも飲茶の店で働いていた。
「私も、香港の料理は好きだ。」
「あんたは、何で広州から香港へ来たんですか?」
「まぁ、チャレンジだ。ウォンは、何の仕事をしてるんだ?」
「俺は、香港警察としてやってたんだ。だけども、俺の憧れたヒーローはそれじゃない、って感じたんだ。」
陳はお茶を飲み干して答えた。
「警察は公権力だからな。警察より探偵の方がいいか。」
「探偵?それだ!!!」
ウォンと陳は意気投合した。探偵になるために必要な準備を勧めて行った。

 2002年6月、17th2002FIFAW杯日韓大会が開幕。日本と韓国で熱戦が繰り広げられていた頃、香港でウォンと陳の挑戦が始まった。2人で金を出し合い、旺角にある探偵学校に入学。そこで、尾行などの探偵の基本を学んだ。探偵目指して就職活動に勤しむ。それまでの収入源は、油麻地にある男人街に出店を出して、そこで稼いでいた。
「香港では、出前一丁店に出すのか?」
「結構イケるぞ。」
2003年夏、2人は探偵事務所に就職出来た。九龍の繁華街 尖沙咀にある事務所。所長は30代の女性。黒髪ロングのセクシーな様に、2人はたじろいだ。
「ネイホウ!私は、所長のリリー・ラム。よろしく。」
探偵としての最初の依頼は、重慶大廈での謎の女子高生達の調査。
「何だこの複雑な建物…。」
「重慶大廈という雑居ビルだ。下にインド系の人がいっぱいいる。」
複雑な重慶大廈を歩き回り、棟内で何か売ってる女子高生を見つけた。
「グラビア撮ってね~。」
横の女の子はビキニを着ている。撮影会をやっているようだ。
「君達、未成年だろ?そんなことしちゃダメだよ。」
ウォンは、女子高生にメロメロになっていた。
「「「恋する惑星」」なのか?」
出ようとすると、迷子になってしまい、リリーに迎えに来てもらった。
「何をやってるの?全くしょうがないわね。」
「やっと出られた。」
「九龍城砦みたいだな。」

 ウォンと陳は、探偵としての勤務に励み、毎日刺激的な日々を送っていた。
「カジノやりてぇ~!!」
「無一文になるわ。止めときなさい。」
時には海外に赴くこともあった。
「アメリカだー!!」
「はぐれるなよ。ウォン。」
共に笑い、共に泣き、共に喜び、共に切磋琢磨した。
「徐歩高、とんでもないな。」
「アイツ、色々問題児だったからな。」
カンフーの特訓にも励んだ。
「ウォン、大分強くなったな!」
「「「ベストキッド」」みたいだ!!」
しかし、2010年になると、陳は精神的に病んでしまい、ウォンも悩んだ。翌年、陳は台湾に移住。ウォンはその後も探偵事務所で働き続けた。2022年に独立。自分で探偵事務所を立ち上げた。
「さて、若い子に来てもらいたいな。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Strawberry Film

橋本健太
現代文学
「写真と言うのは、人の人生の中の、ほんの少しの断片を切り取ったもの。後で見た時に、美しいと思えるようにするもの。カメラマンっていうのは、そういう仕事さ。」 その一心で、ある時はグラビア専門のカメラマンとして、何人もの少女の写真を撮り、イメージビデオ作成に貢献し、写真集も出した。またある時はジャーナリストとして、海外に赴き、テレビで放送されない真実を撮影し、報道してきた。いつしか大物になった彼は、地元の京都に芸能事務所 Strawberry Milkを立ち上げ、多くの夢見る少女達の背中を押し、才能を引き出して、花を咲かせた。 この物語の主人公 香塚 薫(1974~2019)は、京都府出身のカメラマンである。これは、彼の生涯と彼が遺した写真集やイメージビデオ、また、撮影してきたものにまつわる物語である。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

こんな夢見ちゃったよ

鶴山葵土
大衆娯楽
アニヲタである筆者がその日見た夢を覗いてみませんか?

声劇・シチュボ台本たち

ぐーすか
大衆娯楽
フリー台本たちです。 声劇、ボイスドラマ、シチュエーションボイス、朗読などにご使用ください。 使用許可不要です。(配信、商用、収益化などの際は 作者表記:ぐーすか を添えてください。できれば一報いただけると助かります) 自作発言・過度な改変は許可していません。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...