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第4章 六凶編 VS 百鬼夜行之衆・猛毒獣大陸

第138話 潜入信

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   雅文と真帆は、受付を通り、世界T教会神戸支部の建物の中に入る。入信の儀式があり、2人は別室に案内された。そこは更衣室で、一度裸になり、白いガウンに着替えた。着替えてから、洗礼の間と書かれた部屋に入る。そこには、浴槽のようなものがあり、中央には白い十字架が建っている。
「では、これより世界T教会入信の儀 洗礼を行います。」
ガウンを脱ぎ、裸になった2人は案内人の前で跪き、両腕を胸の前に交差する。
(一体何をするんや?)
(洗礼は、キリスト教の儀式よ。裸って、乳幼児やないのに…。)
宗教に疎い雅文は、あまりピンと来ていないが、世界三大宗教に詳しい真帆は、既に違和感を抱いていた。そこに、案内人とは一回り若い青年が現れ、桶に水を入れ、2人の頭から冷水をかけた。
(冷たっ!)
(洗礼というより、拷問だわ。)
洗礼を終え、身体を拭いてもらい、下着をつけて、白い服に着替える。

   2階に上がり、講話室という部屋に入ると、数人の信者達が中におり、独特な雰囲気が漂っていた。老若男女問わず約15人はいた。皆、白い服に身を包んでいる。どことなく、かつてのオウム真理教を彷彿とさせるカルト集団という感じは、うっすらだが2人は感じていた。しばらくすると、部屋の電気が消え、薄暗くなった所に教壇へスポットライトが当てられた。そこには、胸元に何かの勲章のようなバッジが数個ついた白装束を着た、他の信者とは格が違う者がいた。黒髪で細身の40代ぐらいの男性。彼はマイクを持ち、皆の前で話し始めた。
「皆さん、こんばんは。教祖の嶋村忠芳(ただよし)、またの名を、マンジュマン。」
後ろに座っていた真帆は、思わず吹き出しそうになった。
(マンジュって、それは仏教の菩薩や…。ツギハギみたいね。)
「今日からは、月に一度の合宿です。3日間で魂のレベルを引き上げて行きます。今、ここにいる15人のうち5人は出家し、上のステージへ参りました。残りの者達も、この3日間で、出家のステージへ参りましょう!」
雅文は信者達を注意深く観察し、出家した者には胸元にバッジがついていた。出家ということは、世俗を離れ、金を納めて、その宗教の世界に入ることである。90年代に日本を震撼させたオウム真理教も、信者を出家させ、世間から切り離して、サティアンという居住区に閉じ籠もり、テロリズムに走った。もし、世界T教会が六凶のいずれかと繋がっていたら、テロリズムに走るに違いない。それを阻止することも兼ねて、3日間の合宿の中で、調査を行う。

   教祖のマンジュは、後ろにいた2人を教壇に招き、皆の前で紹介する。 
「今日は、この世界T教会神戸支部に入信希望者が、2人も来ました。」
2人は信者達の前で、自己紹介をする。
「神田雅文と申します。」
「桜木真帆と申します。」
自己紹介を済ませ、修業に入る。部屋を薄暗くし、人数分の蝋燭を挿した台が運び入れられた。火を灯し、信者達がT教会の理念に基づいて、宣言を行った。次に、五体投地で礼拝を行い、1日目の修業は終了。洗礼を済ませた2人と出家した信者を除いて、他の信者と教祖は入浴した。夕食が出来るまでの間、2人はここまでのことをメモに取り、所長にLINEを送った。しばらく経ち、夕食が出来た、というので皆は1階の食堂に集まった。長いテーブルに1人1人の料理が置かれ、1番奥には教祖が座っている。 夕食は、ライ麦パン・塩茹でのジャガイモ・ラム肉のステーキ・オニオンスープ、ドリンクは牛乳とまぁまぁ良いものである。
「では、皆よ。今日の恵みに感謝して、いただこう。」
祈りを捧げていただく。皆、黙々と食べ、どこか異様な雰囲気があった。
(白装束といい、どこか不気味やな…。)
(カルトの典型的なパターンね…。)
夕食を済ませ、一同は経典を読み、修業をしていた。21時になり、他の信者達は大部屋に布団を敷いて就寝した。一方、教祖と出家した5人の信者は、教会の戸締まりをして、夜の闇に包まれたポートアイランドを歩く。雅文と真帆も、そっと窓から抜け出し、盗聴器を持って跡をつける。

   教祖を先頭に、白装束に身を包んだ一同は、蝋燭を持って夜の闇を進む。しばらく進み、公園に着いた。そこで、刀や銃を用いた特訓を始めた。
「出家した信者に、武術を身につけさせ、テロリズムに走らせるという訳やな…。」
「原理主義を貫こうとするには、テロ行為に走る場合があるわ。」
草むらに隠れて、この様子をスマホで撮影する。信者の中に、一際可愛らしい女子がいた。黒髪ショートであどけない童顔の子。日本刀を振っている。
「あの子、気になるな…。」
「可愛いですもんね。」
一同が戻る前に、2人は教会に戻った。その後、教祖と出家した信者達は、教会に戻って入浴し、他の者は就寝した。そのうち、先程の女子と熟年の女性が、教祖に呼ばれた。
「週に1回の、愛の儀式や。」
「教祖様、楽しみです♪」
女子は、ウキウキした様子である。
「ひかりは、好きやねんな。」
3人は2階の教祖の部屋に行く。2人は先回りして、ドアの前に盗聴器を仕掛け、小型カメラを設置して、大部屋に戻って就寝した。

   その頃、部屋では教祖との愛の儀式が始まった。蝋燭を灯し、祈りを捧げる。ベッドに上がり、互いに裸になり、口づけをかわす。艶かしい喘ぎ声がし、性交に興じる。
「あぁ…。教祖様!気持ちいいです!!」
「ひかりちゃん、またの名を、シヴァニャンよ。君は、我らの期待の星や。たっぷりと愛を注ぐよ。」
「ひかり、それでこそ私の娘よ。」
「ウフフ、ママ大好き🖤。」
女子は嬉々として、ママに口づけをした。
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